「…中学卒業まで、持つか微妙だね」
「、痛みは無いです」
「薬で誤魔化しているにすぎないんだからね」
「わかってます」

定期健診、状態は芳しくない。眉を寄せる先生に少し申し訳ない気持ちになった。

「なんだかんだで、最後です」
「…俺が言うのも可笑しな話だけど、影森さんはよかったの?」
「はい、いいんです」

私は足を撫でる。痛みは無い、そもそも感覚があまりない。今日は本当に不調な日だ。はぁ、溜息を吐いた。大丈夫、あとちょっとだから。


「頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」

先生にお辞儀をして、診察室から出る。真っ直ぐ家に帰ろう。家に帰って、また色々考えなくては。


「空ちゃん」
「げっ及川さん」
「げっ、ってなにさ」
「…お久しぶりです」
「久しぶり。俺は何度か北川第一の試合見に行ったりしてたけどね」

空ちゃんの試合も見てたよ。なんて言う及川さんに心臓が音を立てた。自覚はしている、でも

「なんかさ、空ちゃん変わったよね」

改めて言われてしまうと、苦しい。


「なんかさ、自分勝手になったっていうか。どうしたの、あんなトスあげて。チームメイト凄く打ちづらそうだったよ?」
「…他の皆が、遅いんです」
「あっそ。そう思うんならそう思っててもいいけど」

つまらなそうに、不快そうに及川さんは言葉を吐き捨てた。及川さん、私は口を開く。

「なに?」
「…サーブ教えてください」
「ほっんと変わんないねお前!」

思いっ切りデコピンされた。痛い。おでこを押さえながら及川さんを見る。

「及川さん」
「なに?」
「今年、卒業です」
「そうだねー。空ちゃんどこの高校行くの?」
「……さぁ」
「さぁってお前ね。まぁ空ちゃんは白鳥沢かな」
「行けたら行きたかったですね」
「…ふーん、行きたかったってことは推薦貰えなかったんだ?」
「うっさいです及川さん」

貰ったところで、白鳥沢なんか行かないけど。「あとは新山女子とか」なんて言う及川さん。私は何も言わない。

「空ちゃん?」
「、なんですか」
「…あんまり、楽しくないでしょバレー」

そんなこと、ない。そんなこと無いはずだ。私は


「バレー以外、することないですから」
「お前も馬鹿だね、本当に」



◇◆◇


「…どういう、状況ですか」
「バレーやりたいんでしょ?」

空を連れてやって来たのは青葉城西。俺のジャージを着させて、まぁ目立つけど中学生の制服じゃあね…。体育館に足を踏み入れると岩ちゃんが居た。俺を見て…いや空を見て驚いた表情をする。

「…なにしてんだお前」
「ちょっとね」
「誘拐は犯罪だぞ」
「ちょっと!?」

きょろきょろと体育館を見渡す空に「じゃあやろうか」なんて言う。ふん、変に沈んでる空の為仕方なくなんだからね。


「え、あの…ちょっと今日は…」
「え、バレー馬鹿の空がバレー出来ない日があるの?」
「………」

唇を噛んだのがわかった。なんだ、なにか変だ。いや空は前から変だったけど…なにか可笑しい。俺が折角バレーしてやるって言ってるのに、この対応。意地でもバレーする筈なのに。

「空」
「……」

無言を貫き通す。岩ちゃんも可笑しいと感じたのか、眉を顰める。もう一度、空の名前を呼んだ。手を握る、空の手は震えていた。


「私、中学でバレーやめます」

ぽたぽたと落ちる雫に、俺達は息を飲んだ。
<< >>