きっと私は死ぬんじゃないか、そう思う。
目の前には扉、玄関。私現在屋外。目の前には初めてまじまじとみる扉。ちらり、お庭に視線を移す。とっても綺麗なお花が咲いていましたまる。
ぬーん、と呼び鈴を睨みつける。指を添える。押さない、むりむり。かれこれ10分以上呼び鈴を睨みつけては綺麗に咲く花に目線を移し、押そうと頑張ってやっぱり止まるを繰り返していた。
事の発端は昨日の昼休みに遡る。




▽△▽



「ねぇなまえ、明日部活休みなんだ」
「?」
「どこか出掛ける?」

もぐもぐとお母さんが作ってくれたお弁当を食べる。弁当に敷き詰められた白米に梅干し1個、日の丸弁当です。しわくちゃでどちらかと言うと赤じゃなくて茶色よりの梅干しだけど、おかずが一切ないけど。ちなみにこの梅干し、紀州特選南高梅。ネット取り寄せ滅茶苦茶高い。お米、厳選コシヒカリ(やっぱりネット注文)。お母様の手を抜いてるのか抜いてないのかわからないところ、大好きです。でもやっぱり手抜きだと思う。
あ、いやお弁当の話じゃない。ごくん、とご飯を飲み込む。明日京治君は部活お休み、土曜日なのに珍しい。どこかへ、お出かけ…うーん…。

「どっちでも」
「なまえはデートしたくない?」
「ふぬぐ…」

京治君が悲しそうな顔をする。私は知っているぞ、京治君は策士なのだ。これが演技だということはわかりきっているのだ。「どっちでも」というのは、私の中ではオーケーという意味なのに、京治君はその返答に少し文句があるようなのだ。いいじゃな、別にツンデレとかで「どっちでも」って言ってるわけじゃないんだから。
あ、でも明日は


「…あれ、もしかして嫌?」

これは、作った表情じゃない。私の表情(他人から見ると無表情)に「え、」と弱弱しく京治君の口から声が漏れた。
そう、明日は嫌なのだ。明日は


「…そういえば明日雨だね」

雨嫌い。雨の日は1歩も外に出たくない。寧ろ部屋から出たくない。空から零れ落ちる雫を思い浮かべるだけで具合が悪くなってしまう。濡れるの、断固拒否。ああ、思い浮かべただけで憂鬱になって来た。私は梅干しを潰して口に入れる。すっぱ、めちゃくちゃすっぱしょっぱ。

「どこかのショッピングモールとか」
「…」
「映画とか」
「……」
「……」
「……行くまでに濡れる」
「降るのは夕方からだよ」
「帰り濡れる」

私は絶対出ないぞ。と京治君を見つめる。むっとする京治君。私は引かないぞ。「じゃあ」と京治君は口を開く。

「俺の家にお泊り」
「……ん?」
「雨降る前にウチ来て、そのままお泊り」

…危険メーターが針をを振切りました。ぶんぶんと首を横に振る。断固拒否危ない断固拒否むりむり!「なまえ」と不機嫌を包み隠さない声色で私を呼ぶ。ぴたり、私は身体の動きを止める。

「俺、もう暫く土日休みとれない。大会が近くなれば、一緒に帰ることだって出来ない」
「…ぅ」
「なまえ、それでいい?」

…よくはない。私だって、京治君とでででででーと…をしたいし。でも雨やだし、雨超やだし。悩んで悩んで数分後。私は1つの答えを出す。

「おさわり禁止」
「無理」

速攻却下された。ぬぅ…と声を漏らす。だってさ、と京治君の大きな手が顔に近づく。親指で頬を撫でられる。いつも思うけど、エリーになった気分だ。そのまま、顔が近付いて、唇と唇が触れる。

「俺、この時点で我慢できないし。無理」

ちょっとは頑張ってください京治さん。むすっとする私に笑いながら、また唇を落とす。またぱくり、食われる。最近慣れてきた自分が怖い。

「おさわり禁止は却下。諦めてお泊りおいで」
「…むぅ」
「おねがい」




▽△▽


私は京治君の「おねがい」に大層弱い。あの目、あの目でお願い事されるともうぐわーっってなってしまう。そんなわけで頷いてしまった私は、今現在赤葦家の玄関前で立ち往生している。すでに30分は経過してしまっただろうか。「迎え行くよ」という京治君の言葉を断ったのは、ここに来るまでに心の準備をするためだった。まったく出来てないけどね!
しかし、このままではいけない。もう、がんばって呼び鈴押してしまえ。ぴんぽーんて押しちゃえ。ぷるぷると指先が震える。

「なまえ」
「ぴっ!?」

綺麗な花咲く庭の方から京治君が顔を出した。変な声出た。インターホンを押す格好のまま私は京治君を見る。少し微笑みながら、京治君は私の前まで来る。

「最初はさ、おもしろいなって眺めてたんだけど、流石に30分も経つと」
「…も、もうしわけないです…」

慌てたり、あっちこっち視線を泳がせたり、インターホン押そうと頑張ってる姿は可愛かったけどね。と頭を撫でられた。もしや、最初から見ていたのだろうか。ずーっと眺めるだけ眺めて、にやにやしていたのだろうか。ゆるさない京治君。

「…なんで睨まれてるのかわからないけど、ほら。もう雨降りそうだから中入って」

そういうとぱらぱらと雨が降り出した。毛が弥立つ。ひぃっ!と私は京治君にしがみ付き赤葦家に初潜入した。



「…京治君」
「ん?」
「ご両親は」
「旅行」
「!?」

じ、じーざす!聞いてないよ!?目を丸くして京治君を見ると「だって言ってないし」とキスをした。いやいやいやいや、キスしないで「だって言ってないし」じゃないよ。まだ夕方…じゃない夜になっても駄目だよ流されるな私。
玄関入って靴脱いで、お邪魔しますと上がって…まだリビングにすら到達していないのに抱きしめられ、あちらこちらに唇を落とす。服の襟をずらされ、鎖骨あたりに唇が、というか舌が。だめ、だ。と京治君の目を見て悟る。肉食獣のそれだ。
また、唇と唇がくっつく。舌を、入れられる。
「ふ…ぅ」と声を漏らすと京治君の手が後頭部に回った。崩れ落ちそうになり、咄嗟に京治君の身体にしがみ付いた。びくっと、一瞬だけ京治君の身体が固まった。漸く口を離され数秒、京治君の指が私の唇を拭う。ふらふらと、私は廊下の壁に寄りかかる。

京治君が笑う


「俺の部屋行こうか」

うん、死んだ。
私は白旗上げて降参した。もう、どうにでもなってしまえ。そうだ、こうなることは予想していたことじゃないか。私は京治君を見つめる。「どうしたのなまえ」と白々しく京治君は笑う。どうせなら、一矢報いてやるのだ。

「けーじ」
「な、」

むぎゅっと抱きつく。顔を京治君の身体に押し付ける。ぴしりと固まった京治君が面白くて、さらに力を込めて抱きついた。「ふへへ、けいじくん」と私は笑う。

「なまえ」
「…なぁに?」
「手加減しないからな」


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旅猫さまリクエストの宝石金魚の番外編でした。
家デートで肉食あかーしと、ふと甘える夢主でした。
如何だったでしょうか?このあとあかーしくんに丸飲みされます。肉食あかーしたまらんです。ぱっくんちょされるところも書けよ!なんて思いますよねごめんなさい焦らしです(言い訳)。
楽しんでいただけたら幸いです!旅猫さまリクエストありがとうございました!