【体温が無い人の噺】


あれ?と俺は声を漏らした。家に帰る途中、黒い背中を見つけた。あの黒い制服は間違いようもなく烏野の制服で、あの後ろ姿は間違いなく影山だった。ただ、不可思議な事があった。春先なのに、なんでマフラーなんかしてるんだあいつ。ちらりと見えた手には手袋、足取りも遅い。良く見たら学ランの下からまた違う黒…ジャージの裾が見えていた。まるで冬の様な着込みようだった。

「影山」

俺は、声を掛けるつもりなんて無かった。しかし影山の背中が妙に震えていて、思わず声が出てしまったのだ。影山が振り返る。


「…国見?」
「どうした?そんな厚着して」
「…さむい、だけだ」

は、寒い?空は薄暗くなっているとはいえそこまでの冷え込みは無い。しかしガタガタと震える影山に俺は近付く。熱でもあるんじゃないの?そう言って額に手を押し当て、俺は思わず手を引いてしまった。
氷のように、冷たかった。死人ですら、そこまで冷たくならないんじゃないのか、そう思うくらいに影山の額は冷たかった。影山の頬に触れる。冷たかった。じわり、手の温度が奪われる。


「なぁ、お前大丈夫?」
「だいじょぶ、さむいだけだ」

呂律が回ってないような気がした。まるで影山だけが極寒の真冬に居る様な、そんな様子。俺はバッグの中からジャージを取り出す。「ほら、これ着てろ」そう言うと影山は頷いた。明らかに、異常だ。どっかで倒れられても困る、「ほら、帰るぞ」と俺は影山の腕を引こうとした、ところで


「あれ、国見ちゃん?」
「、及川さん」

なんとまぁ、タイミングの悪い。後ろを振り向くと制服姿の及川さんがそこに居た。俺は影山を隠すように前に出るが「そこに居るのは飛雄か、珍しい事もあるね。2人が一緒に居るなんて」そういう及川さんに心の中で舌打ちをした。


「飛雄」
「…お、いかわさ」
「はぁ…、及川さんもあんまり体調よろしくはないんだけどねぇ…ほら、おいで」

は、声が出る前に飛雄は俺の背中から飛び出してしまった。俺の身体は、石のように固まる。影山が及川さんに抱きつく姿を呆然と見た。

「ごめんね国見ちゃん、飛雄が迷惑かけて」
「は…いえ、迷惑っていうほどの事は…。というか及川さん、影山は」
「こいつさ、超低体温なの。温めてやんないとうっかり死んじゃうかも」
「、そこまで酷くない」
「あっそう、でも今回のはやばそうだね。俺んちのが近いから行くよ」

及川さんが影山の手を取る。それを振り払う事も無く影山は及川さんの手を握った。「あ、くにみのジャージ…」そう零す影山に「いいよ、着たままで。及川さん回収しといてください」と言う。

「国見ちゃん、ありがとね。明日返すから」
「はい…」

そうやって2人は歩きだした。その後ろ姿を見送りながら俺はぽつり、声を零す。




「あんたが突き落としたくせに、あんたが影山を掬いあげるのか」

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