「髪よし、服よし、化粧もよし」

鏡に映る自分を睨みつける。特に可笑しなところもないし、大丈夫。クルリ一周して私はバッグを手にした。国見と、デート。毎朝電車で起こしてくれて、お昼も殆ど一緒に食べて、帰りも殆ど一緒に帰ってるから、一緒に居る時間は思ったより長いんだけれど、それでも年の差がもどかしかったりする。だから、こうやって休日国見と二人でいられるという事が、凄く嬉しかったりする。年上の余裕?そんなものは無い。


「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。じゃあ行きましょうか」
「…ん?」

元気にあいさつして、返って来た返事が外から聞こえるとは。玄関の石垣に寄りかかり、こちらを見る国見が目に入った。ぼとり、バッグが地面に落ちる。

「…え?」
「おはようございますなまえ先輩」
「…え?」
「起きてくださいなまえ先輩」
「…おはよう、ございます」
「はい、おはようございます」

満面の笑みを浮かべる目の前の人物は誰だ、と言いたくなる。いつもの気だるげな国見の面影は全くない。私に近づいて、手を取る。「ほら、早く行きましょうよなまえ先輩」と手を引く国見に呆然とするだけだった。

「く、国見?」
「なに、なまえ」
「敬語すら解けた…」
「なまえも俺の事英って呼んでよ」

楽しそうな表情をする表情に、なんだかきゅんとした。なんだろう、こんなに可愛い国見…じゃなかった、英を見るのは本当に珍しい。指を絡めて繋ぐ手に、少しだけ力を込めて「…英」なんて言うと、英は満足そうな顔をした。…と、年上の余裕を…!





▼△▼


年上の余裕を見せられる場面は、思いの外早く訪れた。…うん、知ってた。私知ってた。ここ来たら国見がどうなるか、私わかってた。

「お皿にケーキ盛り過ぎだよ」

女子に大人気、スイーツバイキング。只今キャラメルフェア実施中。行く前「塩キャラメルじゃないなんて…」なんて沈んでたくせに、いざ来てみれば幸せそうな国見の顔。ははは、可愛い奴。ただその手に持つ、皿に乗ったケーキの数には笑えなかった。ははははは…見てるだけでお腹いっぱいになるよ…。私は隅っこにあったパスタとスープを机の上に置く。すると「え…」みたいな表情で国見に見られた。

「なんでケーキ食べないの」
「お昼ご飯だもん」
「お昼ご飯の代わりにケーキでいいじゃん」
「国見じゃないんだから」
「国見って呼んでるし」
「あ、つい」

慣れないからね、仕方ないよ国見。そして私は本当に甘いものはお腹いっぱいです。「国見あとで一口ちょうだいよ」なんて言うと「やだよ、自分で取りに行ってよ」と返された。可愛い国見カムバック。もぐもぐとケーキを食べ始める国見を横目に、パスタの皿にフォークを突きさした。あー…あっちこっち甘い匂い。「あ、甘いピザなんてあるみたいですよ」邪道だ…マルゲリータ食べたい。でもまぁ、幸せそうにケーキを食べる国見を見てまぁいいかなんて思った。

「…口の中が、甘い」
「だろうね。珈琲飲む?」
「いただきます」

飲んでいた珈琲のカップを国見に渡すとごくごくと飲んだ。おー…滅多に珈琲飲まない国見が一気飲み。「うわぁ、にがっ」それブラックだしね。それでも飲み干す国見。

「あー…口が一気に苦く…」
「食べたねぇ…」
「まだあるけど…なまえ食べる?」
「残飯処理班か私は。いいよ、ちょっとなら」

実のところ、甘いものはそんなに得意じゃない。たまーに疲れた時に食べるくらいが丁度いい。一口サイズのケーキにフォークを刺し、私に突き出す。

「実際、俺がやられたいシチュなんですけど」
「夢見る乙女か国見は」
「英って呼べよまったく…。はい、あーん」
「あーん」

もぐもぐ、うん。珈琲ちょうだい。なんともまぁ…甘いことで。甘ったるい口当たりに私は悶絶した。

「あま…想像以上に…」
「こんな一口だけで」
「いやいや、普通のケーキより甘いからね?」

同じケーキを国見が食べる。あ、確かにこれ凄く甘いかも。なんて言う国見に私は項垂れた。

「じゃあこっち」
「もういらないよ」
「こっちカラメルでちょっと苦めのだから」
「うー…じゃあ」

再びケーキが口の中へ。もぐもぐ、あ、ちょっと苦くておいしいかも…。これくらいだったら、私も食べられるかも。「俺、これ苦くて食べられません」なんてもう1個差し出してきた。もう、そんなに持ってくるから…。なんだか、餌付けされるように私は国見のフォークからケーキを食べた。


▼△▼



「ごめん」
「なにが?」
「甘いの、そんなに好きじゃないのに付き合わせて」
「いいよ、あそこまで幸せそうな国見は貴重だからね」

そう言ってなまえは携帯電話を弄り始めた。なに?となまえの手元を覗きこむと、

「なまえ、消して」
「やーだよ」

画面には俺のケーキを食べる姿。なんというか、だらしない顔をしていた。全く写真を撮られたという記憶がないんだけど、俺どんだけ真剣に食べてたんだ。ああー…と目を手で覆う。

「甘いモノ食べてる時の国見ってほんと可愛いよね」
「だまって」

呼び方国見に戻ってるし。可愛いなぁ、となんだか優しい目をして俺の頭を撫でるなまえに若干イラっとした。俺より背が低いくせに、なまえはよく俺の頭を撫でる。年下扱い、まぁ実際年下なんだけど。ムカつく。

「なまえ」
「なぁ――んっ」

グイッと身体を引き寄せれば、簡単に俺の方に倒れ込む。そのままなまえの頭に手を回し、口を付ける。舌も入れちゃえ、口をこじ開けて舌を絡ませる。あ、なんか

「にがい」
「あまい」

二人してすぐに口を離した。何とも間抜けな話だ。直前食ってたケーキの味が、ばっちりと残っていて。俺達は口を押さえた。はは、ははは…なんて乾いた笑いが俺達の間に響いた。ふと、俺は考える。

「甘いと苦いなら中和されていい感じになるんじゃない?」
「国見って馬鹿だったっけ?」
「馬鹿でいいや、もっかいしよ」

え、ちょっと待って。なんて制止も聞かずに俺は再びなまえにキスをした。



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ゆきなさまリクエストの従順番外編の休日デートでした!ケーキバイキングとかテンションあがりますよね(国見君が)しれっと出しましたが、生徒会長ちゃんは甘いモノそんなに得意ではありません。キャラメルラテのくだりでお察しした方もいらっしゃったと思いますが。
ゆきなさまリクエストありがとうございました!