【終わってしまった話】


あーあ…俺は家で一人ベッドにぶっ倒れた。さっきまで嫌というほど流した筈の涙がボロボロと出てくる。高校最後のバレーが、終わった。くっそ、飛雄め…あんなに強くなりやがって…。やはり天才には敵わないのだろうか、牛島と飛雄を頭に浮かべ、俺は笑った。

「あーあ…ほんと死にたい」

岩ちゃん達と出来るバレーが、最後だなんて…俺はシーツを握り締める。バレーを辞める気は無い、でもあのメンバーで出来るバレーはあれで最後だった。多分、いや絶対と言ってもいい。岩ちゃんにトスを上げる、なんて事はきっと…今後一生ないんだ。やだなぁ…、もっとあのメンバーでバレーがしたかった、全国に行きたかった。ウシワカ負かして、飛雄にもギャフンと言わせて…それで。

スマホが鳴った。なんだよこんな時に…!通話着信を知らせるメロディに、俺は乱暴にジャージのポケットを漁った。画面を見ずに、そのまま電話に出る。

「もしもし!!」
『なんでキレてんだよお前』
「…岩ちゃん?」

顔を上げる。耳を擽る声は、間違いようもなく岩ちゃんのものだった。『お前どうせ家でも泣いてるんだろうと思ってな』少し笑う岩ちゃんの声に、なんとなく安心感を覚えた。


「岩ちゃん」
『なんだ、死にたいのか?』
「今はいいや、岩ちゃんから電話来て嬉しいから」
『キモッ』
「酷いなぁ…もう」

ほんとうれしいんだよー、さっきまで会ってたのにもう寂しかったんだもん。俺は目を瞑った。そのまま口を開く。


「岩ちゃん、岩ちゃんは多分…もうバレーやらないんだろうね」
『は?』
「あ、ちょっと違うな。俺と違う道のバレーをするんだろうねきっと」

なんとなく、気づいていた。俺達が春高予選を突破して、全国に行ってもきっと岩ちゃんの道は変わらないと分かっていた。岩ちゃんは最初から、俺と違う道を進むと知っていた。それこそ、俺が岩ちゃんと初めて出逢った時から、分かっていた。俺と岩ちゃんの道は交わらない。俺が、全てを捨てようと思わなければ叶わない。


「岩ちゃん」
『…おい、今お前家だよな?』
「え、うん。そうだけど」
『今から行く』

ピッと電話が切られてしまった。ゆっくりと腕を下ろす。岩ちゃん、来るんだ。俺はベッドに寝かせていた身体を起こした。顔洗ってこよ…泣きすぎて喉痛いからお茶も飲んで。俺はゆっくりとした動作で部屋を出た。岩ちゃんくる前に、ちょっとくらいマシにしとかないと。







「及川」
「岩ちゃん早かったね。汗凄いよ?お茶飲む?」
「…貰う」

全力疾走して来たらしい岩ちゃん、ぽたり汗が落ちる。あーあータオルタオル、と俺は岩ちゃんの顔にタオルを叩き付けた。


「で、どうしたの岩ちゃん」
「お前が、死にそうだったから」
「え?命の危機ではなかったよ?」
「変な事言って、自滅しそうだったからなお前」

「俺はバレー続けるぞ、そりゃあお前とは違うチームかもしれねーけど」なんて言う岩ちゃん。違う、そうじゃないんだよ。俺は息を吐いた。


「岩ちゃん、俺バレー大好きなんだよ」
「んなもんずっと昔から知ってる」
「うん。そうだね」
「…お前」

言いたい事あるなら言えよ、なんて言う岩ちゃんに唇を噛んだ。

「岩ちゃん岩ちゃん」
「なんだ、」

「本当に俺が死にたくなったら、看取ってくれる?」


ばっかじゃねーの、死ね。岩ちゃんはそう言って俺の頭を殴った。俺は笑った。なんだろうか、凄く安心だ。
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