結局、あれを告白と捉えて良かったのだろうか?私は彼の想い答えてはいなかった。いや、あの甘酸っぱい(?)やりとりが告白の答えと捉えられてしまうのだろうか。今現在の私と徹の関係が自分でも良く解らなかった。
急激な変化が訪れたわけではない。以前の形に戻っただけ…だとは思うんだけど。
すっかり調子を戻した徹は生き生きとバレーをしていた。しかしあれだ、なんで私がこんなところに居るのか理解できない。体育館の隅、私はバレー部の練習風景を見ていた。あ、飛雄だ。目が合ったので小さく手を振ったら、すごい剣幕で徹は飛雄を睨んでいた。

「飛雄あんまり八雲に近づかないでよ!」
「飛雄に当たらないでください及川君」
「なんで飛雄庇うの?あと名前!」
「可愛い幼馴染で弟をいじめる人は名字呼びで十分でしょ?」
「うー…。弟はやだけど、俺も八雲と幼馴染になりたかった…」

怒りに震えながらボールを掴む徹。そんな徹の姿をじっと見つめていた飛雄が爆弾を投下した。

「なんだ、やっぱり付き合ってるんじゃないか」
「や、やっぱりって…!?及川さんと八雲付き合ってるように見える?噂流れちゃってる??」

テンションが無駄に高い。もう、楽しそうでなによりです。私は疲れたよ…。そして徹の中では私と付き合っているらしい認識。おーけー把握した、もうどうにでもなってしまえ。私に抱きつく徹をガン無視して私は飛雄と話す。


「八雲の友達って及川さんだったんだ。…友達じゃないじゃん」
「あの時はまだ普通の友達だったの。ちなみに付き合ってるっていう認識は無い」
「…八雲だもんな」
「どういう意味よ飛雄」
「八雲だから、って言葉が一番便利だろ?」

な、納得できるような出来ない様な…。「ちょっと!及川さん放置するの止めてよ!」と頬を擦り寄らせる徹に、飛雄との会話を中断せざるを得なかった。

「なんで八雲も飛雄も名前で呼び合ってるの!?八雲は諦めるとして飛雄は八雲呼び捨てにするの止めてよ!」
「そうだね、そこには同意する。飛雄、先輩って付けて」
「八雲」
「こんのクソガキィ…」

後輩にマジギレするのやめなよ…大人げない。これが先輩か…と呟く飛雄。止めて、3年全員を徹基準にするのやめて。


「おいお前ら練習しろ!!」



◇◆◇



「ねぇ篠宮さん、ちょっといい?」
「別に、いいですよ」

ずっと体育館に居るのもなぁ、なんて思って体育館を出ると女子群団に捕まる。…今回はまだ見たことの無い人達だった。面倒だなぁ…なんて思いつつ私は女子群団の後を着いて行った。この時、飛雄が私の背中をじっと見ていたなんて、全然気付かなかった。


「ねぇ篠宮さん、いい加減及川君の周りをうろつくの止めてくれないかなぁ?」
「そーそー。及川君も篠宮さんみたいな不思議ちゃんに付きまとわれて可哀想だよ?ほんとストーカーみたい」
「呪われそうだよねー」

くすくすと笑う女子群団。どこのいじめ漫画ネタなのだろうか、ベタ過ぎて笑ってしまう。駄目だ、笑うな。私は俯き、笑いを堪える。震えている身体をみて私が怯えているとでも思ったのだろう。女子群団は更に調子に乗りあれやこれやと言葉を並びたてた。暫く一方的に罵られ、満足したらしい女子群団は「また調子に乗ったらどうなるか、わかるよね?」と言葉を残し去っていた。私一人、誰もいない校舎裏。「……くっ」と声が漏れる。なんかもう、家帰って爆笑したい。


「…ふ、ふふ…」
「八雲笑い声怖い」
「うわっ!?吃驚した、飛雄いつからそこに…」
「割と最初から」
「え、もう結構時間経ってるよ。練習大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃない」


行きなよ練習。と言うと飛雄は私の頬を両手で包み、むにむにと揉み始めた。え、なに?飛雄デレ期?なんて思ってると「顔めちゃくちゃ笑ってる」と指摘された。仕方ないじゃん、笑い転げたくて仕方ないんだから。

「震えながら笑いこらえて悪口聞いてる八雲見て、俺が笑いそうになった」
「ほんと笑い堪えるの必死だった…。あー面白い、張り合い無さ過ぎて乾いた笑いしか出ないよ。女子の妄想って怖いねぇ」
「八雲も女子だろ」
「飛雄が私を女の子扱い…!」
「頭おかしい女子だけどな」
「こら飛雄」

八雲って素だと性格あんまりよくないよな、という飛雄の言葉。失礼な。あっちの方がよっぽど性格悪いじゃないか。


「あんまり無理すんなよ」
「飛雄が私を心配するとか…」
「八雲がマジギレしたら流血沙汰になりそうで…」
「私をなんだと思ってるの飛雄」