【熱を奪った人達の噺】


及川さんに目の敵にされているのは気づいていた。他のメンバーからも、嫌悪の目を向けられていることは知っていた。このままじゃ駄目だ、そんなの前から気づいていた。でも俺はどうしていいのかわからなかった。
何が駄目だったのか、わからない。なんで及川さんに嫌われているのか、なんでみんなそんな目で俺を睨むのかわからない、わからない。分からないことだらけで。

少しずつ、身体が冷たくなっていくのがわかる

これの始まりは、確か及川さんに殴られそうになったあの時だ。あの日振り上げられた手を、そして及川さんの目を見た時に俺の熱が無くなってしまった。それでも、今ほど酷くは無かったけれど。


「なぁ国見」

体育館裏、空に向かってボールを上げる。国見はじっと空を見上げていた。「なぁ国見、聞いてるか?」そう口にすると「なに、さっさと言えよ」と言われた。聞いてるんなら返事くらいしてくれ。


「国見、俺みんなから言われるんだ」
「…なにを」
「無茶な指示止めろってさ」

俺が言うあれは、無茶なのだろうか。確かに、みんながみんな打ちづらそうにしているのは気づいている。でも慣れたら、それは武器になるだろう?それに、俺は気づいている。国見は俺のボールを打てる事に。「お前俺がかなり神経すり減らしてんの知らないの?」なんて言う国見に俺は頬を膨らませた。でもまぁ、そうだよな。俺はボールを抱きしめる。

「じゃあ俺のトスをスパイカーに合わせればいいのか」

それは至極当然の事。しかし国見は首を振った。国見が立ちあがり、地面を蹴った。そうして国見は言う。


「必要ない」
「え?」
「誰も、お前のトスを打ちたいと思ってない」

国見の言葉が、重く圧し掛かった。心臓が痛む、指の先から冷えて行くのが分かった。国見は俺の目をじっと見つめる。嘘を言っていない事が感じ取れた。誰も、俺のトスを。俺は口を開く、必死だったのだ。「俺が、他の奴に合わせれば」そう行っても国見は首を振るだけだった。否定。俺を否定する言葉、なのに国見が悲しそうにするその意味は。


「影山、今のお前が変わる必要ない」
「…」
「中学は、そのままでいろ。どうせ変わりっこない」
「……」
「高校、青城には絶対行くなよ。あそこには及川さんが居るし、金田一や俺も居る。だから、青城だけは絶対に駄目だ」
「俺は、」

なぁ、俺はさ、誰でもないお前らとバレーがしたいんだよ。俺は泣きそうになった。泣きそうになりながら、国見を見る。なぁ、なんで国見が泣きそうな顔をしているんだ?


「俺も、影山とバレーがしたいよ」


なんでそんな、諦めた様に言うんだよ。
俺の身体は氷のように冷たくなった。

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