★   

  ★

★ 


一人でワルツを踊って下さいな


ずーん

まさにそんな効果音が似合う木兎を横目に私は机に向かい本を読む。「ずーん」あ、もしや犯人って…いやでも「ずーん」コイツも怪しいなぁ…もしや犯人は複す「ずーん」

「口でず―んって言うな五月蠅い縫うぞ」
「慰めてくれ」
「しね」
「ひどい…」

手に握りしめるテスト。今回は化学でした。今回は何点だったの…と木兎の手からぐしゃぐしゃの紙を奪い取る。…あ、うん…これは教科担当も担任も泣くわ。

「ゼロはないでしょ…」
「部活禁止を命じられました」
「そりゃあそうだ」
「勉強教えてください」
「やだよ」
「お前30点なんだろ…!」

そう、このテスト超ミニテスト。30点満点の小テスト。めちゃくちゃ範囲が絞られてる。ぶっちゃけ数分勉強すれば半分は取れる。授業聞いてるだけだって1問は絶対解ける。しかしゼロ、見事に長細い丸。丸は丸でも0。

無理だろ

「木兎1回頭打って記憶喪失になって頭の中空っぽにした方が良いわよ」
「元々入ってるもんそんなにねーよ?」
「自分で言うなよクソ阿呆馬鹿野郎」
「ひどい…」
「木兎の頭がね」

自覚してる、と机に倒れ込んだ。そのまま死んでろ、静かで清々する。と視線をずらすと…私は何も見なかった。黒髪の木兎後輩がドアの近くに居た様に見えたけどきっと気のせ「無視は酷いですよ不知火先輩」

「胆座ってるよね君。3年の教室普通に入ってくるんだもん」
「木兎さん迎えで割とお邪魔してますよ。それより席替えしたんですか?木兎さん不知火さんの横とか羨ましいです」
「だろー?…だろ…?」

顔をあげた木兎が「羨ましい?なんで?」みたいな顔をする。そんな表情を全く気にすることなく「ほら木兎さん、ミーティング行きますよ」と声を掛ける。…ミーティングは部活には

「俺部活禁止になったぁあ…」

含まれますよねやっぱり。
ぴたりと止まる赤葦京治の顔は、取りあえず私が見た事がない表情だった。めっちゃ歪んでる。おもしろい。「…どういうことですか?」と低い声の赤葦京治に木兎がびくっと身体を震わせる。

「しょ、小テストで0点取りましたっ!」
「クソ阿呆馬鹿野郎」
「なんで不知火と同じ事言う!?」

誰か俺を慰めてくれー!と暴れる木兎。慰める要素が何処にもないぞ。しかし五月蠅い。がたがたがたがた机を揺らす木兎。ふぅ、私は息を吐き立ち上がる。

「よーしよーし」
「!?」
「!!?」

頭を撫でる私の姿を、呆然と見つめる木兎と目を見開く赤葦京治。なんだか腑に落ちない反応だがまぁいいや。

「木兎」
「…ぅ?」
「お前再試験で間違えた問題数分だけ」
「勉強します」
「ちょっと最後まで聞きなさいよ」
「拷問ダメぜったい!」
「大丈夫大丈夫」
「なにを根拠に!?」
「死にゃあしない」
「突然の死!?」

死にはしないって言ってるでしょうに。「ほぉ…」と感嘆を漏らす赤葦京治にとても複雑な気分になる。

「ほんと惚れ惚れする恐怖政治っぷりですね」
「惚れ惚れ!?」
「マスターしたいものです。木兎さん」
「ななななに!?」
「間違えた分だけトス上げませんから」
「普通に嫌だ!!」
「…やっぱり弱いな…」
「なにが弱いのあかーし!?」

勝手に2人でやっとくれ。私は立ち上がり、教室を出ようとす――腕を掴まれた。言わずもがな赤葦京治にだ。「なに?」と言うとじぃーっと目を見つめられる。このイケメンめ、確かに目の保養ではあるけど私は靡かないぞ。

「俺も不知火先輩に頭なでなでしてもらいたいです」
「誰がするか」
<< | >>