【日向に咲くひまわり】



大王様のそれを一番最初に見たのは、いつだっただろうか。いつかの月曜日、ロードワーク中、それを発見した。


「やぁおチビちゃん」
「ひぃ!大王さ……ま?」

大王様に声を掛けられ、身体がびくついた。振り向き、大王様の顔を見て俺は絶句する。顔色が悪いとか、なんかそういう次元じゃなかった。俺は声にならない叫び声を上げる。「びょびょびょ病院!?救急車!?」と慌てる俺に大王様は力なく笑い「大丈夫大丈夫、いつもの事だからさぁ」と言った。いつも、の…こと?ふらふらと力なく歩く大王様の腕を掴む。「顔色、本当に悪いですよ」なんていうと「おチビちゃんは体温高いねぇ、名前みたいだ」と大王様が笑った。言葉のドッヂボール!!本気で倒れそうな大王様をどうしようかな、なんて考えながら取り敢えず歩きだした。大王様が俺の背中を見て笑っていたなんて、知らない。


「おチビちゃんさ」
「、なんですか?」
「飛雄のカイロやってる?」
「はぁ!?」

カイロ!?俺が影山のカイロ!?俺は声を荒げると大王様は面白そうに笑った。その笑いに、何かが含まれていた事にはなんとなく気付いた。ただそれがなんなのか、その時の俺には分かっていなかった。


「飛雄、寒がりでしょ?」
「ああ、すっげー異常な寒がり。でも俺が手出すと「きめぇ日向ボゲェ!」って言ってきます」
「馬鹿だなぁ、あいつ。チビちゃんにくっついてたらだいぶマシになるだろうに」
「ふっつーに俺をカイロ扱いするのやめてください」
「ははは、でもおチビちゃんほんと体温高いねぇ」
「悪かったな子供体温で!!」

37度?平熱ちょっと高めっていう感覚ですけど!?39度で漸く身体がだるくなるくらいですけど!?そう言うと「わぁ、それは普通に凄い」と目を丸くされてしまった。


「飛雄の相棒はおチビちゃんで丁度良いんだろうね」
「もう今の流れで俺がカイロ扱いにしかなってないんですけど」
「いやー…でも飛雄変わったよ」

良い方向でね、寂しそうに大王様は言った。「大王様は、」俺は口を開く。大王様を掴む手を、少しだけ強めた。


「影山の事、嫌いじゃないですよね」
「えー?大嫌いだよ、あんな可愛げない後輩」
「本当に?」
「ほんとほんと、俺はあいつが嫌いだ」

優しそうに笑いながら、大王様は言う。意味が、わからない。嫌いと言いながら、なんでそんな表情をするんだろう。「バレーをしている」俺は再び口を開く。


「バレーをしているあいつが怖い?」
「何を言うのさおチビちゃん」
「俺、大王様がなんで影山を嫌ってるのか、いまいちわかんないんですよ」
「昔の、おチビちゃんが知らない時の話だよ」
「違います、違うんです。そもそも」
「おチビちゃん」

俺の腕が、大王様から離れた。あ、と小さく声を上げ。振り返る。頬に感覚、痛み…痛み?「いだだだだだだ!!」俺は声を上げた。頬をつねられた、思いっ切りつねられた!「わー、おチビちゃんもちもち肌ー、すべすべ赤ちゃんみたい」五月蠅い!誰が赤ちゃんだ!そんなにちびじゃねーし!伸びる頬に俺は言葉を発する事が出来ない。つーか超痛い!!暫くして大王様の手が離れた。俺は後ずさって頬を押さえる。痛い痛い!

「あはは、ごめんごめん。出来心」
「で、でひごごろっへ…!」
「え、俺そんなに力入れてた?ごめんごめん」

数歩近付き、俺の頬に手を伸ばす大王様に身体がびくついた。「もー、怯えないでよ。なんだかいじめてるみたいじゃん」明らかにいじめられてないですか俺!キッと睨むと困った様に「ごめんね」と手を伸ばしてきた。優しく、触れる。


「飛雄のこと、嫌いだったのは本当だよ」
「…嫌い、だった」
「おチビちゃん単細胞のくせに色々気づくよね」
「アザース!!」
「褒めてない褒めてない。今は、まぁライバルとして見てるよ。あの頃より俺も成長してるし」

俺はその回答にムッとする。違う、絶対そんな曖昧な答えじゃない。俺の心情を知ってか、「ほんとおチビちゃんは…」と困った様な表情をする大王様。俺は、ちゃんとした答えが聞きたかった。


「あいつは俺達が思ってる以上に傷ついていて、それを解ってくれる人がいた」
「…?」
「あいつの病気染みた体質は俺のせいだ」
「大王様の、せい」
「俺は今更、あいつに手を伸ばす資格なんて無いんだよ」

あ、岩ちゃん迎えにきちゃった。じゃあねおチビちゃん。と及川さんは俺の頬から手を離し、背を向けた。大王様の先には、青城のエースの人がいて。俺は声を上げる。


「大王様!」
「…俺の名前、及川徹ね」
「お、及川さん!」
「なぁに?」
「あいつ、すげー馬鹿ですから!俺と同じくらい!!」
「は」
「資格とか全然わかんねーし!俺らはやりたい事するだけです!!」
「…そう」
「影山も、やりたい事するだけです」

前の、青城との練習試合の時の影山を見た。苦しそうに、青い熱を持った影山の瞳を見た。その瞳と、優しそうな及川さんの表情を同時に思い浮かべる。


「おチビちゃんは、よく周りを見る子だね」
「え?」
「おチビちゃん以上に、飛雄は馬鹿だよ」

及川さんはそう言って笑った。「まぁ、覚悟はしておくよ」じゃあね日向君、そう言って及川さんは振り向かずに行ってしまった。その背中を見送ってから、身体を翻して走り出した。

なんで影山も、及川さんも自分に素直じゃないのだろうか。あ、影山はしらねーや。多分、大王様より王様の方が素直だとは思う。

青い炎を燃やす、瞳をみた。
愛おしそうな顔をする、彼を見た。



「こういうの、両思い?ソウシソウアイっていうんだっけ?」

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