「ねぇ夜久、今日の部活なんだけどさっき監督が」

昼休み、私は隣のクラスに足を踏み入れる。もう何度も体験した事だから緊張なんてしなくなった。プリントを手に私は部活仲間の夜久に話しかける。こう言うのは黒尾に言った方が良いんだろうけど、生憎と黒尾は机に突っ伏している。「4時間目からずっとこれだ。飯食いそびれても俺は知らない」と夜久は我関せずだった。まぁ私も黒尾がお昼ごはん食べそびれたって関係ないからほっとく。「あ、さっき海には言っておいたんだけどね」と再び話を続けていると何やら隣…自分のクラスから大きな声が聞こえたような気がした。気のせい…ではないのは分かっているけど、まあほっとこう。「また来たぞ」なんて呆れながら笑う夜久にはははは、と乾いた笑みを浮かべるだけだった。

「みょうじさんっ!」
「ほれ来たぞ犬が」
「犬って」
「なんでみょうじさん夜久さんの所に居るんですかっ!」
「部活の事務連絡だよ」
「お昼は俺と一緒に食べるって約束」
「してないね」

リエーフが私を背中から抱きしめる。べしべしと手の甲でリエーフを叩いた。君、ここ上級生のクラスで、更に言うと私のクラスじゃないからね。目立つことするな。でもまぁ、もう慣れっこなこのクラスの人たちは「またかぁ…」みたいな生温かい目でこちらを見ていた。その視線が凄く痛いです。

「いっつも夜久さんの所に居て…夜久さんばっかりずるいです」
「俺に言われても困るんだけど」
「夜久さんこそ1年ぽいんですから俺とクラスチェンジしてください!」
「ああ?」

なんでいつも、そう夜久を怒らせる事を言うかな。スッとリエーフの腕を潜り距離を置くとリエーフに夜久の蹴りが炸裂した。いい加減学びなさいよリエーフ。

「うぐっ!?」
「夜久、程々にしときなさいよ」
「いや止めてくださいよ!?」

げしげしと蹴られるリエーフを避けて、私は教室を出た。さて、お昼ごはんでも食べようと自分のクラスへと戻る。お弁当の入った手提げを手に、私は再び廊下へ。いつものところに行こう。いじけた彼が来るはずだ。
体育館裏、ぽかぽかと太陽の陽が差す。暫く座って待っていると「みょうじさーん!」と声が聞こえた。遅いよまったく。飛びかかるように抱きついてきたリエーフを受け止め…られる訳もなく私の身体は後ろへ倒れ込んだ。

「ちょっとリエーフ」
「……」

どうやら不機嫌モードらしい。ぐいぐいと抱きしめる腕に力を籠められて、若干痛い。私は仕方ないなぁ、と左手をリエーフの背中に、右手をリエーフの頭に置いた。さらさらと、髪の毛が指の間を通り抜ける。サラサラヘアーほんと羨ましい。

「みょうじさん…」
「なぁに?」
「俺、怒ってるんですからね。俺がみょうじさんの彼氏で、恋人なのにみょうじさんはいつも黒尾さんか夜久さんの隣に居て」
「そんなことは無いと思うんだけど」
「あります。みょうじさんが気にしていないだけで」

…まぁ、思い出してみたらそんな気がしなくもないけど…。でも特別仲が良いってわけでもないし、部活以外の話をする機会もあんまりないし。それでも納得しないリエーフは、腕を少し緩め、私の顔を見つめる。

「みょうじさんは、俺のです。俺のなんです」

口を、口で塞がれた。夜久はリエーフを「犬」と表現したが、リエーフが犬な時は大体、いじけていたり私に飛びついてくる時だけだ。今の彼は、そう名の通り肉食獣か何かだろう。噛みつくようなキスを、私は可愛らしい犬だとは到底思わない。

「でも獅子だろうがなんだろうが躾はしっかりとね」
「痛っ!」

グーで思いっ切り殴ってやった。ごろん、と横に倒れ込むリエーフ。漸く私は状態を起こす。そして何事も無かったかのように弁当を開けた。

「ちょっとみょうじさん!」
「早くしないとお昼終わるよ」
「そ、れは困るけど!殴らなくても」
「いきなり飼ってるペットに噛みつかれたら躾しなきゃでしょう?」
「ペット!?彼氏じゃなくてペット!?」
「いただきまーす」
「無視!?」

なまえさーん!とまたもやぐいぐいと抱きつくリエーフにどう躾けるべきかと悩む。この前首筋噛まれた時は、夜久が回し蹴り決めてくれたし…部活中にキスしようとしてきた時も夜久が蹴っ飛ばしてくれたし…って、あれ?

「調教師夜久にリエーフ預けようか」
「い、嫌ですよ!既にレシーブ練でビシバシ教育受けてます!」
「……冗談だよ」
「今の間が凄く怖いんですけど」

むすっとしながら、リエーフはパンの口を開いた。仕方ない、餌付けでもしてやるかと唐揚げを箸で摘み、リエーフの口元に近づけた。

「…食べていいんですか」
「いらないんならいいよ」
「いります!」
「はいはい、あーん」

あーん、と口を開くリエーフに唐揚げを放り込む。「…でもこの程度じゃバイシューされませんからね」と眉を寄せながらもぐもぐと食べるリエーフ。買収って、何か違う。


「同級生の部活仲間と仲良いのなんて、普通だし仕方ないじゃない」
「むー…みょうじさんは俺の彼女なのに…」
「でも結局夜久達は仲の良い友達で、リエーフは私の彼氏だよ」
「!」
「リエーフが、一番だから」

そういうと、リエーフが嬉しそうに笑った。ああ…耳としっぽが見えるとか思ってはいけない。「みょうじさん、だいすきです!」とむぎゅっと抱きつくリエーフに、はいはいと頭を撫でた。嫉妬深いけど、驚くほど単純なこのわんこの扱いは、とても簡単である。


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うさぷちさまリクエストのリエーフの嫉妬話でした。
拙宅のリエーフはどう足掻いても大型わんこです。可愛らしい感じのお話になってしまいました。リエーフは可愛い。この一言に尽きます。主人公は犬派です、どうでもいいですね。割と文字数少なめで書いてしまいました、申し訳ないです。リクエストありがとうございました!