【太陽みたいに暖かい人の噺】


どうやら影山は、かなりの寒がりらしい。そう言えば、部活入ってすぐの時にも影山がたがた寒そうに震えていたな、なんて思いだした。

「なー影山」
「なんだよ」

もう春も終わりだというのに、影山は制服の下に何枚も服を着ていた。それでも時折震え、寒そうにするのだ。影山の中では、一年中真冬の様な寒さなんだろうか。俺は手を出す。「…なに?」不機嫌そうな影山に俺は言う。

「手、繋ごうぜ」

俺、子供みたいに体温高いからさ。俺はそう言って笑った。「気持ち悪いからぜってーやだ」そう言って影山はスタスタと歩いて行ってしまった。行き場の無い手を、俺はじっと見る。お前さ、俺の気持ちも考えろよ。俺だって、男と手を繋ぐなんて嫌だ。でもさお前自分の顔色見てみろよ、すげー顔色悪いぞ。むすっとした俺は駆け出し、影山の背中にダイブした。やっぱり、影山は冷たかった。


「日向ボゲェ!何しやがる!」
「影山そのままおぶって俺んちまで届けてー」
「お前の家山の向こうだろ!?」
「行ける行ける」
「行けるかボゲェ!」

熱が、少しずつ影山に奪われる。それでも影山の身体が温かくなる事は無くて。んー…相棒をどうしようか…と影山の背中に顔を押し付け悩んだ。






◇◆◇



休みの日、珍しく部活も休みでどうしようかと家でゴロゴロしていた。バレーしたいなー…庭でやるか、と立ち上がった時「翔陽ー、暇なら夏っちゃんと一緒にお買いものしてきてー!」と母さんに言われた。夏がポシェットを持って俺に駆け寄る。

「にーちゃーん!お菓子買いに行こー!」
「んー!わかったわかった!母さーん、後は?」
「夏と一緒に遊んであげるだけでいいわ」

お使いがメインではなくて夏と一緒に出掛ける事がメインだったらしい。ぎゅーっとお腹に抱きつく夏の頭を撫でて「準備してるから靴履いて外で待って」そう言うと夏は元気に返事をして玄関へ走って行った。夏が居るから自転車は使えないなー…バスか電車でも乗ろうか。お母さんからお小遣いをもらい、俺も玄関へと向かう。「なつー!どこ行くー?」「にーちゃんの学校行ってみたい!」「んー…夏にはちょーっと遠いかなぁ…」「えー」そんな会話をしながらバス停に到着し、ベンチに座りながらバスを待つ。町まででればいっか…あそこならちょっと広い公園とかもあるし。夏と会話をしながらバスが来るのを待っていた。








結局駄々をこねる夏を学校に連れて行き、クラスメイトが部活している風景を眺めて、ちょっとだけ夏と遊んでもらって、坂ノ下でお菓子を買って、烏養監督にちょっとおまけしてもらって、それで…

「にーちゃん、死体」
「し、死体!?」
「ん!」

夏が指差す先、公園のベンチに横たわる人・白。茶髪。

「…だ、大王様…?」
「だいおうさまー?王様?」
「王様は影山な!…って違う!及川さん死!?」

慌ててベンチに駆け寄り、及川さんの肩を揺らそうとして…やめた。本当に死んでるかと思うほどに顔色が真っ白。眼の下の隈が酷い。触ると温度はあるから死んでない。おでこを触る、熱もない。

「夏、ちょーっと大王様見ててくれる?」
「わかったー!大王さま見てる!」


少し離れたところで、携帯電話を取り出す。そのまま、俺は電話を掛けた。1コール2コール3コール…『…なんだよ日向』影山の声がスピーカーから聞こえた。

「影山今どこいる?」
『あ?家だけど』
「今からさ、学校の近くの公園来れる?」
『あ?』
「大王様が、また公園で寝てる」
『……』

…すぐ行く。静かに影山がそう言った。「お前が来る前に俺帰るからなー」それだけ言って俺は電話を切った。ふー…と俺は息を吐く。セッターは病弱ばかりなのだろうか。あ、でも菅原さんは病弱そうに見えて全然そんな事ないよな。じゃあ北一出身の人?そんな事を思いながらベンチへ戻る。

「夏、帰ろ」
「…大王さま、いいの?」
「大丈夫大丈夫、王様が迎えに来るから」
「とびおが来るんだ」

じゃあ帰るー!と夏はベンチから離れた。俺が手を出すと、夏がそれを握った。一度振り返り、及川さんを見る。「…一発、殴って良いかな」そうぼやく。


「大王さまと、とびおは仲良しー?」
「そうそう、仲良し仲良し」
「夏とにーちゃんみたいに?」
「それはどうかなぁー」

一度だけ、影山が及川さんと一緒に居るのを見た事があった。手を繋いでいて、影山が少し安心したような表情を浮かべていた。俺と手を繋ぐのはすげー嫌がるくせに、他校の、しかもライバル関係にある青城の主将とああいうことをするんだ。そりゃあ、ちょっとはイラっとする。でも俺は別に影山と「そういう関係」になりたいわけじゃない。仲間として相棒としてもうちょっと頼ってほしいだけだ。ただ、俺は少しだけ安心した。漸くか、と安心した。

「ちぇー、大王様むかつくなー」
「大王さま、嫌い?夏は好き!」
「!?なんで!?」
「かっこよかった!」
「大王様なんて嫌いだ!」
「でもにーちゃんの方がすき!」
「なっちゃんだいすき!」

夏を抱きかかえて俺は走り出した。途中、影山とすれ違った。「王様のバーか!大王様のばーか!」「ああ!?」「とびおばーかばーか!」「日向兄妹ボゲェ!」なんて15秒ほど言い合いをして、バス停へと向かう。


「夏、今日の夜ごはん何かなー?」
「ハンバーグがいい!」
「俺卵かけごはんがいい」
「たまご掛けるだけだから嫌!」
「美味しいのになぁー…」

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