飛雄以外の他のバレー部のメンバーとはあまり関わった事は無かったけど、国見君と金田一君とはよく話をした。特に国見君とは3年間同じクラスだったので話しやすい部類の友人にカテゴライズされていた。中学最後の年、飛雄は2つ隣のクラス、国見君と金田一君そして私が同じクラスだった。3人で集まって話をすると、決まって1度は飛雄に対する愚痴が出てくる。たまに「あ、高槻は影山と幼馴染だったな…」なんて気まずい顔をされるけど、別段私は気にはしていなかった。だってその愚痴は、怒って当然の至極もっともな事だから。
なにも言わずに相槌を打って話を聞く私に「聞き上手」と認識したらしい金田一君は飛雄に対する愚痴を言いまくりだった。苦というほどではないが、若干疲れる。途中で机にうつ伏せて居眠りを始める国見君にずるいと思いつつ、私は最後まで金田一君の愚痴を聞き届けるのだった。

「もうすぐ、俺らの中学生活も終わりかぁ…そういえば高槻って高校どこに行くんだ?」
「私は」
「高槻は青城」
「え、国見君?」
「高槻は、青城だろ」
「お、俺らと一緒か」
「そう、俺らと一緒」

寝ていたはずの国見君が顔をあげ、有無言わせずに話す。「高校でもよろしくな!」と笑う金田一君に私は曖昧に笑うだけだった。私は、青城には

「ってことは影山も青城…?」
「影山は烏野だってさ」
「なんで国見が知ってんだよ」
「高槻に聞いた。白鳥沢一般で受けるらしいけど」
「推薦来なかったのか。というか影山が一般で白鳥沢とか」
「な」
「ああ」

ここにいる人間は飛雄の頭の出来を知っている。はははは、とみんなして乾いた笑いをあげた。無理だろ。無理だな。うん、無理だね。「でも影山が青城じゃなくてよかった」なんてホッとする金田一君に少し複雑な気分になった。

「彼氏が烏野だからって、高槻が行きたがってた青城諦める理由にはならないんだからさ。あんな奴の為に青春棒に振らない方が良いと思うよ」
「そーそー、影山のせいで楽しい高校生か――ん?国見今何つった?」
「彼氏が烏野」
「……は?」

金田一君が石のように固まった。あれ、国見君もっと前に金田一君に話してると思ってた。ぎりっと金田一君は拳を握りしめる。どうやら、お察しのようだ。私は苦笑を浮かべる。

「前の、あれか。2年が余計な事言ったやつ」
「…仕方ないんじゃない?」
「仕方ないで済ませるもんじゃねーだろ!」

私を置いて、二人は口論し始めた。どうしよう、止めるにもどう止めればいいのかわからない。「ちょっと二人とも…」と口を出そうとしたら「高槻はちょっと黙ってろ。影山引き摺ってくる」と金田一君が立ち上がるもんだから必死になって止めた。攻防を繰り返し、なんとか金田一君が諦めてくれたところで私たちは再び椅子に腰かけた。

「あれはアイツのただの八つ当たりだったんだ。あの後アイツすげー反省してたし。だから高槻が気にしたり、如何こうする理由は無いだろ。そもそも俺らもう引退して、影山が居なくなったバレー部にギスギスした雰囲気はもう」
「でもまた同じことが起こるよ。違う学校であっても、それは止めなきゃ。だから」
「そんなの高槻がやる必要ないだろ!」
「私は飛雄の幼馴染だもん。私が、なんとかしてあげなきゃ」
「おい!国見からも何か」
「こうなった高槻に何を言ったところで意味ないと思うけど?」
「おま、国見はそれでいいのかよ!」
「仕方ないよ、どいつもこいつも馬鹿ばっかりなんだから」

そんな国見君の言葉に笑ってしまう。そう、馬鹿ばっかりなんだよ。複雑そうに私を見つめる金田一君に「大丈夫だよ、私頑張るから」なんて言うと盛大に溜息を吐かれた。

「俺らのせいでもあるんだ。だから手伝う」

なぁ国見。と金田一君が視線を送ると国見君は「仕方ないなぁ…」と呆れ顔で笑った。私は本当にいい友人を持ったなぁ。なんだかとっても泣きそうになった。


◇◆◇



あー…ねっむ。とぼとぼと廊下を歩いていると背中で怒声を浴びた。声の主は金田一で、ああまた面倒なことになりそうだと俺は溜息を吐いた。取り敢えずそのまま無視して前に進むとダダダダと駆ける音の後「無視すんじゃねーよ!」と思いっきり頭を叩かれた。何するんだ全く…。追いついた金田一は俺の横へ、歩幅を合わせて歩き出した。

「お前高槻と影山が付き合ってたこと教えろよ!」
「なんで」
「なんでじゃねーよ!ていうかツッコミどころ満載だろ!お前は良いのかよ!」

お前高槻の事好きなんだろ!という金田一の言葉に動かしていた足を止めた。ふーん

「金田一ってそういうの鈍感そうで、割と気付いてるんだ」
「俺の感心してんじゃねーよ!あと微妙に貶すな!」

あーはいはい、と俺はまた歩みを進めた。ぐちぐちぐちぐち、金田一の小言が始まる。いつも思うけど、これずっと聞いてる高槻って本当にすごいな。俺30秒で寝れる自身がある。そんなことを考えていたら「聞けよ!」とまた頭を叩かれた。

「ぎゃんぎゃん五月蠅い。近所の躾できてない犬かお前は」
「すげぇ貶し方だなお前!」

あの二人の関係は曖昧で複雑で、でもとても単純だ。あの二人の間にあるものはただの罪悪感だ。互いが互いに、罪悪感を感じている。それ以外の感情がない二人に、俺は嫉妬なんてするわけない。...する、わけがない。
そもそも、俺たちにあの2人の関係をとやかく言う権利は無いだろ?そういうと金田一は口を噤んだ。

「俺らになにかできると思ってんの?」
「できる出来ないじゃなくて、やるんだよ!高槻ばっかり可哀想じゃねーか!」
「…まぁ、」

金田一の言う事も最もで。俺らには何もできない、なんて言い訳をして全部高槻に投げやりにするのは良くないよな。分かってる。

「でもなんだかんだで影山、高槻の話だったら聞くじゃん…」
「ま、ぁ…そうだな」

そう、影山は俺らの言葉なんか聞きやしない癖に、高槻の言葉にはよく耳を傾けていた。幼馴染だから、だろうか。やっぱり入り込めない空気はそこにはあった。それを、羨ましいと何度思った事か。

「…なんか考えてたら苛々してきた」
「今更かよ」

うるさいよ金田一。俺は不機嫌を隠すことなく金田一に言う。すると金田一が笑った、なんだよなんの笑いだよそれ。

「ムカつく、いけ好かない奴に高槻取られていいのか?」
「……やだけど」
「じゃあお前頑張らないとな」

な、国見。と金田一が俺の方に手を乗せた。くっそ、コイツ俺に丸投げする気だ。イライラしながらも「あー!はいはい、分かったよ頑張ればいいんだろ!」と肩に乗った金田一の手を振り払った。くっそ、この苛立ち全部影山にぶつけてやる。
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