欠乏故の渇望
いっそ死んでしまおうと思うなら、何をしたっていいよなぁ、とぼんやり思う。泥棒をして、きらいなあいつらを殺して、この世の悪行を尽くして、そうして誰からも見放されて軽蔑されて。そうしたらたったの一人で静かに死ねる。死を惜しむ人もいない。むしろ誰も彼も幸せになる死だ。まぁ、少しの憎しみを残しはするだろうけど。…それは中々に愉快だなぁ。

なーんて。唇の端を吊り上げようとして、動かない。いつの間にか表情などといったものは消えていたようだ。

仕方がない。そんなことをするのも面倒臭いのだ、もう。人の道を外れて、ごろごろ、息苦しさを抱えながら死にゆくのは、いっその事すてきだ。ただそんな気力はもう残っていなかった。
死にたい、とは考えるのものの、痛いのは嫌だし。方法を考えようと思うことすら億劫だ。人の底辺にいる。

全部を遮断して、睡眠や食事や娯楽の中に逃げ込んでいたい。なんて楽な生き方だろうか。

眠ってしまえば、何をしなくたって、幸せな夢を見るし、夢を見なくても現実を暫くの間思い出さずにいられる。悪夢を見たとしても、それだって所詮は夢だ。醒めたら忘れたらいい。

美味しいものを食べるのはいつだって楽しい。空っぽの心を満たすように、食生活など何も考えず、食べたい時にあるものを食べたいだけ食べたら、満腹になる。甘いものなんて、特にいい。気持ちわるいくらいに甘ったるいチョコレートを、好きなだけ胃袋へ詰め込んでも、誰にも怒られなかったりするんだ。

ふ、と本を開けば、そこは別の世界だ。インターネットの波に乗るのもいいし、ゲームに熱中するのもいい。自分はただ淡々とそれを進めればいい。それだけで、人生の全てを体験できてしまう。幸せなことも不幸せなことも、全部、自分の心に落ちてくる。それは、普通に人生を送っている時に感じる気持ちと、何の違いがあるだろう。どうせ出来事は形に残ったりしないのだから、娯楽の媒体を通して体験したって、何の変わりもないではないか。

あぁ、そうだ。僕は間違っていないんだ。

まぁこの楽しみも他の人間が人生を頑張っているから生まれたものではあるけど。でも僕はそんな生産的な才能はないから。別にいいんだ。
こうして箱の中で過ごしたって誰に迷惑を掛ける訳じゃない。外に出たら辛いことはたくさんあるけど、ここなら楽しいことしかない。先のことなんて考えなくていい。いっそ死んでもいいと思っているんだから、生きていけなくなったら死ねばいい。

最高だ。堕落した日々は、どんなに素晴らしいことか。

他の人間たちが重い体を動かして、軋む頭を働かせて、必死にそれぞれの場所で自分を保って生きている間に、僕は何にも支配されずに、ただゆらゆらと生きているんだ。
綺麗事なんかいらない。自らの身で何もかもを体験する必要なんてどこにあるんだ。こうして楽ちんに生きた方がずっといい。ずっとだ。
ずっと僕はこうして生きたい。それが叶わないのなら、死んでしまいたい。
素晴らしいな。すばらしい。

そんな、自分が自分である意味がないような生活を、僕は、少々悲しみながらも、ただし強く望んでいるのだ。






bkm
Top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -