【side A】


片思い歴2年以上今年で3年目。高校に入学してすぐ、私は恋に落ちた。一目惚れなんて本当にするんだなぁ、なんてどきどきした。あの時の事を、感覚を、私はずっと覚えている。

「や、夜久君おはよう!」
「おーなまえ、おはよう」

にかっと笑う夜久君に内心どきどきしながら、私は靴を履き変えた。「夜久君今日も朝練お疲れ様!」くらい言えればいいんだけど、そんな勇気は私にはない。
幸運にも1年から3年現在まで夜久君とクラスが一緒で、当然ちょっとはお話しできるわけで。これだけで、私はとても幸せなのだ。
たまに、夜久君のボールを追いかける姿を見て、どきどきしながら毎日を生きている。

というか名前呼びとかすごくどきどきするんですけど…!


私はぎゅーっと頬を両手で包みこむ。
いつからだっただろう、多分2年に上がってから「なぁ、なまえって呼んでいい?」なんて夜久君に言われたのだ。頭が混乱していて、何が何だかわからないまま私は頷いた。それ以降夜久君は私を名前で呼ぶのだ。いつになっても慣れることはない。

「なまえ?」
「な、なぁに?」
「いやなんか顔触ってるから」
「なんでもない!」
「お、おう」
「なんでもないから!」

悟られてはいけない。今となっては仲の良い友達なのだ。も、もし私が夜久君の事が好きってバレて振られたりでもしたら私生きていけない…。今の距離感が一番心地が良いのだ。うん…3年って卒業するよね…

「いやだなぁ…」
「なにが?」
「、なんでもないよ」

卒業したら、もう会えないのかな。「就職?それとも大学?どこいくの?」なんて気軽に聞いちゃえばいいのに、それが出来ないドチキンなのです。


「そういえばさ」
「う、うん?」
「なまえって進学だよな?」
「そ、うだよ」

私の心の内が読まれてるのかと思うくらいピンポイントで話題が上がる。「俺もさ、進学なんだよね」という夜久君に心の中でガッツポーズ。「へ、へぇー!そうなんだ!」と平常心を保ちつつ(後々考えるの声裏返ってたし声大きかったし、全然平常心じゃなかった)「や、夜久君どこの大学行くの?」なんて聞いてみた。心臓痛くて破裂しそう。

「俺?D大」
「え?」
「D大、ってやべ!なまえあと1分でチャイム鳴るぞ!」
「えええ!?」

夜久君に手を引かれ、廊下を走る。手!手っ!私たちの教室は階段を駆け上がった3階、運動部夜久君なら楽勝だろうけど、私帰宅部の運動音痴。2重のダメージを食らい、朝のホームルームは死にかけていた。
そのまま1限が始まる。少し前の席に座る夜久君が授業直前「大丈夫か?」と口パク下のに気づき「だいじょうぶ!」と返した。実際のところ、あまり大丈夫ではないけど。


「D大って…私と同じ大学ぅ…」

嬉しくて死にそう…!これは落ちない様に必死に勉強しないと!その日から私は、必死になって授業中黒板とノートと教科書を睨みつけるのであった。





▽△▽



【side B】


あ、なまえだ。俺は靴を履き替えている途中なまえが来るのが見えた。無駄に下駄箱に靴を入れる時間を長くする。「や、夜久君おはよう!」と挨拶するなまえに平常心を保ちながら「おーなまえ、おはよう」と挨拶を返した。

なまえは1年の時から、ずっと同じクラスで何かと視線が合うことが多かった。まぁ、それは自意識過剰だとして、一度話してみるとなまえは面白かった。楽しいことは本当に楽しそうに話、沈んだ話をする時は、たとえ自分の事じゃなくてもすごい落ち込みようで話すのだ。気持ちをそのまま表情に出す裏表のないヤツ、それがなまえだった。

「なまえ?」
「な、なぁに?」
「いやなんか顔触ってるから」
「なんでもない!」
「お、おう」
「なんでもないから!」

ただ、この行動だけは不可解だった。俺と話す時、なまえはよく顔を押さえる。両手で顔を包むように顔を押さえるのだ。除く肌は、少し赤くて。…いや、自意識過剰になってはいけない。俺がなまえを好きだとしても、なまえが俺の事を好きだという確証はこれっぽっちもないのだから。

