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ゆらゆらゆれて
(また逢いましょう)


「不知火先輩」
「なにかな?」
「大人になったら迎えに行くんで、それまで結婚しないでくださいね」
「んな約束できるか」
「ダメです」
「なんでですか」
「なんでもです」

ぎゅーっと手を握り締められる。なんでこうも懐かれたのだ私は。木兎はあっちで騒いでるし、あんたもあっち行けよバレー部なんだから。

「不知火先輩このまま留年しませんか。俺と同じ学年ですよ」
「今日卒業します」
「どうしてもですか?」
「当たり前でしょ何言ってんの」
「……」

落ち込まれたって留年しないからな、絶対。言ってること可笑しいのそっちなんだからね。弱弱しく私の手を握る赤葦京治の手を、仕方ないから握り返してやった。

「ツンデレですか」
「どういう思考回路してるんだろうか君の頭は」
「いつだって不知火先輩の事でいっぱいです」

素直に喜べない自分が居る。というかドン引きしてる。白い目を赤葦京治に向ける。

「すきですよ、不知火先輩の事」
「ああそうですか」
「信じてませんか」
「信じていいけど守備範囲外です」
「じゃあ大人になるまで待っててください」
「えー」
「不知火先輩、別に年上がすきってわけじゃないの知ってるんで」
「…まぁそうだね」
「だから、絶対ですよ」

俺の事、結構タイプでしょう?と首を傾げる赤葦京治にイラっとした。ああそうだよ、わりとタイプだよこんちくしょう。でも私の良心(というか自制心というか)がストップをかけるのだ。やっぱ高校生は無いわ。

「んまあ、待ってもいいよ」
「ほんとですか」
「くそばばあになってもまだ好きでいるんならね」
「いつになったって好きですよ」

その自信は何処から湧いて出てくるのだろうか。不思議で仕方ない。「もうそろそろ木兎さんの世話に行ってきますね」と赤葦京治が私の手を離す。名残惜しいとは思わない。そう、思わない。出会いがあって別れがあって、いちいちそんなに反応してやんない。

「じゃあね、赤葦君」
「はい、それではまた10年後くらいに」

どんな別れ台詞だ、と私は笑った。木兎が「あかーしー!」と叫ぶ。私はほれ、行けと手を揺らした。お辞儀する赤葦京治を背に、私は歩きだした。


「しきみさんが死んでも、俺は好きですよ」



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なにやらデジャブではないか、と私は冷静に考える。いうなればあれだ、『無限ループって怖くね?』である。久しぶりに会った木兎に飲みに誘われてウェーイ!ってなった木兎がスルッと足を滑らせて

気づいたら私が落ちてる、みたいな。

「木兎まじぶっ殺」

落下、ハンプティダンプティはどれだけお金を掛けても戻らなかったという。じゃあ私もそうなのか、と身体の力を抜いた。呪う人間が2人に増えた。次は3人になるのか。めんどくさいな…。呪うのめんどくさいから木兎、お前は赦してやろう。

目を瞑る。
息を吸う。
目を開ける。
口を開く。

「いや、【今回は】死にませんからしきみさん」

「――は?」

背中に温かみを感じる。あと、なんか聞き覚えのある声。ていうか、え?【今回は】ってなに?

「ぅんえ?」
「俺これでしきみさん死んだら木兎さん末代まで呪います」

落ちる私を階段の途中で受け止めたのは、いつぞやの変な後輩だった。ぎゅーっとお腹に手を回し抱きしめる赤葦京治に私は混乱するばかりである。

「ああ、すいません。お久しぶりですしきみさん」
「…え、?」
「え?って記憶飛んでます?10年と少し振りですね」
「う、うん?」
「厳密に言うとー…えーっと?俺が25歳なんで…16からスタートして25で一度リセットされて、またここに戻ってきて…総計何年ぶりでしょう?」
「…は?」

言ってる意味がわからない。リセット?また?カチリとピースが当てはまる音がする。いやでも、いやいやいやいや。

「前にしきみさん突き落としたヤツは、あれです。まぁ、あれです」
「あれって何」
「しきみさんの呪いで死に」
「うっそ!」
「ませんでした」
「ですよねー」
「ですね。結果生きてますししきみさん」

結果ってなに結果って。生きてるけど。もう頭がわけわかんない。すりすりと顔を押し付ける赤葦京治。なんか、もう…わけわからん。

「生きてて良かった、です」
「ねぇ」
「なんですか」
「死んだ私を知ってるの」
「しりません」
「え、しらないの?」
「だってしきみさん死んでませんから」
「…まあ、そうだね」
「ええ、そうです」

なんかもういいや、疲れちゃった。あぁああーと身体を赤葦京治に預ける。「ちょ、一応階段なんで危ないです」なんて言いながらも軽々私を抱き上げる赤葦京治になんだか安心してしまったのだ。

「赤葦君」
「なんですか」
「お付き合いでもしようか」
「えー」
「まさかの渋り」
「お付き合いじゃなくて結婚でしょう」
「ぶっ飛び過ぎて吃驚だわ」
「いや俺もう30年以上待ってたんですけど」
「しるか」

しきみだいじょうぶー!?と同僚が叫ぶ。あー、大丈夫大丈夫。私は手を振る。木兎はガタイの良い男に抱えられて寝ていた。殺すぞ木兎め。

「しきみさん」
「はーい?」
「結婚しましょう」

もう勝手にしてくれ
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