子供の声が聞こえます、苦しくか細い声でした。ゆらりゆらり、私はとある人間の家に入りました。子供が一人そこに居りました。ぼろぼろと零れる涙、声はもう擦れていました。命が揺らいでいる。人の子の親は、何をしているのでしょう。私は一掬いの水を人の子の与えました、森の命です。口に含み、喉が動いた事を確認しました。ゆっくりと、人の子は目を開きました。

「――お、かあさ…?」

私を見て、人の子は確かにそう言いました。私を見て、確かにそう言ったのです。化け物如き私を見据え、その子は笑いました。なんと愛らしい事でしょうか。私はその子の頭を撫でます、その子は微笑んで眠りにつきました。


この子を護りましょう、母と呼んだこの子を。
とある化け物の噺でございます。
<< | >>