「そういえば、さっき練習試合していた烏野高校って、先輩の幼馴染さんがいらっしゃる高校じゃありませんでしたっけ?バレー部の、あの泣き黒子の人ですよねー。ちょっとお話して来たらいかがですか?」

私水石ちゃんのその話した憶え無いんだけど、なんで知ってるんだろうか。「んー毎朝話はしてるし、態々話す事もないからいいよ」と言う。それより、もういい時間だし戸締りして帰ろうか。窓の外は少し暗くなっていた。


「それでは先輩、また明日です!」
「水石ちゃんまた明日もよろしくね」

先に水石ちゃんを帰ら、一人生徒会室で息を吐く。あー部活申請書類コピーしに行かなくちゃ。どうせ及川の事だから無くしたに決まっている。無くしてないにしても、きっと机でぐしゃぐしゃになってるだろう。だから2年の終わり、主将は及川じゃなくて岩泉がいいんじゃないかって言ったのに。もう一度息を吐き、ファイル片手に職員室へと向かう。生徒会室から職員室って微妙に遠いんだけど。いっそ生徒会室にコピー機設置してくれ。とぼとぼと職員室まで歩く。
職員室に入ると、バレー部の顧問はまだ職員室に居なかった。ということはまだ部活中なのだろう。凄いなぁ、本当にうちのバレー部は。ずきり、昔の事を思い出した。国見は、大丈夫だろうか。私はそれを掻き消すように頭を振り、コピー機を借りてそのまま職員室を出た。来た道をまた戻る。プリント数枚の為にこの労力…及川マジで許さない。


「あ、間宮先輩」
「国見?部活お疲れ」

生徒会室に向かう途中でジャージ姿の国見に会った。いつも以上に気だるそうだ。そりゃあ練習試合後もきっと練習していたんだろう。本当にお疲れ様。頭を撫でると「ちょっと、やめてください」と心底嫌そうな顔をされた。ひどい。

「で、どうしたの?」
「及川さんが用紙貰ってこいって」

ちょっと顔合わせづらいからって押し付けられました、と呆れた笑みを浮かべる国見。あの馬鹿後輩をパシリに使うなよ。「でも片づけサボれたからまぁいいかなって」ちゃっかりしている国見に脱帽だ。

「丁度今コピーしてきたところ」
「流石、及川さんの行動読めてますね」
「及川が提出期限とっくに過ぎた用紙を持っているわけがない。…で、どうする?」
「ちょっとサボります」
「ははは、自分に正直だね国見」
「クーラーつけてください。暑い」
「春先でクーラーなんかつけるわけないでしょ」

むすっと不機嫌そうな顔をする国見。一般生徒はまだ冬服を纏っているというのに何がクーラーだ。運動後に身体冷やしたら風邪ひくよ。大丈夫です。大丈夫じゃないよ。そんな会話を生徒会室に着くまで続けた。


「あー…つかれた…」
「国見そんなに動いたの?」

お茶を渡す。スポドリじゃなくてごめんね。というと「塩キャラメル…」とお菓子を催促された。なんだこの後輩は、遠慮がまるでないぞ。スクールバッグから塩キャラメルを取り出すと国見の顔が微かに綻んだ。キャラメルひとつでこの反応。可愛いヤツめ。

「練習試合の後、めちゃくちゃ練習させられて、そっちでがっつり体力持ってかれました」
「それはそれは、お疲れ様」

もぐもぐとキャラメルを頬張ったかと思うと机に突っ伏した。私が思っていた以上に堪えているようだ。それから暫く国見は机と一体化していた。どうしようか、もうそろそろ電車の時間がなぁ…なんて思っていたら漸く国見が身体を起こした。


「先輩、まだ残っててくださいね」
「え、もう帰るよ」
「次の電車にしてください。俺着替えてくるんで。ここに居てください」

はいともいいえとも言わないうちに国見は走り去ってしまった。こうなると勝手に帰る訳にもいかず、少し時間を潰す。あ、そう言えば国見用の塩キャラメルが終わるからもうそろそろストック買っておかないとなぁ、なんて考える。あ、やばい、あの仕事やってないや。明日朝やらなきゃ。そこらへんに転がっていた付箋にメモ書きをし、机に貼り付けておいた。

パタパタと廊下を走る音が聞こえた。よし。と私は腰をあげる。

「お待たせしました、間宮先輩」
「ん、帰ろうか」

というか電車まで結構時間あるんだけど。じゃあコンビニでも寄って行きましょう。こうして私達は生徒会室を後にした。
翌日、生徒会室の机に貼った付箋を見て私は頭を抱えることとなる。


「せんぱーい!この机のメモなんですかぁ?」
「…間違えた、どんな間違い方…」
「買い物メモですか?国見君みたいですねー」



【会長メモ:塩キャラメルを買う】

今日やるはずの仕事をメモした筈なのに間違えた…。昨日私何しようとしたんだっけ…。と5分くらいその付箋を睨み頭を抱えた。

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