▽昔話
 国見視点


あ、今日もまたあの人を見つけられた。
部活帰り、俺はいつもの人を視界に捉えた。毎朝見かけるあの人、放課後にまで会えるなんて珍しいな。馬鹿みたいだけど、少し得した気分になった。影山に食いつかれて色々言われたムカつく感情も何処かに行ってしまった。気づかれないように、ちらりとあの人を見る。…?なんか、顔色が…?そんな事を思っていると彼女は俺の横を通り、駅の改札に吸い込まれるように行ってしまった。「どうした?国見」という金田一の声に「俺、今日ばあちゃんの家行くからここで」と急いで切符を買い、あの人の後を追った。ばあちゃんの家行く電車、逆方向だ。

ゆっくりと、階段を登るあの人。随分とゆっくりだ。追いかけるように階段を登ると、彼女の足が止まった。
とまって、それで

後ろへ


は、俺も足を止める。ゆるやかに、彼女の重心は後ろへ。おちて、くる。あの人は、受け身を取る気が全くなさそうだった。腕が宙を舞う。は、マジ?幸い、そこまで高くない。受け止めて落ちても、大怪我にはならないだろう。

おちる、腕を掴む
引き寄せて、抱きしめる

ふわり、あの人の髪に、肌に触れる。あ、こんな時でも冷静だな俺。柔らかいし、小さいなぁ。
落ちる。床に、叩きつけられる。腕、なんか変にぶつけたな。そんなに、痛くは無い。ばっと彼女が上体を起こす。目が、合う。あー、目が合ったのなんて初めてだ。ずきりと腕が痛んだ。「救急車を」なんて小さな声で言うあの人、泣きそうな顔が酷く愛おしい。

「怪我、ないですか?」

次の瞬間怒鳴られるなんて思いもしなかった。小さな診療所に引き摺られるように連れていかれて、あの人の、間宮蒼さんの名前も知れて、知り合えて。俺としてはこんな怪我何とも思わない。むしろラッキーだと思えるくらいで。
はい、これでさようなら。なんてさせない。縁は切らせない。やっと繋げた縁なのだから。俺は心の中で誓う。



「蒼さん、好きですよ」

蒼さんは知らないでしょうけど、俺ずっと前から好きだったんですよ。

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