「及川さん、バレー教えてください!」

今日もまた来た。はははは、と乾いた笑いが零れた。体育館の入口には目を輝かせたなまえが居た。自前のボールを持って。まるで中学時代の飛雄のようだ。でも、嫌悪はしない。寧ろ可愛いと思っている。可愛い可愛い後輩で、くっそ生意気で大嫌いな後輩の双子の妹だ。


「ほれ、影山来たぞ」
「見ればわかるよ。なまえちゃんおいでー」

はーい!ど元気よく挨拶して体育館へ足を踏み出す。なんか、中学1年の時の飛雄ちゃんもあどけなくて、外見は可愛かったよね。それをそのまま女の子にした感じ。そのまま飛雄と同じように育たなければいいけど。


「及川さん!サーブサーブ!!」
「よーしよーし!基礎が全く出来てないなまえちゃんは基礎練やろーねー」
「えー」

俺はなまえちゃんの頭を撫でる。ぶーぶー!と不満を言うなまえちゃん。俺が飛雄の時と違ってこの子に優しくしているのは気に入っているから…とは別に


「影山妹のくせにほんと下手くそだよな」
「ひ、ひどいです。私だって頑張ってるのに…」

そう、飛雄とは正反対にバレーが破滅的に下手だった。飛雄に運動神経全部取られたんじゃないか…いや、運動神経は悪くはない。ただ、あれだ。


「なんでフォーム完璧なのにボール後ろに飛んでくの!?」
「なんででしょー…?」
「ボールに糸でも付いてるんじゃねーの…?」

岩ちゃんがなまえちゃんからボールを受け取る。ダンダンッ!とボールを床に叩きつけ、サーブを打つ。全く問題なし。きらきらとなまえちゃんが目を輝かせる。

「岩泉さん、サーブ教えてください!」
「無理」
「なんで及川さんも岩泉さんも教えてくれないんですか!飛雄の妹だからですか!私青城の生徒なのに!」

違うよ…そういう問題じゃないんだよ。なまえちゃんにいくら教え込んでも、フォーム完璧、タイミングも完璧、でもボールは必ず不可思議なところへ飛んでいく。前には飛んでいかない絶対。俺らじゃもうお手上げなのだ。


「飛雄ちゃんに教えてもらいなよ」
「何故か飛雄教えてくれないんです…」

天才飛雄ちゃんもお手上げのようだ。まぁなまえちゃんもある意味天才だしね。もう後ろ向きでバレーすればいいんじゃないだろうか。それなら前に飛ぶし、ボール取れないけど。


「なまえちゃん、飛雄にそっくりでトスは完璧だからなぁ…。ボール上げるだけなら俺より上手いかも。ボール上げるだけなら」
「私はセッターじゃなくてサーブとかスパイクが打ちたいんです!」
「諦めなよ」
「いーやーでーすー!」

もうバレーやめちまえ。割と本気でそう思った。人間向き不向きは必ずあるものだ。なまえちゃんはそれが大好きなバレーだったというだけだ。いや、ほんとなんでそんな破滅的腕なのだろう。


「白鳥沢にでも行ってウシワカさんに教えてもらいましょうか…」
「個人的には全力で止めたいけど、ウシワカちゃんがどんな反応するかも気になる」
「それな」

あの天才ですら、匙投げそうではあるが。

「むぅー」

頬を膨らませるなまえちゃん。なんかだかぁ…








「飛雄の妹のくせに可愛げあるし、可愛いし、可愛いし、飛雄より礼儀正しいし可愛いし」
「及川うぜぇ」
「何あの小動物系。及川さんノックアウトなんだけど。飛雄の妹のくせに」
「影山の妹なのにな…」

なんであんな破滅的にバレー下手くそなんだろうか…。心の中で岩ちゃんと声が重なった。
いや、トスに関しては本当に神懸かっている。流石天才の妹と言うべきか。当本人はスパイクを打ちたいようでなかなかトスを上げようとしないが。他は破滅的なのに。本当に破滅的なのに。


「おーいかーわさーん!いわーいーずみさーん!」
「なーに、なまえちゃん」

ふっへっへ!と笑いながらなまえちゃんは俺に近づく。くっそ、かわいい。飛雄ちゃんに似ても似つかない愛らしさ。くっそ、なんかむかつく。

「期間限定のチョコを買いました!食べます?岩泉さんも!どーぞ!」
「サンキュー」
「なまえちゃん本当に飛雄の妹?」
「妹です…悔しいことに早くお腹から出てきたのは飛雄でした…くやしい」
「そういうことじゃなくてね?」

まぁいいや。手渡されたチョコを口に入れる…うん、美味しい。

「美味しいですよね!美味しいですよね!クラスの男子におすすめされたのです」
「へぇ。ふぅん。そっか」
「クソ川、顔」
「え?イケメン?」
「死ね」

クラスの男子におすすめされた…ねぇ…。俺は箱に入ったチョコをなまえちゃんの手から奪い取った。呆れ顔の岩ちゃんの顔なんてみえなーい。

「ぅえ?及川さん」
「これぜんぶちょーだい」
「えっ!?」
「その代わり別のチョコ買ってあげる。これより美味しいの、知ってるからさ」
「えー…?」
「美味しいよ?」
「…ぬぅ、ゴチになります」

はいはい、と俺はなまえちゃんの頭を撫でた。ふへへへ!と笑う。なんだこの可愛い生物は。ズシッと手に力を加える。

「飛雄の妹のくせにぃいい」
「!?なんですか及川さん痛い痛い!頭痛い!ちぢむ!?」
「おい、クズ川止めろ。マジで影山が縮む」


スパンッ!と岩ちゃんに頭を殴られた。超痛い。ふぉおお!と頭を押さえるなまえちゃん。ごめんちょっとやり過ぎた。


「ふ、ふん!レシーブとスパイク教えてくれたら許してやらないこともないですけどっ」
「じゃあ許してもらわなくていいや」
「待って!及川さんちょっと待って!!許しますから教えてください」

教えたところで出来無いじゃんなまえちゃん。はいはい、良いから帰りますよーとなまえちゃんの手を取る。


「どうしてもだめですか」
「だめじゃないけど無理だよ」
「ぬぅ…」


諦めて及川さんのマネージャーやればいいと思うんだ。そう言うと岩ちゃんにまた殴られた。


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碧さまリクエスト
飛雄(双子)妹と(可愛くて)悶々とする及川さんのお話でした。なんか貰ったリクエストとは若干ずれてしまいました、ごめんなさい!
ちなみに妹ちゃん、小動物系であって小動物ではないです。身長大体178cm。及川さんとの身長差が萌える。可愛すぎてイライラする及川さん良いと思うんですがどうでしょう。
碧さまリクエストありがとうございました!