Cassiopeia



最近遭遇率が高い気がするのは、少し意識しているからだろうか。花壇の縁でぼーっとしている安心院に声を掛けようか迷い、結局声を掛けた。

「安心院」
「……ああ、岩泉一先輩」
「何してんだ一人で」
「…何故」
「あ?」
「何故ブロッコリーは美味しくてカリフラワーがマズイのかを考えていました」
「くっそくだらねぇ」

斜め下を行くどうでもいい事だった。いや安心院の言う事は9割方俺にとってはどうでもいい話なんだが。「ビタミンCが檸檬並みに合って素晴らしいという事はわかりますけど、それなら私は檸檬を丸かじりします」とアホ丸出しな事を言う安心院。そんなに嫌いかカリフラワー、ブロッコリーと変わらねぇじゃん。


「全然違うでしょうまったく違います天と地の差です馬鹿なのですか岩泉一先輩は馬鹿なんですね」
「そこまでカリフラワーが嫌いか」
「…き、きらいじゃありませんけど」

嘘吐け。


「まぁカリフラワーどうでもいいとして、お前また夜遅くまで学校にいるんじゃねーぞ」
「今日はちゃんと天文部の部活動がありますので無理です。天文部全員集合ですよ」
「天文部って何人いるんだ?」
「天文部にはちゃんと人間の部員しかいないので7人です」

…人間の部員しかってなんだ。「オカ研は幽霊部員が…あ、いや。この前みんな成仏しちゃって幽霊部員はゼロになったって部長言ってました」幽霊部員の意味合いが違う。リアル幽霊部員だそれは!オカ研、危険人物の集いと把握。金田一まで仲間なのか…。「そう言えば金星の彼もオカ研でしたね…」やめろそれは思い出したくない話だ。

「帰りは?」
「え?」
「帰りは何時になる」
「…さぁ、私はちゃんと星や月と交信中
おはなし
する気ですけど」
「ちゃんとってなんだちゃんとって」
「他の部員たちは降霊術を行うようです」
「何部の部活動だよ」
「一応…天文部の部活動の時間の筈ですけど。私は早めに切り上げる気ではいますけど。巻き込まれたら」
「何時になる?」
「亜空間に引き摺りこまれます」
「送ってやるから遅くとも7時半には切り上げろ」
「え、結構です」

とりあえず亜空間の下りを無視する。ここ数日でわかった事は、取り敢えず無視すればなんとでもなる、だ。安心院も大して気にしていない様だしな。「最近変なヤツが学校の周りに出てるって噂だし、あぶねーだろ」という俺に安心院は少し悩む。

「最近出る変態さんですか。もうすぐ呪われそうなので大丈夫ですよ」
「果たしてそれは大丈夫の内に入るのか」

あ、反応しちまった。「あの人ついうっかり部長の前に飛び出しちゃったのですよ。変態丸出しで。部長その後大笑いして呪いの言葉を吐きだしたそうです。多分数日のうちに絶命するでしょう」お前んとこの部長は一体どうなってるんだ。

「そういや、天文部兼オカルト研究部部長は女子だったらしいな」
「ああ、マント羽織ってる時は中に違う人が入っていますので」

二重人格とはちょっと違うのですけど、他の人が中に居るのです。白鳥さんも割とホラー好きですけど、ただ専門知識は黒鳥さんの方が断然豊富です。誰だ黒鳥さんって。

「白の反対だから黒鳥さんです」
「ああもうなんでもいい。取り敢えず危ないから7時半にどっか分かりやすいところに居ろ」
「いやだから結構です」
「女子なんだから」
「……」

安心院の顔が無表情になった。じっと俺の目を見つめてくる安心院にたじろぐ。ゆっくりと、口を開いて

「男女差別反対です」

それだけ言うと安心院は身体を翻し、行ってしまった。背中を見送る。なにが、安心院を不機嫌にしてしまったのだろうか。「女子なんだから」という言葉だろうか。わからん、女子わからん。



