今日も赤葦さんの怒声が体育館に響いた。


「空いい加減にしなよ」
「……」
「赤あ」
「木兎さんは黙っててください」
「……はい」

木兎さんと体育館で正座。木葉さんが「お前らまたかよ」とケラケラと笑った。「笑い事じゃないんですよ木葉さん」と赤葦さんの低い声に、木葉さんは押し黙った。


「空、木兎さんに何回トス上げた?今月怒られるのは何回目?」
「…13回目、です」
「よくもまぁ、空も学習しないね。空は無理しちゃ駄目だってわかってるでしょ?」
「わかって、ます」
「じゃあなんでトス上げるの」
「うう…っ」

仁王立ちで腕を組む赤葦さんが魔王のように見えて怖い。そりゃあやっちゃいけないって自覚してる。けどやっぱりボール触ると、やりたくなる。

「まぁまぁ赤葦、俺がいつもあげてくれって言っちゃうのも悪いし」
「そうですね、木兎さんも悪いです。あんた先輩なんだからちゃんとしろよ」
「だってめっちゃ打ちやすいんだぞ空のトス」
「どうせ俺は空より下手クソですよ」
「あー!そういう意味じゃねーよ!赤葦のトスだって俺好きなんだからな!」
「ありがとうございます。でもそれとこれとは話が別なので」

ぐちぐちぐちぐち、赤葦さんのお説教が続く。足が痺れてきた。ここで木葉さんが助け船で「おーい、赤葦もうそろそろ練習始めようぜー」と言った。はぁ、赤葦さんは溜息を吐く。いつも、すいません。ちゃんと自重しようと心に誓う。



「やっぱり、空をマネにするの反対すればよかったかな…」

私も、やらない方が良い気がしてきた。退部届をだそうかな、なんて考え始める。「まぁ仕事はちゃんとしてくれるし、気が効くし、バレーのこと良く解ってるから助かるんだけどね」下げてから上げるのが上手らしい赤葦さん。伊達に木兎さんのお守りをしていない。

「失礼な事考えてない?」
「褒めてました」
「…どうだか」

全部お見通しの赤葦さんが怖い。

「今度また俺が居ないところでトス上げたら、バレー出来ないようにどっか繋げておくから」
「私は犬か何かですか…?」



◇◆◇


「あ、飛雄からメールだ」

部活が終わって携帯電話を見るとメールが1件。『今日青城と練習試合した』という内容のメールだった。そっか…青城と練習試合今日だったんだ。「勝った?」とメールをするとすぐさま「当然」と返って来た。なんか文字打つのめんどくさいや、私は飛雄の電話番号をタッチした。電話片手に、とぼとぼと歩き始める。

『俺も今掛けようとした』
「大体思考回路は一緒だもんね。どうだった?面識ない元チームメイトは」
『違和感しかねーや』
「あはは、ごめんね」
『別にお前のせいじゃねーだろ。気にしてねーし。全員俺見て目見開くんだ。国見がお前の名前、呼んでた」
『……、そう』

国見は、私の事をどう思っているだろうか。…どうも、思っていないかもしれない。ふっ、と笑いが零れてしまった。


『なぁ』
「なに?」
『インハイの予選、見に来ないか?』
「宮城の?」
『おう』

インハイかぁ…どうしようかな。確か宮城と東京でインハイ予選はちょっとズレれた筈だ。見に行こうと思ったら行けなくもないけど。
そんな事を思っていたらこつん、頭に軽い衝撃が走った。振り向くと、赤葦先輩。「お疲れ様です」と声を掛けた。

『?先輩か』
「うん、赤葦さん」
「、もしかして電話の相手飛雄?」
「そうですよ」

飛雄元気?なんて赤葦先輩が言う。聞こえていたらしい飛雄は『この前電話したじゃないッスか』と笑った。…おお、飛雄本当に赤葦さんの後輩なんだ…。あの意地の悪い及川さんの時とは打って変わって嬉しそうな飛雄の声。なんだかくすぐったい。

「赤葦さん」
「何?」
「私と飛雄は、赤葦さんめっちゃくちゃ好きです」
「…なに、突然」

及川さんとは比べ物にならないもんね、なんて電話の向こうの飛雄に同意を求めると『及川さんと比べるなんて赤葦さんが可哀想だ』なんて返って来た。飛雄も、赤葦さんには凄く懐いているようで、前の私みたいに。

「俺も好きだよ。可愛い後輩たちだし」
「飛雄聞こえた?私達可愛い後輩だって」
『意地の悪い及川さんと全然違うよな赤葦さん』
「ほんとそれ、及川さんなんて嫌いだ」

私、宮城出る時にたまたま及川さんに会ってキスされたし。からかうにしても限度があるよね、私もやり返してやったんだけどさ。なんて言うと電話の向こうの飛雄と、目の前に居る赤葦さんが無言になった。…え?


「なに、その及川って奴」
『お前及川さんにキスされたのか』

低い声の2人に私は顔を引き攣らせた。
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