「国見ちゃんってさ、蒼ちゃんの事好きなの?」

ていうか付き合ってるの?みんな気にはなっていたが敢えて触れなかった話題にメスを入れる俺にバレー部一同騒然とした。話題の張本人国見ちゃんは「はぁ?」という表情をしている。だって、あの国見ちゃんだよ?そもそも蒼ちゃんと接点が無いじゃん?及川さんすっごい気になるんだけど。同級生と後輩の曖昧な関係に。
あの日だってさぁ、俺が生徒会に提出するプリント無くしたから(後から机の奥底から見つかった、くしゃくしゃで)蒼ちゃんに貰いに行こうと思ったら「俺が行きます」なんて体育館飛び出して行っちゃうしさぁ…。
これはもう、聞くしかないでしょ!俺が気になるもん!

「で、国見ちゃんは一体いつどこで蒼ちゃん引っかけてきたの?」
「あんたみたいなチャラ男と一緒にしないでください」
「国見ちゃんが及川さんの事どう思ってるか小一時間くらい問い詰めようか?」
「10秒で十分です。チャラ男」
「はっはっは!小生意気な可愛い後輩をどうしてやろうか」
「チャラ男クズ川うるせぇ」
「岩ちゃんひどい!」

岩ちゃんに罵倒され、殴られる。酷い。でもみんな結局気になってるでしょ?全員の目線がこっちに集まってるし。国見ちゃんは溜息を吐き、そして一言。

「俺、今日も間宮先輩と帰る約束してるんでお先に失礼しますお疲れさまでした」
「は!?ちょっと国見ちゃんまだ話の途中――」
「電車の時間あるんで」

バタンと閉められた部室のドア。逃げられた、普通に逃げられた。「お前後輩にちょっかい出すの止めろよ」とか岩ちゃんに言われたけど可愛い後輩と同じ学年の女の子の恋路、超気になるじゃん!と言うと白い目で見られた。てめぇは恋バナ好きの女子高生か、と。岩ちゃんの口から恋バナとか超ウケるーとか言ってたら本気で殴られた。痛い。


「国見ちゃんの家って1駅先くらいじゃなかった?自転車で来ればいいのにねー。まぁ蒼ちゃんが電車通学だからなんだろうけどさぁ。わっかりやすいなー」
「いや、国見ただ単に体力使うの嫌だから電車使ってるだけっすよ」

国見ちゃん、一駅の距離も体力使いたくないのか。流石脱力系後輩。さて、俺も着替えが完了した。やることは、勿論



◇◆◇


「すいません間宮先輩、お待たせしました」
「ん、国見お疲れ」

俺より全然背は小さいのに、俺の頭をぽんぽんと撫でる。ちょっとだけ変な感覚になり先輩の頭を撫で返す。

「…なにこれ」
「知りません」

二人同時に頭から手を離す、少し惜しい気がした。あ、電車やばい。急ぐ?と言われたので「次の電車にしましょう、俺疲れましたし」という。実際のところ、駅まで走る体力はあるけど。こうやってずるい嘘を吐く。きっと先輩は気づいていない。

「あー、時間あるからコンビニ寄っていい?」
「アイス食べたいです」
「まだ夏でもないのによく食べる気になるね…」
「塩キャラメルアイスが新発売」

あー、なるほどなー。と先輩が納得する。先輩は何買うんですか、と聞くと「なにか飲み物…できればめちゃくちゃ甘いやつ…」と。珍しい、先輩甘ったるいのいつも飲まないのに。頭使い過ぎて頭がめちゃくちゃ甘いもの求めてるーとぼやく。生徒会、大変そうだな…。


「キャラメル食べます?」
「国見の食糧は奪えないなぁ」

主食でしょ?とか言われた。そんなわけがない。




「あ、あった」

お目当てのアイスを手に取り、飲み物コーナーへ足を進める。うーん…と飲み物が陳列されている棚と睨めっこをする先輩。

「飲みたいもの、ありました?」
「うん?いやー…キャラメルラテ…キャラメル」
「先輩もキャラメル好きになりましたか」
「どっかの誰かさんが塩キャラメル塩キャラメル連呼するせいだね、きっと。いいや、これにしよう」

キャラメルラテを手に取った先輩の手からキャラメルラテを奪い去る。そのままレジへ。ちょ、国見。その言葉を無視してアイスとラテをレジへ。くーにーみー!と近づく先輩の頭を片手で押さえつつ千円札を出す。お釣りはポケットへ突っ込みそのままコンビニを出た。


「国見、それ」
「はい、先輩どうぞ」

お金、と財布を出そうとする先輩を制止させる。たまには奢らせてくださいよ、ていうか頭ぼさぼさですよ。国見が頭押さえつけるからだろう!!ふん!と俺からキャラメルラテを奪い去る。偶に、子供っぽところが好きだったりする。いや、全部好きなんだけど。



「…ありがとう」
「どういたしまして」

ちょっと納得いかない表情の間宮先輩を無視してアイスの袋を開ける。棒アイスかと思ってたんだけど、なんかパピコみたいなアイスだった。まぁなんでもいいや。甘じょっぱい味が口に広がる。ん、おいしい。


「…あま、」
「先輩が甘いの飲みたいって言ったんじゃないですか」
「むー。いや、美味しいんだけどね」
「一口ください」
「ん」

間宮先輩から飲み物を受け取り一口。あ、これ美味しい。ちょっとだけ甘ったるすぎるけど


「あま」
「でしょう?」
「アイス食べます?多少しょっぱいですよ」
「もらう」

アイスの口を先輩の口元に近づけると、先輩は受け取ること無く俺の手にあるアイスに顔を近づけ、そのまま食べた。ごくっ、と喉が動いたのがわかる。

「しょっぱい」
「おいしいでしょ」
「しょっぱい」

妙な顔をする先輩。どうやら先輩にはお気に召さなかったようだ。


(あま…)
(しょっぱい…)









「あれで付き合ってないとか言ったら流石に怒るよ。ラブラブカップルじゃんうらやま」
「…後輩ストーキングすんじゃねーよクソ川…」
「いやいやいやいや、俺だけじゃないよ?」

及川が指さす方向を見ると、バレー部が殆ど全員家の塀に隠れていた。なにやってんだあいつ等…。なんだかんだで岩ちゃんも隠れて観察してるじゃーん!という及川に拳骨を食らわせた。

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