あれ以降、飛雄はバレー部に顔を出すようになったらしい。毎日放課後、金田一君となにやらくだらない口論をしながら、それでも楽しそうに体育館へと向かう飛雄を何度も目撃した。その姿に、私は安心する。

「ところで国見君は部活に行かなくていいの?」
「いいよ俺は。この前1年分くらいの体力使ったし。あいつら暑苦しくてずっと一緒にはいたくないし」
「そ、そっか…」

ぐでーん、と机に横たわる国見君に苦笑する。国見君は変わらないなぁ。あの時の国見君は、今までに見たことが無いくらいに覇気があって…って流石に失礼だね。でもやっぱり、いつもより生き生きとしていた。「いつもあんな感じでいたらいいのに」なんて言うと「金田一や影山みたいに単細胞じゃないから俺。無理」と返された。国見君の中の2人の評価は、一体どうなっているのだろうか…。

「そういえばさ、なんか金田一が一緒に青城に行こうって影山を説得してるみたいなんだけど」
「受けるだけなら青城もまだ間に合うけど…正直な話、ちょっとだけ偏差値低めな烏野でギリギリだと思うよ。補習と、私のスパルタでギリギリ」
「だから最近高槻やつれてるんだ?」
「う、嘘…やつれてる?」
「うん、目の下のクマ。ほんと影山馬鹿だからね。心中お察しする」

バレー取ったら影山ただの馬鹿だもんな。という国見君に残念ながら同意せざるを得ない。
金田一君の気持ちも、分からなくはない。漸く飛雄と打ち解けられて、これからだというのに中学卒業で離ればなれ。そうなんだよね、もうこの3人が一緒にバレーをすることは、できないんだよね。「俺は別に、影山の事嫌いだから一緒の高校じゃなくていいって安心してるけど」とムスッとしながら言う国見君に苦笑した。仲直りしても、国見君って飛雄の事嫌いなのかぁ…残念。

「国見君1年の頃は飛雄と仲良かったでしょ?」
「あの頃の影山はまだ可愛げがあって素直だったからな。でも今のアイツは嫌い。嫌いっていうか…やっぱ嫌い」

そう言いながらも笑う国見君に、私はなんだか嬉しくなる。「何笑ってるのさ」と国見君にデコピンされた。痛い。おでこを押さえていると国見君の手が私に近づいた。国見君が口を開く。そして、

「高槻」
「あーもう!お前いい加減に折れろよ!国見に高槻、お前らからもなんか言ってやってくれよ!」

国見君の言葉を遮って、金田一君が飛雄を引き摺って教室に入ってきた。飛雄の首には金田一君の腕が回っている。若干飛雄の顔色が悪いけど…大丈夫かな。そんなことはお構いなしで金田一君は飛雄をぶん投げた。

「俺は!高校でも国見と影山とチームメイトとしてバレーがしたい!」
「…青城には及川さんが居るだろ」
「あー!だから違うんだっつーの!なんでわかんねーんだよ。及川さんもすごいけど俺は!影山とバレーがしたいんだっつーの!」

どちらも譲らない。…譲らないというか金田一君、ごめんね。実は飛雄に「俺、今からでも青城行けるか…?」なんて相談されてたんだけどね、現実はちゃんと教えてあげなくちゃいけないってって思ったんだ。「絶対無理だよ」って言っちゃったんだよね。ごめんね。でも、こればっかりは仕方ないんだよ。ハハハ…と乾いた笑いを上げる国見君が溜息を吐いた。

「影山馬鹿から青城は無理だって。影山馬鹿だから」
「推薦きてんだろーが!スポーツ推薦!」

え、と国見君と声が重なる。渋い顔の飛雄。

「そんなもん、とっくの昔に蹴った」
「んの馬鹿!」

あー、推薦の締め切りはもう過ぎてるね。前の飛雄、青城に行く気は全くなかったから…。「いい加減諦めろよ金田一」と国見君が声を掛けると金田一君は項垂れた。

「影山だけ違う学校かよ…」
「藤乃はちゃんと青城に行くんだな」
「うん」
「ほら、全員青城だぞ。影山頑張れよ」
「えー…影山別に青城来なくていいよ」
「おい国見」
「おっと本音が」

ふふ、と笑みがこぼれた。もうすっかり仲良し組だ。ちょっと前までギスギスしていた関係が嘘のようだ。本当に…本当に残念だなぁ。3人がもう一緒にプレーできないなんて。


「高槻、どうした?」
「…寂しいなぁ、って少し思っただけ」
「…そうだな、もうすぐ卒業だもんな」
「影山以外は変わり映え無いけどな俺たち」
「……くっそ」
「はは、なんだよ影山。羨ましい?」
「お前ムカつく!」

満足そうに笑う国見君と、不機嫌そうな飛雄。「お前今から頑張ればギリいけるんじゃね?」とフォローする金田一君。もっと早く和解できていたのなら、もっともっと仲良くなれたね。なんて今更。「今が楽しいんだから、もうそれでいいじゃん」そういう国見君に、私は頷いた。
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