黒尾と話してる時も、なんだか赤くなってた時あるし…何とも言えないんだよなぁ…。

なまえは俺以上に黒尾と仲が良い、と思う。客観的に見て。たどたどしい俺との会話とは違い、黒尾とはかなり砕けた口調で話しているのを聞いたことが合った。
やっぱり、なまえって黒尾の事が好きなんだろうか。

「いやだなぁ…」

どきっとした。思わず自分の声が漏れたのかと思ったが、声の主はなまえだった。「なにが?」と聞いてみても、なんでもないと答えられてしまう。やっぱ、俺じゃあ話してくれないのか。少し沈んだ気持ちになる。
俺、仲良くなった気でいたけどなまえの事全然知らないんだよな。進学先とか、なんで黒尾が知ってるんだよ。なんて怒ったくらい余裕がなくて。…そういえば勢いでなまえと同じD大を受けるって担任に言ってしまったけど、なまえ志望大学変えてない…よな?俺は口を開く。

「そういえばさ」
「う、うん?」
「なまえって進学だよな?」
「そ、うだよ」
「俺もさ、進学なんだよね」
「へ、へぇー!そうなんだ!」
「や、夜久君どこの大学行くの?」
「俺?D大」

え?となまえから声が零れた。その零れた言葉の意味するところは分からない。ちらりと視線を移した先、時計を見て慌てる。誰もいないなと思ったら、あと1分でチャイム鳴るじゃん。俺はなまえの腕を掴み走り出した。
ぎりぎりで教室に掛け込み、自分の席に座る。ちらっとなまえの席がある後ろに視線を送ると死んでいた。まぁ、帰宅部に階段駆け上がるのはつらいよな。授業直前で漸く頭をあげたなまえに「大丈夫か?」と口パクをすると「だいじょうぶ」と返って来た。そうか、と俺は視線を前に向ける。にやにやしてる黒尾が視界に入ったけど無視だ。






「お前さ、もう言っちまえばいいと思うんだ」
「あ?」
「告れよ、って話」

そう簡単に言うけどお前な、と黒尾に視線を向ける。最悪、あいつはお前の事が好きなのかもしれないのに。と溜息を吐いた。

「あと1年もしないうちに卒業、って思ったけど夜久はみょうじと同じ大学志望だったか」
「なまえが志望大学変えてなきゃ」
「進路変えたって話は聞かないから多分そのまんまだぜ。いや、でもそんな悠長に事構えてたら誰かに掻っ攫われるぞ」
「お前とか?」
「は?なんだそれ」

ねーよ!と黒尾は笑った。ふぅん、と俺はパンを頬張る。


「つーかみょうじわかりやすいと思うんだけど?」
「…お前となまえって仲良いだろ」
「お前さっきからどうした?みょうじが俺の事好きだとか言う冗談考えてる?」
「なくは無いだろ」
「100%ねーよ」

どーだか。俺は袋をぐしゃぐしゃに丸めた。


「べっつに勘違いもいいけどよ、見てるこっちがじれったくて仕方ねーんだ。早くどっちか告れ」
「考えとく」
「考えとくじゃねーよ」

告れ告れ簡単にいうんじゃねーよ、まったく。
ふと、視界の隅に映ったなまえ。楽しそうに友達と会話をする姿。俺と話す時、あんな表情しないよなぁ。

「そりゃああいつ、お前の前だと緊張しまくって全然しゃべらねーもん」
「黒尾とは普通に喋ってるよな」
「俺に嫉妬されても困るっつーの」

へーへー、すいませんでしたねー。と俺は紙パックのぐんぐんよーぐるを飲み干す。あーあ、まったく…

「ほんと、いっそ告っちまうか」
「それをオススメする」


思い立ったら吉日と、俺が告白するまであと1時間。ええええ!なまえが声をあげて泣きだすまであと56分。俺がなまえを抱きしめるまであと




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なんだか中途半端ですが、はるさまリクエストの両片思い夜久君でした!両片思いってもやもやしますよね!そこにきゅんとくるのですが!リクエストありがとうございました!こんなへたっぴな文章でごめんなさい!(途中で力尽きました…泣)