なんでああ無意味な事に夢中になれるんだろうか。中学からなんとなく始めた部活、必死になってボールを追いかけ汗をかくバレー部員。俺はそんな体育館の風景を、まるでテレビか何かを見るように眺めた。
俺はいつになっても、それを理解することはできない。

及川さんが影山を邪険にする理由も
影山が楽しそうにボールを追いかけるのも

全部全部俺には理解ができない。
それでも、俺は






【心が冷え切ってる人の噺】




「す、好きです!付き合ってくださいっ」

中庭に呼び出されて、そんな事を言われた。真っ赤に染まった頬、握りしめる手。俺はそれをみて首を傾げる。誰だっけ、この子。見覚えはある気がする。俺は「えっと、だれだっけ?」と口を開く。目の前の女子がぽかんと口を開けた。

「あ、あの…同じクラスの」
「クラス同じでも、特に関わり合い無い人って俺憶えないから。…今気づいたけど俺、クラスの人の名前誰もわからない」

えっ、と目の前の女子が声を漏らした。だって、そんなもの覚えたって意味がないじゃないか。来年にはクラス替えして今のクラスの人とは別れるんだ。1年しか一緒に居ないのに、覚えたって意味がない。そもそもクラスの人間に興味ないし。
そうやって人の関わりを絶っていた筈なのに、どうしてこんなことになってるんだろうか。俺は首を傾げる。「俺のどこが好きになったの?」なんて聞いたところで至極まともな答えは返ってこないと知っている。だから俺は聞かない、興味もない。


「もう、行っていい?」

そういう前に女子が走り去ってしまった。ぽつん、俺だけが中庭に残される。…まぁいいんだけどさ。全く持って意味の無い時間だった。時計を見ると5分も経っていなかったからまぁいいか、と俺は教室の方向へ足を進ませた。





◇◆◇


「お前、それはどうなんだ…」
「何がだよ」

昼休み、呆れ顔で金田一は俺の話を聞いていた。俺はコンビニで買ったパンの袋を開ける。なんか、昨日もこれ食べた気がする。思い出せないけど。そう思いながら俺はもぐもぐとパンを食べ始める。

「告白されてんのに、その受け答えはマズイだろ」
「まずい?なにが。俺がその子の事知らないのは事実だし、興味が無い事も、興味持つ事皆無なのも事実だ」
「お前なぁ…」
「その子と結婚して老後まで一緒って核心があるんだったら考えなくもない」
「重いんだけど」
「重くない」

なんでたかが高校生のお付き合いを態々しなくてはいけない。そんなの結婚して子供が出来る頃には記憶の中から綺麗さっぱり無くなってるだろうに。思い出にすらならない物に、どうも関心は持てない。

「いや憶えてるだろ多分」
「俺は絶対忘れる」
「言い切るな」

まぁ、国見がそういうヤツだって知ってるから…もういいんだけどよ。金田一はこの話題を切った。悪かったな、つまらない話をして。そう言うと金田一は溜息を吐いた。



「そのパン、先週1週間も食い続けてたよな」
「そう?」
「そう?って憶えてねーのかよ」
「腹に入ればなんでも一緒じゃん。栄養云々はあるだろうけど」
「じゃあ塩キャラメルはいらないな」
「…塩キャラメルは、いる」

<< | >>