Cygnus



「あ?」

移動教室中に、1年の廊下を通っていた。ふと5組の教室の中に目をやるとそこには楽しそうに談笑する安心院と国見の姿があった。何度か笑う顔を見た事はあるが、安心院と国見があそこまで楽しそうに笑い合う姿に俺は

「……」

おーい岩泉ー、早くいかねぇとチャイムなるぞー。クラスメイトの声に俺は返事もせずに歩きだした。なんの、話をしてるのだろうか。あんなに楽しそうな、特に国見のあの表情はかなりレアなんじゃないだろうか。なんだか、少しモヤモヤするのは自分の後輩のあんな楽しそうな姿を見たからなのか、それとも最近知り合った女子生徒が、自分の後輩と楽しそうに話していたからなのだろうか。…ないだろ、俺は首を振り頭に浮かんでしまった考えを掻き消した。


◇◆◇



「国見ちゃんさ、あの子と仲良いの?」
「誰ですか?」
「安心院ちゃん」
「ああ、安心院」

この前さー、楽しそうに話してるの見ちゃったんだよねー!と及川が言った。俺は心の中でどきっとしてしまった。俺も、見た光景だ。「でも国見ちゃん同じクラスじゃなかったよね?」その言葉に驚く。そうか、金田一とはクラスメイトと聞いていたが、国見は違うのか。そう思うと、なにやらよく解らない感情が込み上げてきた。

「なんの話してたの?」
「塩キャラメルの成分について」
「お前もか国見」

肩を落とした。いや、塩キャラメルの成分ってなんだ…!及川も「へ、へぇー!そっか、塩キャラメルの成分についてお話…へぇー…」と反応に困ってんじゃねーか。ヤバイ、後輩まで少し可笑しくなっている。

「国見は元から、ちょっとズレれたか…?」
「いや安心院と同じ枠組みに入れないでください。流石にあんな不思議キャラじゃないですよ。宇宙の真理語り出した時には俺だって逃げ出したくなったんですから」


宇宙の、真理


「あれ最早宗教か何かじゃないかと思いましたもん」そういう国見に全員が押し黙る。ちなみに花巻と松川の中では顔合わせすらした事が無いのに危険人物に指定されている。話聞いただけでコレだ。「いや…でも俺宇宙の真理には興味ある…」はいはい及川は勝手にやってろ。


「あいつ、オカルト研究部ではなかったよな」
「なんですかその怪しい部活は」
「天文部の部長がオカルト研究部らしい。あ、違うな。安心院以外の天文部はオカルト研究部兼部らしい」
「オカルト研究部の部長が天文部の部長ですよ」
「マジかよ…って金田一なんで知ってる」
「………」

さっと、金田一が目を背けた。俺達は首を傾げる。「あ」と国見が思い出したように声を上げて、爆弾を投下した。


「金田一、オカルト研究部入ってたな」
「!?」
「は!?」

衝撃の事実に部員全員が騒然とした。金田一が…オカルト研究部…?「後ろに霊が居るから祓ってあげよう、ただしオカルト研究部に入る事。ってオカ研の部長に言われて…」お前騙されてんじゃねーか!「金田一、壺とか買わされてないよね!?」と俺も少し心配した事を及川が口にした。

「でもオカ研面白いっすよ」

照れながら話す金田一にあ、手遅れだ。と悟った。まぁ安心院と同じクラスなのだから仕方ない。原因はあの黒マントにあるようだが。「なにがそんなに面白いんだよ」と国見が食いついていたがやめろ、これ以上犠牲者を出してはいけない。


「というかバレー部は兼部認めてませーん!」
「お前安心院に天文部誘われて悩んでたじゃねーか」
「それとこれとは話が別だよ。あの黒マントは駄目だよ」

そこには激しく同意する。「部長、良い人ですけどねー」という金田一に俺と及川が顔を歪ませた。


「というか及川さん黒マントって」
「黒マントは黒マントだよ!何さあの黒マント」
「及川さんと同じクラスっすよね?」
「……は?」

いやいやあんな黒マントクラスに居ないし、何かの間違いでしょ?「でも部長3年6組って言ってましたし」お前のクラスだな。いやいや居ないよ!と完全否定する及川に金田一は首を傾げる。

「でも、白鳥先輩確かに」
「……ん?」
「え?」
「白鳥?」
「はい、白鳥先輩です」
「……クラス委員長の白鳥さん!?嘘だ!!あんな美人が電波なわけがない!ていうか僕って言ってたよ黒マント!男じゃないの!?」
「部活の時は僕って言ってますね。マント外したら戻りますよ」
「う、嘘だぁあああ!」


なぁ、白鳥って奴知ってるか?なんて花巻達に聞くと「めっちゃ美人。頭いいし人当たりも良いし、人気高いよ」若干何処かで聞いたような評価である。「いやいやあの白鳥さんが電波なわけがない…なにか…そうだ、きっと白鳥違いだ…」ぶつぶつ言う及川に憐みの目を向ける。


「つーか金田一、オカ研って何やってんの?」
「今交換ノートで100物語やってます」
「反応し辛いことしてんな…」
「丁度俺持ってますよ、見ます?」
「見る見る」

花巻と松川が興味津津にノートを開く。少し俺も気になってそこに混ざる。ぶつくさ言っている及川は放置だ。

「えーっと、なになに?『第二音楽室のピアノ、左から2番目。鳴らすと』…鳴らすと何!?」
「『及川君の後ろに居る金髪の人と会話をした。なんだか可愛らしい人だった。まぁひとじゃないけど』…及川の、後ろ?」
「『最近赤い靴の女の子が校舎を彷徨っているけど、さてどうしたものか。ちなみに靴は元々白だったようだ』…金田一、コレ」
「え?ああ、みんなこんな短い文章でよく怖い事書けますよね。俺もなんか考えないと…」

さーて、何書こうかな…。と悩む金田一を横目に、俺達は顔を見合わせる。

なぁ、これガチの奴じゃない?
100物語じゃないだろ。危ない日記だろこれ
そういや白鳥とか言う黒マント、及川の後ろに居る女性…で言うのやめたな
…、
……。


「なぁ金田一…今からでも遅くないから退」
「花巻さんそう言えば彼女出来たんですか?」
「……は」
「あれ?昨日花巻さん女の人と、ワンピースの」
「待って待って待って金田一それ以上言わないで」
「え?」
「え?じゃねーよ!」

どうしよう、後輩が既に視えてはいけないものが視えている…。「あー…怖い話、思い付かないな…」とぼやく金田一に、俺達は少し距離を置いた。






「…及川さんの後ろと、赤い靴の女の子、花巻さんの隣の人…。俺が知らないのはピアノの奴だけだな…」


偶然耳に入ってしまった国見の言葉に、俺はバッと国見に顔を向けた。目が合う国見が笑う。


「大丈夫ですよ」


なにがだよ





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Cygnus(はくちょう座)
天文部部長兼オカルト研究部部長白鳥さん
3年6組クラス委員長

友情出演:
慈愛より朱音さん

青城1年勢が怖い
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