久しぶりの梟谷の校舎、多分全部憶えてる。入学式を終え、午前で終わった学校。私は一人校舎を徘徊していた。懐かしい匂い。先生、同じだったなぁ。色々考えながら歩いていたら、無意識に体育館へ来てしまった。…ほんと、無意識。私は笑う。ここには、入れないね。私は身体を翻す。と

「……」
「あ、」

口を開き掛けて、口を噤んだ。危ない。名前を呼ぶところだった。じっと私を見つめる、先輩に私は首を傾げる。なんでそんなに、ガン見されているんだろうか。

「お前…」
「はい?」
「赤葦の知り合いだろ!」
「は」

木兎さんは私の手を掴み「そうそう、赤葦の後輩?であれだろトビオとかいう後輩となんか兄妹みたいな??ん、双子?」と意味のわからないことを言う。ちょっと待って、なんとなく点と点が繋がるけど、なんで。

「なにしてるんですか木兎さん」
「あかーし!ほれ、コイツだろ!赤葦の後輩!」

ばちっ、と赤葦さんと目が合った。いや、赤葦さんが私を知っているわけがない。今の私と、赤葦さんの接点は何一つ

「空…?」

ない、はずなのに…?



◇◆◇



「あ、かあしさ」
「ちょっと黙って」

どういう状況?赤葦さんに手を取られ、木兎さんと別れて人気の少ない階段の踊り場で抱きしめられて。

「あの、赤葦さん。私の事」
「知ってる、憶えてる。中学の頃の後輩で、梟谷でも後輩だった」
「…なんで、」
「知らない、でも憶えてた」

ぎゅーっと力を込められる。苦しくはない。飛雄の馬鹿、なにか「気づいてそう」だ。ばっちり憶えてるんじゃないか。気恥かしいけれど、抜け出せるわけもなく私はされるがまま赤葦さんに抱きしめ続けられていた。


「…ごめん」
「いや、大丈夫…ですけど」

どれくらい時間が経っただろうか。ハッと気が付いたように身体を放された。「ごめん、なんか抑えきれなくて。ほんとごめん」と私の肩に手を乗せ謝り続ける赤葦さんに「もう本当に大丈夫ですから、吃驚しましたけど」と笑ってみせた。


「空は今まで」
「宮城に居ました」
「やっぱり。ねぇ空、空と飛雄って」
「飛雄は私で、私は飛雄なんですよ」
「…ま、なんとなく解るからいいや」

わかっちゃうのか、すごいなこの人。

「なんかさ、飛雄もやっぱり空に似てたから、男だったとしても甘やかしちゃうよね」

どこぞの及川さんとは正反対なんだな、なんて頭の隅で思った。多分、私の知っている飛雄よりは真っ直ぐ育ってるんじゃないかと予想した。そういえば、笑い方とか自然だったし。

「また、会えてよかったよ」
「…赤葦さん前の私を随分甘やかしてくれましたからね」
「随分慕ってくれたからね」

だって赤葦さん凄くバレー上手だったし、優しかったし。


「ほんっとにどっかの誰かさんとは大違いで!」
「…なんの話?」
「多分私が前より捻くれた性格をしてるって話です」
「は?」

なんかよくわからないけど、お疲れ様?なんて頭を撫でる赤葦さんにむず痒い気持ちになった。この人は、本当に全く変わらないんだなぁ。


「あ、空バレー部は」
「私、バレーやめました」
「……え?」
「私、バレー辞めたんです」


目を見開く赤葦さんに、とても申し訳ない気持ちになった。



◇◆◇


「バレーが出来ないんなら、マネージャーやろうぜ」

目の前の木兎さんがニッと笑って空の頭に手を乗せた。え、と複雑そうな顔をする空。俺も、少し眉を顰めた。


「選手じゃないにしたって、あまり無理はさせられません」
「…駄目?」
「選手じゃないんなら、大丈夫だと思いますけど」

空無理してないかな、木兎さんの性格を知っているからこそ断るのに苦労がいることを空は知っている筈だ。あと断ると逆に面倒な事になる。

「お前ら、影森のフォロー大丈夫だろ?」
「私達はいいけどー…ねぇー?」
「私達3年が卒業したら影森ちゃんフォロー出来る人居なくなっちゃうよ」
「それは俺が」

え、と木兎さん白福さん雀田さんが声を漏らした。あ、と俺は口に手を当てる。にやにやとマネの2人が笑う。

「赤葦ってばー」
「なんだかんだで影森ちゃんにマネやってもらいたいんだ」
「うるさいですよ、そこ」

こほん、と咳を払う。そして空に目を向ける。


「空は、どう?マネージャーやりたい?」
「私は…」
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