烏丸弥生は無口無表情である。
友達と呼べるような友達もほぼ居らず、クラスではいつも独りでいた。周りはそんな様子を気に掛ける事もなく、当本人も全く気にしていなかった。
無口無表情ではあるが、空気は読めるし手際も良い。授業中のグループ課題も(無言ではあるが)積極的であったし(黙々と自分の意見を書いてはメモを見せる)、掃除なんかも素早く綺麗に。(無言で背後に立たれて肩を叩かれるのは多少ビビるが)困っていたら手を貸してくれる。クラス全員が「無口だけど良い子」とインプットしていた。
そんな人畜無害少女がクラス中を震撼させる出来事が起こった。

「弥生」
「京治君」


…名前呼び…だと?というか、…しゃべっ…?
2年7組の生徒を震撼させた出来事、隣のクラスの赤葦京治が烏丸弥生の元へと訪れたのだ。しかもなんか仲良さげ(ただし無表情)。
2年6組の赤葦京治と言えば口数が少なく(烏丸弥生に比べたら遥かに口数は多い)、無表情(烏丸弥生よりほんの少しマシ)、謂わば2年6組版烏丸弥生…!成る程、類は友を呼ぶとはこう言う事をいうのか…とクラス全員が納得した瞬間だった。
烏丸弥生は赤葦京治と一緒に何処かへ行ってしまった。
少しクラスがざわつく。それは烏丸弥生に友達が居たのかだとか、私たちも友達になっていないのにずるいだとか、そんなことだった。そんな中、某物語の三つ編み眼鏡猫系委員長をリスペクトする我がクラスのなんでも知ってる委員長が爆弾を落とす。

「あの二人、友達じゃなくて恋人よ?」

あ、あと何でもは以下省略。
我が委員長は知っている事は知っている。一体どこから入手してきたのか、もしかしたら隣のクラスでは公認の仲なのかも知れない。…いやしかしそんな噂聞いたことがない。

2年6組赤葦京治。
割と女子に人気。でも突撃する女子は居ない。その理由は「眺める分にはかっこいいんだけど、会話が続かなそう」「怖い、眺めてるだけでいい」「かっこいいけど何考えてるか分からない」と、完全なる観賞用イケメン男子である。1つ下の後輩ちゃんや3年のお姉様方からの評価なぞ知らぬが、2年では完全にそういう位置付けである。

さて、先程の2人の姿を思い出してみよう。…無表情である、完全に無である。恋人同士と言われても納得できないし、ある意味納得できる。あの二人どう知り合ったのだろうか。例えばあの2人を誰もいない部屋に押し込んだとして、どちらも無言を貫き通しそうである。100歩譲って赤葦京治が話しかけたとして、烏丸弥生は喋るのだろうか。ちなみにクラスの人間が話しかけると無視はされないが声で返されることはほぼ無い。寧ろ声が出ないとまで思っていたくらいだ。


…あの2人、一体どんな会話するんだろうか。

言葉でコミュニケーションと(れ)るのか?アイコンタクト?寧ろ電波(以心伝心)?我が2年7組烏丸弥生クラスメート全員、想像が全くできなかった。
――とある人物を抜いて。



「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」

我がクラスの委員長…ポジションの新聞部パパラッチ。何でも知ってる地獄耳。好きなものはネタになる噂と事実。敬愛するは某二次元三つ編み眼鏡っ子委員長。
ちなみに我が2年7組のクラス委員長は冴えない系真面目男子、佐伯君である。


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