アイツは今どこに居るんだろう。ふと授業中に空を見上げてはぼーっとそんな事を考えている。中学の卒業式から、姿すら見なくなってしまった俺達の仲間は、今どこに居るんだろうか。考えたってわかるはずの無いこの疑問は、ずっと俺の中に居た。


「まぁ青城
ウチ
ではないよな」
「校内でそれらしい人見たことないし。アイツ及川さん見つけたら飛び付きそうだけど、そんな人間も見当たらないしな」
「飛び付くって、犬じゃあるまいし」

犬とさほど変わらないだろ、アイツ。アイツは否定してたけど、やっぱり端から見て空は及川さんに懐いていたように見えたし。実際は、まぁ…アレだけど。それでも、俺はあんまり良い気がしていなかった。


「国見と影森って、喧嘩したままだったよな」
「あれは喧嘩だったのかも曖昧だけどな」

喧嘩、なんて言葉で片付けられるものではないだろう。仲直り、なんて言葉は存在するんだろうか。俺達の間に入った亀裂は、元に戻せるのだろうか。


「そもそも会えないんじゃ仕方ないよな」
「…そう、だな」

本当に、アイツどこ行ったんだろう。俺はあの日から、影森を無意識に探している。




◇◆◇


「今日は烏野と練習試合だからね。なんでもすごい1年が入ったみたいだから注意。ちなみに俺はこの前グキッっと行った足を見てもらう為に接骨院寄ってから来るから。OK貰ったら試合も出たいけど微妙なところだから岩ちゃんよろしくね」
「おー」

昼のミーティング、今日の練習試合のメンバーに俺と金田一。烏野なんて近頃じゃ全く聞かなかった名前だ。どうしてそんなところと練習試合?よほどマークしておきたい選手が居るのか。

「1年からは国見ちゃんと金田一ね。頑張って」
「はい!」
「…はーい」
「国見ちゃんやる気!」

及川さんのノリは、相変わらずめんどくさいなぁ。眠気と格闘しつつ、ミーティングを話を流す。及川さんは知ってるのかな。空が、どこに行ったとか。及川さんは、俺達に影森の話をしない。あの試合を見ていたせいか、俺と影森が仲違いしているせいか。全部、察しているんだろうか。


「国見ちゃん」
「…なんですか」
「元気が、ないみたいだからさ」
「、気のせいですよ」

そう?なんて及川さんが首を傾げる。俺はいつもと、なんら変わりないはずだ。何も変わらない。俺は、未だに後悔してる。




◇◆◇



「―――――」

俺と、金田一が息を飲んだ。授業が終わり、烏野との練習試合が開始されて、すっげーチビなミドルブロッカーがいて
それで――


影森にそっくりなセッターが居た。

顔がそっくりとか、そういう意味合いではない。烏野のセッターのセットアップは影森そのものだった。昔の、俺達にあげていたトスのように数分の狂いなくアタッカーにボールをあげるそれは、どうしようもなく影森と同じもので。


「影森、」

そう呟いた時、相手のセッターが俺の方をみた気がした。












「えーっと、影山…飛雄ちゃんね。凄いねぇ…あんなセットアップを見るのは君で2人目だよ」

遅れてやって来た及川さんが笑顔で言った。思った事をすぐ言う人だ。烏野セッター、影山飛雄っていうのか。俺はじっと影山を見る。「飛雄ちゃんは止めろ飛雄ちゃんは」と呟いたのが聞こえた。

「あーやだやだ、天才ってのはさぁ…」
「それを」

影山が、口を開いた。ピーッと笛が鳴る。及川さんがボールをあげた、サーブトスの動き。狙い目は、眼鏡の奴かな。えげつないなぁ及川さん。俺は相手チームを見る。笛の音にかき消されそうになった、影山の声が、クリアに俺の耳に届いた。聞こえたのはきっと俺だけだ。

「それを空に言ったら、ゆるさない」

影山飛雄は、何を知っている?





◇◆◇


練習には負けた。影山のセットアップに気を取られていたけど、あのチビのミドルブロッカーも異常だった。楽しそうにボールを打つスパイカー。ああ、影森にもあんなスパイカーが居たら、違う未来があったかもしれないな。あんな、中学最後の酷い試合なんか起らなかったかもしれない。なんて、夢物語。


「及川さん」
「なぁに?」
「影山飛雄って知ってますか」
「さっきのセッター君でしょ?空ちゃんそっくりな」
「…そういう意味じゃなくて」
「?どういう意味?」

さっきの影山の呟きは、やっぱり及川さんには届いていなかったようで。疑問の表情を浮かべる及川さんに俺は口を開いた。


「さっきのセッター、多分影森の事知ってますよ」
「へー?親戚かな。それならしっくりくるよね。名字違うから双子って訳でもないだろうし。で、それが?」
「さっきアイツ、笛が鳴った時及川さんに向かって」
「え、俺?」
「はい、及川さんに向かって「それを空に言ったら、ゆるさない」って言ったんですよ」

そう言うと、及川さんが身体を固まらせた。そんな及川さんに、俺は疑問を抱く。なんだ?及川さんも、何か知っている…?


「飛雄ちゃんって、空ちゃんと親しいんだね、かなり」
「…なんで、そんなこと思うんですか?」
「だって空ちゃんの秘密知ってるんだもん」

そう、及川さんは悲しそうに言った。
ああ、痛いなぁ。俺はいつだって置いてけぼりだ。
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