朝が大の苦手な私は、何とか6時くらいに起きる。…起きると言ってもここから10分以上ぽけーっとして本日何度目かの携帯電話のアラームで「ああ、もうそろそろ用意しなくちゃ…」なんて行動を始める。ゆっくりとベッドから抜け出し、階段を下りて洗面所へ。ぼさぼさの頭にぽけーっとした目、いけないいけない。私は蛇口を捻りばしゃっ!と冷たい水を顔に叩きつけるように掛ける。ここで漸く私の意識はクリアになる。よし、髪を梳かして制服に着替えよう。さっきとは打って変わって私はきびきびと2階へ続く階段を上る。
髪を梳かして一括りに。きちっと制服を着こなす。時刻は7時ちょっと前。この時間、玄関を開けるとほら、いつもみたいに

「おはよう蒼」
「おはようスガ。毎朝朝練お疲れ様」

幼馴染でご近所さんの菅原孝支と出会う。丁度同じくらいに家を出る。スガが寝坊するなんてことはまず無いが私がこの時間家から出ないものならば間宮家のインターホンを鳴らして「蒼ー!起きないと遅刻するぞー!」と呼んでくれるほどだ。

「蒼も毎朝お疲れ」
「私なんて何にもやってないよ。それより部活どう?」

あ、そうそう聞いてくれよ!今年1年4人入ったんだけどさ、すごい1年が居て…。なんて5分くらいスガと会話をする。ほぼ毎日する、最早日課のようなものだ。どちらかが話を切るわけでもなく「んじゃ、もうそろそろ行くか」「うん、じゃあねスガまた明日」なんて自然に別れる。
さて、結構ゆったりと会話をしてはいるけど時間がかなり危なかったりする。電車の発車時刻まであと…10分ちょっと。私はスクールバックをしっかり肩に掛け、駅までダッシュする。徒歩15分の道のり。猛ダッシュをしたり、裏道を使ったり、道ではない道を突き進んだりとあの手この手で駅まで向かう。多分、土地所有者の方に見つかったら怒られる。でもまぁ、あと1年も無いんだからきっとバレない。今日も、塀を飛び越えたりで、なんとか駅に向かうのだ。




さてさて、結果的に電車には間に合った。毎朝毎朝とんでもなく体力を消費してしまう。最寄駅ですら微妙に遠いんだよなぁ…自転車でも買おうかな、今更だけれど。
こんな事ならスガと同じ烏野を受ければよかったかな、なんて少し後悔をする。烏野なら徒歩通学距離範囲だし…。まぁすべて今更なのだけれど。そう悔みながらも丸2年通った高校だ。今年で最後…最後…かぁ…。何となく寂しい気持ちになった。まだ春先だけれど。
電車の座席に腰掛け、朝の陽ざしを受ける。私が乗る駅から乗車する人はあまり居ない。がらんとした電車、私はゆったりと目を瞑る。降りる駅まで約20分、いつも通り寝ちゃおう。多分、いつものようにあの子が起こしてくれるはずだから。そんなことを思いながら私の意識は朝焼けに微睡んだ。



◇◆◇


「…ん…い……間宮…輩」
「んー…?」
「おはようございます間宮先輩。次、降りますよ」
「んー」
「取り敢えず起きてください間宮先輩」
「んー…?」

ふわふわな意識の中、私はあの子に手を引かれ多分電車を降りた。ふわぁ…と欠伸をして手に少し力を籠めた。ぎゅっと彼が握り返す。

「んぁー…おは、よう…国見。ありがと、起こしてくれ…て」
「全然起きてないじゃないですか先輩。ほら、目を開けてください目を」

ぺちぺちと頬を叩かれる。あー…と目を開けるとむすっとした表情の後輩。「ほら、シャキッとしてください間宮先輩。威厳が無いですよ」なんて言う。本より、私に先輩の威厳というものは無いと思うし、それほど必要と模していないよ国見。

「生徒会長様が何言ってるんですか。それより俺朝練遅刻ギリギリなんで、早く行きますよ」
「なんで私も急がないといけないの…」
「あんたほっといたら壁に激突してるからでしょうが。朝の間宮先輩には目が離せないんです」
「……起きます」
「はい、起きてください」

毎朝、降りる駅のひとつ前の駅から乗ってくる国見に起こされる。これも私の日課。必ず降りる駅で起こしてくれる、超高性能目覚まし時計だ。国見が居なかったら、私はきっと終点まで電車に乗り続けているだろう。朝練に行く為に同じ電車に乗ってくる国見に感謝だ。
面倒だと言いつつ毎日バレー部の朝練に行くあたり、やっぱりバレーが好きなんだろう。それでもまぁ、他の部員よりは遅い時間に来ているらしいけど。

「ところで間宮先輩」
「なぁに?」
「なんでこんな朝早くの電車に乗ってるんですか。普通に登校するだけならもう1本後の電車でも余裕でしょう」
「んんー?委員会の仕事とか委員会の仕事とか…あと委員会の仕事とかの為…かなぁ」
「全部委員会の仕事じゃないですか。少しくらい他の奴に仕事やらせればいいじゃないですか。毎朝毎朝…」
「私が一番暇人だから。他の役員、部活と両立してるし。それに私一人だけってわけじゃないのよ。必然的に私の仕事が多いだけ。心配なら、私の事手伝ってくれちゃったっていいのよ?」

まぁ、国見には合わない仕事だろうけどね。ただ只管に単調な事務作業をやるばかりだもん。絶対国見の苦手部類の仕事だ。こればっかりは向き不向きがある。私は結構得意だったりする、こう単調な作業は。

「…間宮先輩が塩キャラメル献上してくれるのなら、手伝ってやらなくもない…です」
「いやいや冗談だよ。国見部活忙しいでしょう。しかも仕事って国見が如何にも嫌いそうな資料纏めの仕事」
「……ホチキス留めとか」

この可愛い奴め。

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