捨て台詞(ただの告白)を吐き捨て逃げ出した昼休み。…からの午後の授業はまったく集中できなかった。指とか口とか…ちゅーされた感覚が、残って、う…恥ずかしい。しかも人差し指、キスじゃなくて吸われ……っ。あの人えろい人です。男子高校生怖い男はみんな狼なのね怖い怖い。
…そっと、人差し指を唇に添える。

………
……


ひぇあああああああ!!
帰ろう、もう帰ろうまっすぐ帰ってお布団かぶって夢の世界へおさらばすればきっと忘れる。教科書を無造作にバッグに詰め込み、スタスタと教室をでる…前に安全確認。右よーし、左よーしオールクリア。よっしゃダッシュするんだ捕まるんじゃないぞ私!下駄箱の前で待ち伏せされていても上履きで帰るくらいの覚悟はできている。大丈夫だ、問題ない。と、下駄箱へ行っても誰もいなかった。考え過ぎだったか…いや、もしかしたら校門で待ち伏せられているかも…?なんて思いながらちゃんと正面校門から出て…赤葦京治君とは遭遇しなかった。…あれ?拍子抜け。…なんだ、居ないのか。ふーん。そっかそっか、そうだよね。
そういえば赤葦京治君はバレー部っていう噂だし。運動できてイケメンで、もしかしたら先輩おねーさま方にはモテモテかもしれないよね。私の学年ではアレだとして。そっかそっか、ふーん。




なんで私はこんなにむかむかするのだろうか。


「エリー、私どうしちゃったんだろうね」

家の近くでエリーに出会う。「しらんにゃ」というようにべしっと尻尾で手を叩かれた。そのままスタスタと塀の上を歩いて山田さん家のお庭に行ってしまった。エリーが冷たい。
烏丸弥生、恋に悩む17歳。自分の気持ちがついて行っていないけど、どうやら結構深い所まで落ちているらしい。逃げたくせに会いたいなんて思っちゃう…乙女ですか私は。







その日は早く寝て(まさかの20:00睡眠)、次の日まさかの6時に起きてしまった。もやもやは減ったけど、忘れる事は無かった。7時に家を出る。「…あんた、病院行った方がいいんじゃない?」とママンにありえないという目を向けられた。早起きするとこういう反応されるからげせぬ。朝御飯は途中のコンビニで買って教室で食べるよ。今日はコンビニのフレンチトースト気分です。学校を遠回りしてわざわざコンビニに行き、お目当てのフレンチトーストを買う。あ、クリームパン新作だ。コンビニパンとスイーツ最近頑張ってる。さらにプチシューを買って学校へと向かった。



「弥生」

わぁ、待ち伏せされてた。私寝坊遅刻常習犯なのによく下駄箱前で待ってようと思ったなぁ…赤葦京治君。目が揺れる赤葦京治君に首を傾げる。

「昨日、放課後弥生捕まえようとしたらこっちのSHR長引くし、終わってクラス飛び出したらもう7組ほとんど人いないし木兎さんに引き摺られて弥生追いかけられずに部活させられるし、部活でめちゃくちゃミスるし」

おうおう、しゃべる喋る。こんなに喋るんだ赤葦京治君って。「俺弥生の連絡先しらないし」とまだまだ続く。まだほとんど人が居ない下駄箱で赤葦京治君の声だけが響く。取り敢えず聞きながら靴を脱ぎ上履きに履き替えると「聞いてる?」と首を傾げられた。聞いてる聞いてる。「で、さ。昨日のアレだけど」ばしっと腕を捕まえられた。昨日のアレ…アレ…。英語の発音が超アレだったやつですか。

「一番最初、俺が告白したとき」

あれは告白じゃない、と声をあげたい。異を唱えたい。笑った顔見るまで私は気が付かなかったのだから。

「弥生わかってないんだろうな、ってわかってた」

まさかの確信犯…

「知ってた。でも、ちょっとずつでいいから俺の事知ってほしかったし、堕ちてほしかった。名前呼んでもらって、声聞いたらちょっと我慢できなくなったんだけど、それでも一回は我慢して…でもごめん。我慢できなかった」

弥生ねこみたいで可愛くてつい、なんて赤葦京治君は零した。確かにエリーになった気分だとは思ったけども!ていうか我慢できなくなったって怖い!声聞いただけで我慢が切れそうとかなんなの。

「2回目は煽るし」
「………煽ってないってば」
「あ、今日初めて声聞いた」

お話途中でふわり笑う赤葦京治君、ちくしょう可愛い笑顔だちくしょう。お口ミッフィーちゃんにするぞこのやろう。
するり、赤葦京治君の手が私の頬を撫でる。そんなに、愛おしそうに撫でないでよ。

「煽るから、本気で止められなくなったし。あんなに名前呼ぶとかほんと反則可愛すぎ。泣きながら、なんか告白みたいなの捨て台詞に逃げるし」

ねぇ、と赤葦京治君の顔が近づく。おでことおでこがぶつかる。遠くで、部活練する学生の声が聞こえる。

「俺に堕ちたって捉えていいんだよな?」

吐息が、掠る。目が熱くなる。
私は口を開く。声、ちゃんと出るかな。

「京治君って、ほんと私の事大好きだよね」

きょとんとする赤葦京治君。あ、ごめんなさいこんなこと言うつもりじゃなかったんです違うんです。なんという自意識過剰人間なんでしょう、死んできます。口元が引き攣る。笑い声でもあげてしまいそうだ、それもとびっきり不気味な。
そんな私の心情はお構いなしに赤葦京治君は笑う。それはもう愛おしそうに。今度は両手で顔を包まれた。手おっきいなぁもう。

「当然」

雷が、おちました。もうだめです。キャパオーバーですショートです。ぽたぽた涙が零れ堕ちる。うぁ、ああ…と、途切れ途切れの嗚咽。

「こ、こくはくされて…たった1日で堕ちちゃう人間ですが…っ」
「早く堕ちてくれないと困る。こっちは片思い歴長かったんだから」
「し、しらないしっ」
「だろうね」
「うう…っ」

ぎゅっと制服のスカートを握りしめる。頬は赤葦京治君の手に囚われ、私の逃げ場はない。触れるくらい近い顔。こんなの、誰かに見られたら羞恥でしんでしまう。突き飛ばして、逃げちゃおう。でも、そんな思い(嘘)に反して、私の手は京治君の、頬へ。

「す き…、信じ…られないくらいに、けいじくんが すき…っ」
「そっか」

…ん?え…。そっか。ってそれだけ?
なんて思ってたらがぶり





私の唇は狼にたべられた。


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