忘れ事スープは君へ
スープを作ろう!作らなければ!
女の子は、唐突にそう思い、そうすることを決めました。急いで立ち上ります。思い立ったらすぐ行動です。
うきうきと仕度を始め、お気に入りの靴と鞄をもって、扉を開きました。
「いってきまーす」
これから、近くのお店にお買い物です。
「トマトのスープがいいかなぁ。コンソメかな、コーンかな」
考えながらお買い物をするのは楽しいです。たくさん野菜を買いました。
それから重たい袋をもって、帰ってきます。袋の中に入っていた野菜たちは、冷蔵庫にしまっていきました。
「えーと、なんだっけ」
"今日はスープがいいな"と机の上に置かれたメモを見て、思い出しました。野菜のいろどりに夢中になっていたら、最初の目的を忘れてしまうなんて、よくあることです。
「そうそう。スープを作るのね。それなら鍋を用意しなくちゃ」
癖のある君の字、何故だか紙が少し古びていたけれど、そんなのは気にしなくていいわね。君のリクエスト、叶えてあげなきゃ。
せっかくだから、大きな鍋を取り出しました。
「もう忘れていないわよ。スープを作りましょう」
冷蔵庫をあけると、色とりどりの野菜が入っていました。野菜なんてあったっけ?ああ、そういえば、君が前にたくさんもらってきてくれていたの、残っていたのかしら。
「ラッキー!ちょうどたくさん野菜があるなら、野菜のスープにしましょう」
にんじん、じゃがいも、たまねぎ、トマト…色んな野菜を取り出しました。
じゃぶじゃぶ水で綺麗に洗って、トントン包丁で綺麗に切っていきます。
さて、何を作りましょうか。
「えっと、ああそうだった。スープを作るのね」
大きな鍋を、なぜか出しっ放しにしていたみたい。これを使いましょう。
「お湯をはって、ぐつぐつぐつぐつ」
ぐつぐつぐつ
「ぐつぐつ」
いい感じかしらね。ぱらぱら塩と胡椒と、シンプルに味付けしたら。
「おしまい!」
お皿に盛り付けましょう。私のおうちにはたくさんのお皿があるの。どんなお皿がいいかなあ。ふたつ、お椀を探さなきゃ。
「よし、これがいいわね」
鍋のところに向かいます。
「さてさて、今日は何を作ったんだっけ」
机の上にメモがありました。
「そうそう、スープ。スープを作ったんだわ」
鍋の中には、たくさん野菜が入った、美味しそうなあたたかいスープ。私の手にはお気に入りの器がふたつ。あれ、このお皿はいつ持っていたんだっけ。
このスープを作ったのは誰なの?
なに言っているの、私に決まっているじゃない。…、本当に?
おかしいなあ、思い出せない。わからない。おかしいなあ。
それに、ごはん時なのに、君はどこに行っちゃったの?そろそろ帰ってくる頃よね。一緒にスープ食べましょうよ、待っているのよ君をずっと。
女の子は、今日もスープの前でひとり泣いていました。君はいつまでも帰ってこない、時間はいつからか止まったまま。




bkm
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