【奥底に根付く噺】



中学の頃、コート上の王様なんて称される影山飛雄という人間がいた。それは俺と同じ学年で、あまつさえ同じクラスの人間だった。
あれは、兎に角横暴だった。無茶を言いまくる奴だった。それが顕著に出たのは大体俺達が中学3年になった時の事だ。俺は2年の途中…いや1年の頃から何かを感じ取ってはいたけれど。
最初は、みんなして影山を説得しようと試みた。この頃から俺は、諦めていた。核心だ、影山に何を言ったところでもう「手遅れ」だ。もし影山を説得させたかったのなら一年の、及川さん達が卒業した時から始めなければ意味が無かった。
一人ずつ、影山の説得を諦める。一人、また一人。金田一は最後まで説得しようとしていたな。俺達は1年の頃から一緒で、それこそ最初は仲が良かった部類だ。

金田一も、諦めた。

そうして影山は独りになった。



「国見は、最初からアイツを説得しようとしなかったよな」
「意味が無かったからな」
「意味無いなんて事ないだろ!もしかしたら」
「もしかしたら、なんてものは存在しない」

まぁ本当にその「もしかしたら」があったとしてさ、影山があんな無茶ぶりなトス上げずに、俺らのチームに戻って来たとしてさ、


「俺らは本当に影山を受け入れた?」


手遅れなのはさ、影山じゃなくて俺達の方だよ。
一度罅入った物を直すのは途方もない話なんだ。現に、影山が居なくても俺達の間には言い様の無い雰囲気が漂っていて、結局俺達は噛み合うことは無かっただろ?そういうと金田一は口を固く閉ざした。


「影山一人、説得するのって結構簡単だったと思うんだ」
「…なに、言ってんだ。あの馬鹿を説得なんて誰も」
「金田一の言うようにさ、あいつ馬鹿なんだよ。大馬鹿者。だから1から10までちゃんと教えればあいつ、出来たんだよ」

馬鹿はさ、最初から教えてやんないと理解できなんだ。金田一達はさ「あんな無茶やめろ」って言うばかりだっただろ?それじゃあアイツは何が駄目なのか理解できない。バレーはチーム戦で、そんな当たり前のことから教えてやらなくちゃいけなかったんだ。


「…そこまでわかってて、お前は何も言わなかったのか」
「言ったじゃん。手遅れだったのは俺達の方だって。影山を説得したところで、俺達がアイツを受け入れようとしなかったら」
「できただろ!アイツが無茶振りさえしなければ俺達は」
「いいや」

心の奥底から、影山を嫌っている奴が殆どだった。だから、1年の時から説得していればって言ったんだ。…ああ、でもそれでも無意味だったかもしれないな。


「及川さんが居た時点で、俺達は破綻してたんだ」

<< | >>