【告白された及川さん】






「すきです」
「…………は?」
「すきです及川さん」


飛雄の言葉に身体が石の様に固まった。は?顔を赤らめる飛雄に「あ、これマジのヤツだ」と理解してしまう。飛雄が私のことを好き?え?そりゃあ及川さんこんなに美少女だし、惚れるのはわかるけど…って茶化しはいらないか。「…え、いつから?」なんて野暮な事を聞く。そう、私は分かっていた。いや思い出した。飛雄が大泣したあの日の事を。


「中1の頃から…ずっと好きでした。でも及川さん岩泉さんと付き合ってるって聞いたから…それで…」

大きくなって、顔つきもムカつくほどイケメン顔になって、それでもあの頃の様な可愛らしさも奥底にあって…。おっかしーなぁ、なんで私まで顔が熱くなるんだろうか。だってあの飛雄だよ?泣き虫飛雄に惹かれる要素なんて皆無だよ?なのに、なんでこう…


「でもさっき中学の時の噂が嘘だって聞いて…。でも及川さん岩泉さんの事好きって言ってましたよね?」
「幼馴染として好きって意味で…ていうかお前男バレなのに気づいてなかったの?他の部員は茶化してたのに」
「だって及川さん本人から好きって言葉聞いたから…疑いようが無かったですし…」

あ、コイツ馬鹿正直だったんだった。そりゃあ噂話鵜呑みにするよなぁ。「で、事実聞いたらなんか…止まらなくなって」猪突猛進か。自由なままに生きてるな飛雄。ぎゅっと私の手を握り締める飛雄にどう答えようかと悩む。振る…振る?あれ、なんで…痛いんだろう。飛雄は、ただの後輩で、しかもあの頃は苦手意識を少なからず持っていて…なのになんで。「及川さん」飛雄が私の名前を呼ぶ。

「別に、付き合ってほしいとかじゃないんです。ただ言いたかっただけなんです。及川さん好きです。中学の頃から、多分初めて及川さんに会った時から好きだったんです。すきです」
「………は、」

恥ずかしい奴!!なんだこれなんだこれ!全身が熱くなる。顔を下に向けていると絡まっていた指が離れて行った「え」小さく声を漏らす。ちょっと、なんで。遠ざかる手に私は顔を見上げる。飛雄が笑った、無理した笑顔だった。

「えっと、振られるのは分かってるんで。ほんと、言いたかっただけなんで気にしないでください。それじゃあ、さようなら及川さん」

なんだそれ、そんな簡単に諦めるの?そんな程度なの?お前の、私に対する気持ちって。背を向ける飛雄に私は叫んだ。ムカつく、飛雄のくせにムカつく!


「誰が!振るって言ったの!?」
「――え」
「飛雄のくせに飛雄のくせに飛雄のくせに!!」
「え、ちょ、うわっ」

飛雄の背中を蹴飛ばした。「な、なにすんだ!」飛雄が非難の声を上げる。地面に倒れ込んだ飛雄に馬乗りになって胸ぐらを掴んだ。ふざけんな!今お前が帰ったらなんか及川さんが振られたみたいじゃん!なんでこう…こんなに私は


「別に私は飛雄の事嫌いじゃないし!?中学の頃は確かに苦手意識あったけどそれでも可愛い後輩だったし、お前の事結構理解してるつもりだし。嫌いじゃないし嫌いじゃないし!寧ろ好いてる方だし!?別に大好きってほどじゃないけどさぁ!」
「ちょ、及川さ」
「お前言い逃げして終わらせようとするな!私だって――」










「及川、お前何してる…」



我に返る。え、私は声のした方を向く。呆れ顔の岩ちゃんと、数人にやにやした烏野バレー部。え、ちょ…いつからそこに居たの?「影山こんな美女と両思いかムカつくぞこの野郎!!」あ、美女って言ってくれてありがとう。でも両想いとかそういうんじゃないから!!違うから!!「取り敢えず影山の上から退け…」岩ちゃんの言葉にハッとする。この状況、私が飛雄を押し倒してるよに見える…?「うぎゃあ!」色気の無い声を上げて飛雄の上から退いた。

「違うからね!ちょっと勘違いしないでよ?」
「あーはいはい、わかったわかった」
「絶対わかってないじゃん!」
「ほれ、バレー部帰るんだから邪魔すんな。影山、及川が襲いかかってたようで悪かったな」
「襲ってないし!岩ちゃん変に言うのやめて!」
「はいはい」

呆気にとられる飛雄を指差して私は声を上げた「飛雄お前あとで覚悟しとけ!」それだけ言って私はダッシュで逃げた。そう、逃げた。だって私も飛雄が好きって言ってるようなもんじゃん!あぁああ!もう!






「ていうか好きって言ってたし!?」

好いてるけど大好きじゃないってどんな照れ隠しだよ!ふざけんな自分!!体育館裏で私は頭を抱えた。あー…もうヤダ。今度飛雄に会う時どんな顔すればいいんだよ…。暫く私は顔を真っ赤にさせていた。
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