憂鬱な俺とロープの馴れ初め的な事象
近くの大型百貨店で、ロープは売っていた。なんとなく、目について、買ってしまった。
ぐるりとわっかを作って天井からぶら下げてみた。くだらない。死ぬ気もないくせに自殺ごっこだ。

「死んじゃおうかな」

唇から滑り落ちた言葉は、何の余韻も残さずに消える。当たり前だ。感情が何もこもっていない空っぽの言葉なんだから。
それにこのロープじゃ死ねない。足が床についているのに、輪っかは顔の前にあるのだ。これじゃぶらさがれない。輪っかの作り方も分からなかったから適当に結んだだけだし、天井にもきちんと掛かっていないし。

「なにやってるんだろ」

嘆息。貴重な休日を無駄にしてしまった。なんともいえない虚無感に包まれる。
指先でロープをいじる。カサカサとした感触が指の腹を撫でた。あまりいい手触りではない。
でも、なんだか落ち着く。暫く触っていたら、愛着が湧いてきてしまった。

「部屋につけておこうかな、これ。邪魔にはならないだろ…」

インテリアみたいなものだ。別に構わないだろう。それに逃げ道があった方が、楽というものだ。まぁ自殺道具としては欠陥品だけど。
一人暮らしを始めたばかりの部屋は殺風景で、寂しかったからちょうどいい。

「これからよろしくな」

とんとん、と輪っかの下の方を叩いた。ゆらゆら揺れて、返事をしているみたいだ。ちょっとかわいい。いや、かわいいってなんだ。かわいくはない。少しだけ、和んだだけだ。

そうして俺とロープの二人暮らしは始まった。





bkm
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