◇◆◇



昼間のアレだ、もしかしたら居ないかもな。なんて部活後の自主練を終えて、着替えながらそう思った。「岩ちゃん、考え事ー?」なんて言う及川に「なんでもねぇよ」とだけ答えた。

「うっそだー。絶対そわそわしてる」
「あ?」
「家帰ったらなんかある感じ?」
「…違う」
「じゃあ何?」
「オカルト研究部が怪しい儀式をしているらしい」
「早く帰ろう岩ちゃん」

及川もオカ研には近寄りたくないらしい。いつもならくだらないこと喋りながらだらだら着替えるくせに今日は早かった。「キィェエエエエエエエ!」という声が外で響き、俺達は無言になりながら素早く帰りの準備をした。


「で、鍵を返しに」
「やだやだ!一人で行くのも一人残されるのもヤダ!じゃんけん無しで2人で行こうよ!」
「キモイ」
「まーじーでー!あの不思議人間の集いがなんかやってんだよ!?呪われるじゃん!!」
「呪われると決まったわけじゃないだろ。ただ最近ここらに現れる変質者は黒マントに呪われたらしい」
「数日後変死体で出てくるやつじゃん…!」
「むしろ行方不明でなんも出てこないんじゃねーか?」
「怖い怖い怖い!」

ぎゃー!岩ちゃーん!と半泣きで俺にひっつく及川にキモイと感じながら部室を出る。まぁぶっちゃけた話俺もあまり一人では居たくない。「ギャァアアアア!」「ヒギィエエエエエエ!!」おいさっきからなんの声だ。奇妙な声に怯えつつ俺達は職員室へと目指す。「ねぇ、職員室誰も居なかったらどうする?」「見回りとかだろ、そう信じるしかない」「…だ、だよね…ははは」そんな会話をしながら歩く。職員室までの道のりに安心院は居なかった。おい、俺に屋上まで行く勇気はねーぞ…。


「せんせー!鍵返しに来ましたー!!」
「お、おお…及川と、今日は岩泉が一緒か…」
「先生やつれてない…?」
「かれこれ30分以上奇声が…」
「……先生、呪われないように気を付けてね」
「ばばばば馬鹿なこと言うの止めろ及川!」

職員室でこんな会話をしている最中にも奇声は上がる。あいつら何やってんだ本当に。「じゃ、先生!頑張って生きてね!」と及川が逃げるように職員室を出、なんだか泣きそうな先生に一礼して俺も職員室を出た。



「…居ないか」
「ななな何が居ない!?むしろ何が居る!?」
「いや、安心院を」

「呼びましたか岩泉一先輩」

心臓を鷲掴みされた。及川が隣で悲鳴にならない悲鳴を上げる。いつの間にか俺の横に安心院が居た。気配もなく音もなく突然横から声が聞こえたものだから口から心臓出るかと思った。


「お、おま…おまえ…」
「なんですかその幽霊でも見たような顔は」
「居るなら、居るって言えよ…いきなり声して吃驚したじゃねーか」
「岩泉一先輩が分かりやすいところに居ろというから、分かりやすく岩泉一先輩の隣に居たというのに」
「いや可笑しいだろ」
「及川徹先輩も居るのですね。魂出かかってますけど大丈夫ですか?」
「お前のせいだ馬鹿」
「なんでも私のせいにしないでください」

やれやれ、岩泉一先輩が言うから態々出向いたというのに。となんともイラッとする言い方をする安心院の頭に手を乗せ、力を込めた。「…なんですか岩泉一先輩」と平然とする安心院。…俺、力こめてるよな?そんな事は構いもせず俺の腕を振り払い、及川の頬をぺちぺちと叩く。「及川徹せんぱーい、戻ってこないと死んじゃいますよー」洒落にならないぞそれは。数秒後「はっ!俺今死に掛けてた!?」と及川の意識が戻って来た。

「及川徹先輩は心臓弱い方ですか」
「違う違う安心院ちゃんのせい」
「だから誰も彼も私のせいにしないでください」

いや半分以上おまえのせいだよ。
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