Hercules



「というかオカ研は何をしている」
「天文部の活動ですってば岩泉一先輩」
「奇声を上げるのが天文部か」
「一人丑の刻じゃないのに藁人形と五寸釘持ってきてしまって、阿鼻叫喚でした」
「なんなんだよ本当に」


私はちゃんと、祈りを乞うように両手を握ってお月さまとお話しておりました。にっこりと笑う安心院に俺と及川はなるべく目を合わせないようにした。


「えーっと、まぁそこら辺の話は置いといて…なんだ岩ちゃん、安心院ちゃんと帰る約束してたんだ。ごめんね俺邪魔で!」
「ほんとお前邪魔だぞ、手離せ手!」
「やだやだやだやだ、誰かにくっついてないと魂がうっかり飛び出る気がする。あ!岩ちゃんじゃなくて安心院ちゃんでも……あ、なんでもない」


手を離したかと思えばまた腕にしがみ付いてきた。そのまま軽口叩いて安心院と手を握ろうとするかと思ったが…まぁ及川の気持ちはわかる。安心院にひっついていたら現状が更に悪化するような気がする。オカ研でなくとも安心院は電波入っているのだ。何が起こるかわかりやしない。


「あら、私の手、空いてますよ」
「岩ちゃんより安心院ちゃんの手を握りたいのは山々だけど」
「おいクソ川」
「大丈夫です、たまに聞こえちゃうかもしれませんが」
「何が!?」
「大丈夫です」
「絶対大丈夫じゃないよ!?」


「もう、やだなぁ冗談ですよ。私は霊感これっぽっちもありませんから」私『は』の部分が強調して聞こえた。いやでも、あの黒マントと一緒に居る人物だ。前例(犠牲者という名の金田一)も居るわけだし、霊感無いにしたってなんかアンテナでキャッチしそうだ。って違う違う、幽霊なんて非科学的なもの居るわけないだろう。そうだ、根本的に否定しなければ。居ないものを怖がってどうす「あら岩泉一先輩、やっぱり怖いんですか?」

「はぁ!?」
「幽霊の存在は否定するのに、それを怖がってるじゃありませんか」
「怖がってねぇよ。つーか人の心の中読むな!」
「岩ちゃん、残念ながら心の声は口からだだ漏れだったよ」

マジか、俺は口を押さえる。「はは!岩ちゃんも怖いんじゃーん!」さっきよりひっついてくる及川の頭を掴み力を籠めた。「いだだだだだ!!割れる割れる!頭割れる!!」こんな程度で人間の頭が割れてたまるか。「スイカの玉がぐしゃっ…」小声で言った安心院の言葉をイメージしてしまい、ふと手を離した。及川が自分の頭を押さえる。じっと、安心院は及川を見ながら口を開く。

「スイカがぐしゃっていくと、なんだかグロいですよね」
「やめろもうそういう風にしか見えなくなる」
「海でやるスイカ割りってどうも頭をかち割っているように見えて」
「まって安心院ちゃん。なんだかんだでスイカ割りはみんなのロマンだからそんな事言うの止めて怖い怖い」
「飛び散る赤い液体」
「おい馬鹿止めろ」
れー!という怒号」
「違う違うなんか全然違う」
「ぶっちゃけ包丁でぐさって行った方が無駄が無いですよね」
「至極もっともだが変に違う意味に捉えてしまう」
「頭に突き刺さる包丁…」
「及川馬鹿止めろイメージするなやめろ」
「スイカの話ですよ?」


寧ろ頭の話してたらドン引きだよお前。「お前何、スイカに恨みでもあるの?」「だって危険じゃないですか」顰めっ面の安心院。なにが危険だと言うのだろうか。





「スイカの種食べたら、お腹の中でスイカ育っちゃうじゃないですか」





…どこまでがボケなのだろうか。無言になる俺と及川の反応に「…え、なんですか」と首を傾げる安心院。いや、冗談…だよな?「私はうっかり者なので、昔からスイカを食べないようにしてます」スイカ以外果物の種は大丈夫だとでも言うのだろうか。全部大丈夫だ馬鹿野郎。

「突然のド天然で安心院ちゃんを可愛いと思ってしまった」
「俺はさっきの発言ひっくるめてまで可愛いとは思えないぞ…」
「なんですかド天然とか」
「安心院、お前スイカ嫌いだろ」

ピシッ、分かりやすいように固まる安心院に俺は笑ってしまった。さっきは単に自分が嫌いな食べ物だからポンポンと変な言葉が出てきただけか。また不思議なものが苦手だな、と俺は安心院の頭を撫でる。「ち、ちげーですし。すすすスイカなんて嫌いじゃないですし」なんとわかりやすいことか。


「なぁに安心院ちゃん、スイカ嫌いなの?スイカバーは?」
「スイカに串刺しただけじゃないですか」
「違うよ!?全然違うよ!!」
「……違うのですか…?」
「ボケじゃなくてマジで言ってるよこの子。どうしよう岩ちゃん、安心院ちゃん超可愛い」
「お前のツボが意味わからん」
「安心院ちゃんお持ち帰りしたい。安心院ちゃん、スイカバー買ってあげるから俺んちおいで?」
「おい誘拐犯」

及川が可笑しくなった…って前からこんなもんか。再び及川の頭を鷲掴む。スイカイメージしたけどもういいや、潰れちまえ。「じゃー!俺のスイカが潰れるー!」いや頭だからそれ。「大丈夫です、某つぶあんぱんまんの様に頭を取り換えれば」「俺はこしあん派ー!ていうか及川さんのイケメン顔ストックないから!」よし潰そう。もうぐしゃっていってしまえ。ちなみに俺もつぶあん派だ、中々気が合うじゃねーか安心院。「あの手の抜いた感が良いですよね」そう安心院が笑った。手抜きとは違うと思うぞ。



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どうでも良いですが管理人はスイカが嫌いです。
つぶあんよりこしあん派です。カスタードが好きです
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