【side B】

「おいグズ川」
「なに岩ちゃん」

俺はもう、盛大に荒れ果てていた。昨日入学式、今日が部活参加初日である国見ちゃんと金田一が顔を引き攣らせる。知らない、構ってられない。いや、寧ろ構う。構うよ!!俺は拳を握りしめる。国見ちゃんに掴みかかろうとしたら逃げられたので、金田一の方を掴む。逃がさないよ。


「国見ちゃんに金田一!なんでなまえ説得してくれなかったのさ!」
「い、いやぁ…」
「俺らに言われても…」


後輩に当たるなグズ川!と岩ちゃんにぶん殴られる。だって!だってさ!!俺は地団駄を踏む。「だぁああああもーーー!!」と体育館に俺の声が響いた。
なんで、よりにもよって!青城じゃないならまだしも烏野!?なんでよりによって

「飛雄ちゃんが居る学校に行かなくたっていいじゃん…」
「10割お前が悪いんだから文句言うなクソ川」
「なまえって…なんだか影山に懐いて」
「は?」
「……な、んでもないですすいませんでした」

金田一が頭を下げる。俺はそれを掴み「ゆるさないよ…飛雄ちゃんとなまえが…うん、ゆるさない」いだだだだ!と叫び声をあげる金田一。あ、ごめん滅茶苦茶力入っちゃったてへぺろ!今日何度目か分からない岩ちゃんの鉄拳を喰らった。





【side A】

酷く平和だと思った。同級生のほとんどは、兄と同じ青城に入学。そもそも私なんかを気にする人間はそう多くないだろう。それでも、私の事を知っている人間が少ないこの学校の居心地は、悪くなかった。居心地が良いのは、それ以外にもある。

「なまえ」
「飛雄」

朝練が終わったらしい飛雄がとなりの席に座る。私たちとの間には沈黙。話し声があちこちで蔓延する教室で、私たちだけが切り取られたように無言。居心地は、わるくない。

「なぁ」

私の方を見ずに、飛雄は口を開く。机に顔を乗せ「なぁに」と私は言う。うとうと、春の日差しが心地よい。じぃっと寝転がりながら、飛雄を見る。
目が、合う。口を開いた。

「バレー部のマネ」
「やだ」

眠気が一気に覚めた。私は顔をあげる。「返答がはえーよ」とむすっとした飛雄の顔が目に映る。私は首を振る。

「やだ」
「俺が居てもか」
「飛雄それ自意識過剰っていうの」
「?」
「それくらいの言葉は知っておいてよ…」

私だって、それほど頭は良くないが飛雄との会話には神経を使う。なんせ、普通に使ってる言葉が通じない時があるのだ。

「とにかく、俺は今日バレー部に行く」
「行って…らっしゃい?」
「お前も」
「やだってば」
「バレー、別に嫌いじゃないんだろ」

私は口を噤む。確かに嫌いではない、苦手なだけで。私は思い出す、岩泉さんとバレーをした時の徹の表情を。私を睨む、その顔を。心が凍る。

「飛雄は、すごいね」
「あ?」
「王様、なんて呼ばれてもまだバレーを好きでいられるの」

私には無理だもん。もう、あんな目で見られたくないから。心底怖いのだ。下を向いていると、くしゃり、頭を撫でられる。妙な顔した飛雄が目に映る。なにその微妙な顔は。

「…絶対バレー部連れてくからな」
「……なんで」
「なんでもだ!」




▽△▽


バタンッ!と締められた体育館の扉。外には放り出された飛雄と、先程知り合った日向翔陽君。私、何故か体育館の中。ちょっと、なんで。

「…で、君はマネージャー希望?」
「えっ!?第二のマネージャー!?」
「………ちがう、です」
「えー残念。じゃあなんで体育館に?」
「…飛雄に、連れてこられました……です」

そっかぁ。と泣き黒子がある人が笑う。さっきの出来事があっての今だ、とても先輩が怖い。特に黒髪の人、めちゃくちゃ怒ってた。坊主の人は元々怖い。こんな空間に一人置いてきぼりにされてどうしろというのだ。私も締め出してくれればよかったのに。目線を合わせる様に、泣き黒子の人が腰を折る。私の方が、視線が高くなる。優しそうな顔をして、私に話しかける。


「マネやる気は無い?」
「………皆無です」
「ばっさり言うなー。でも、バレー興味あったから見に来たんだべ?」
「…………ちがいます」
「んー」

じゃあさ、興味持ってもらえるようにすんべ。と泣き黒子の先輩が立ちあがる。黒髪の人と、坊主の人が笑う。私は、目を見開く。


「マネの件は一先ず置いといて、見学していかないか?」
「………ぅ…」
「大地、さっきの今だからめっちゃ怯えられてる」
「大地さん基本的には優しいぞー!」
「……………」
「田中は見た目からしてアウト」
「エ!?」

笑い声が響く。なんだろうか、この人たちは。ぐしゃぐしゃ、と頭を乱雑に撫でられる。やめてください髪が。

「そういや、君の名前は?」
「お、及川…なまえです……」

「じゃあ及川」と黒髪の人が閉じられた扉に目を向ける。坊主の人がにやにやと笑う。泣き黒子の人が苦笑する。
扉が開かれる。日の光が差し込む。


「とりあえず、面白いものが見れると思うから、それから色々考えようか」



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あかりさまリクエストの憂鬱烏野verでした!
最初、「憂鬱烏野版」とリクを頂いた時に「じゃあ夢主の兄ポジは誰にしようか…」とか悩んでました。途中で気づきました。違うそうじゃない、と。阿呆ですいません。
続き書いたら飛雄かスガ落ちかな…なんて思います。ああでもかきくトリオでもいいなぁ…。中途半端な終わり方ですいません!書いていてとても楽しかったです。
リクエストありがとうございました!