【頭痛に蝕まれる噺】


「いっわちゃーん!おっはよー!」

岩ちゃんの背中にダイブしたら右ストレートを受けた。酷いよ岩ちゃん!俺は左頬を押さえる。「よぉうざ川」と岩ちゃんは抑える手を振り払い両頬を抓り出した。


「いだだだだ!岩ちゃん痛い痛い!」
「てめぇ夜中また出歩いてただろ」

え、なんでばれてんの?「てめぇが眠れねーのは知ってるけど、夜中に徘徊はやめろ」そう言う岩ちゃんに俺はお手上げだった。

「外出てった時ケータイ持ってかなかったろ」
「あー…そういえば家の鍵だけ持って出たかも」
「メッセージ送っても既読すらつかねーからまさかとは思ったけどな」

どんな確認の仕方なんだそれ。確かにずっと起きてるからスマホなったらすぐ見ちゃうけどさ。俺の行動全部御見通しの岩ちゃんが怖いよ。「てめぇが危なっかしいことしてるから目が離せねぇんだろーが!」と今度は頭をグーで殴られた。ドメスティックバイオレンスだ。


「学校でぶっ倒れたら回収できるけど、夜中そこらへんで倒れてたってどうにもできないんだからな」
「大丈夫大丈夫、夜には強いから」

夜に倒れたことは今まで一度も無かった。俺が倒れるのは決まって日中だから。特に今日みたいな太陽の光が痛い時とか。
今日は、まだ春先だというのに日の光がまるで真夏の照りつけるような暑さで、少し具合が悪い。あれ、そういえば前ぶっ倒れたのっていつだっけ?病院最後に行ったのは?思い出せない。今俺が思い出せることと言えば、昨日思い出した2年ほど前の冬の出来事だ。
ズキズキと、頭に痛みが走る。悟られないように、俺は笑う。女の子が「及川さんおはようございますっ!」と挨拶する。おれは、わらう。口を開いた。何を言ったのかわからないけど、女の子が笑ったから、きっと普通の事を言ったんだろう。岩ちゃんが呆れ顔をしたのがわかった。おれ、なにいったんだろう。


「あたま、いたいなぁ」

今日が月曜でよかったと思った。




◇◆◇


「…及川」
「なぁにマッキー?」
「いや、顔色が」

とんでもなく真っ青だけどお前大丈夫なの?なんて言うマッキーに「大丈夫大丈夫!昨日DVD見てたら寝るの忘れちゃってさー!」と俺は笑う。いつもなら笑い飛ばしてくれるはずのマッキーは、眉をひそめていた。

「及川一回鏡見てきた方がいいんじゃない?」

それだけ行ってマッキーは歩いて行ってしまった。あ、まずい。あれは岩ちゃんに報告する気だ。「ちょっと待ってよマッキー!」そう言おうとしたら、息だけが口から吐き出された。吐き気。俺に背を向けて行ってしまったマッキーは俺の状態に気づかない。そのまま曲がり角を曲がって行った。ぽつん、俺だけが廊下に取り残される。
よかった、なんて思ってしまった。どうせ俺は助けを求めない。廊下の壁に身体を寄せる。そのままずるずると床に座り込んだ。あー…目眩と吐き気やばい。気絶しそうだけど、頭の痛みが激しすぎて逆に意識を手放せない状態。これ、キッツイんだよなぁ…。

「しんど」

10分もすれば治まるだろう。それまで、誰もここを通らないでね。俺は膝に頬を乗せ暫くそのままでいた。

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