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上げて落す
馬鹿みたいに死にたい及川と
その話に付き合ってやる岩泉
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【死にたがり及川の噺】
「死にたい」
ずずずーっと岩ちゃんが紙パックのジュースを飲んでいた。そして無反応。俺はもう一度「死にたい」と口にした。なんだよー岩ちゃん、俺がこんだけ死にたがっているというのに、無反応なのか。うー…と俺は机に額を擦りつけた。
「彼女に振られたか」
「うるさいよ!!」
どう足掻いても事実で、どうしようもなく図星だった。昨日彼女に振られた、そう振られた…ふら、ふ…
「なんで!?俺彼女ちゃんめっちゃ大事にしてたよ!?」
「具体的には?」
「朝迎えに行ったりー」
「俺ら朝7時から朝練で?何時に彼女の家行ってんだよお前」
「お昼も一緒に食べてたしー」
「俺と花巻と松川も一緒にな。彼女居心地悪そうだったぞ」
「放課後も一緒に帰ってー」
「俺ら部活終わるの遅いのにな」
「休日は」
「インハイ前で休みなかったよな」
「月曜」
「彼女が部活だから俺らと帰ってたな」
「チクショウ!!!」
俺は机を叩く。ツッコミが的確すぎて何も言えない!!朝、6時半にお迎え行ってましたけどなにか!?ちなみに元彼女、文化系の部活で活動は月曜のみ、当然朝練なんてものは存在していなかった。眠そうに玄関から出てくる彼女ちゃん可愛かったんだよ!そう言うと「迷惑極まりねぇな」と言われた。ソウデスネ!!
「というわけで死にたいんだけど」
「屋上ならいつでも開いてるだろ」
「死ねって言った!?」
「お前が死にたいって言った」
「そうだねちくしょう!」
「つーかうるせぇ黙れ」
死にました。厳密にいえば息はしている。とても強い衝撃が頭を直撃して、目の前に星が飛んで机にぶっ倒れた。パワー5リラが本気で殴るもんじゃないと思うんだ。
「前の彼女も長続きしなかったから…今回は大切にしようって頑張ったのにぃ…」
「頑張るベクトルがひん曲がってんだよお前。せめて飯は2人で食えよ」
「え、岩ちゃん達と食べたい」
「お前俺らの事好きすぎんだろ」
キモッ!と顔を歪ませる岩ちゃんに、机の下で脛を蹴ってやった。「ぐっ!?」と痛みに耐える声を上げてざまぁみろって思った。思ってまた死んだ。
「…及川どうしたの?」
「死にたいんだとよ」
「死んでんじゃん」
「おう」
再び鉄拳を頭に食らい、俺はその日2度目の死亡を体感した。
◇◆◇「死にたい」
「今度はなんだ」
わぁ!岩ちゃん今度はすぐ反応してくれたね!そう言うと「無視するとお前うるせーんだもん」と岩ちゃんが顔を歪めた。何さ、「俺が寂しそうに鳴く可愛いチワワみたいだって?」そう言うと岩ちゃんが親指を立てて首のあたりでスライドさせた。あ、死ねって?お生憎とそう簡単に死んでやらないよ。「死にてぇんじゃねーのかよ」呆れる岩ちゃんに「死にたいよ!」と俺は叫んだ。
「牛乳パンが売り切れてた」
「死ね」
「死にたい!」
「死ね」
頭を思いっ切り叩かれた。痛い!でもさっきは拳だったし、平手打ちに変わったからちょっとだけマイルドになったね!そう言うと岩ちゃんにドン引きされた。なんで?
「お前、殴られたい趣味があんの?」
「女の子に踏まれたいって願望はちょっとあるかな」
「……」
死ねとすら言われなくなった。あれ、なんか逆に死にたい。ってそんな話じゃないんだよ。牛乳パンだよ?牛乳パンが売り切れたんだよ?由々しき事態だよまったく!
「たかがパンじゃねーか」
「あの牛乳パンが売り切れなんてめったに無いよ!?あんないつも売れ残る様なパン!」
「自分の好物だろ、売れ残る言うな」
「スーパーの揚げだし豆腐だってからあげに比べたら売れ残ってんじゃん!」
「ああ?」
「売れ残り仲間だね俺達!」
「死ね」
本日の死亡回数、6回。
◇◆◇「岩ちゃん」
「死ね」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
どうせくだらない事で死にたいっていうんだろ?そう言う岩ちゃんに失礼だなぁ!と俺は怒った。まったく失礼なんだよ岩ちゃん!
「で」
「え?」
「今日はなんで死にたいんだ?」
「テストに名前書き忘れて0点になった」
「…死ぬなそれは…」
俺は顔を覆った。うん、死にたいんじゃなくて死ぬ。「…補習行ってきます…」そういう俺に「今度補習だったら殺す」というお言葉を頂いた。俺ちゃんと合格点取ってたもん…!再テストで回答欄1個ズレて岩ちゃんに殺された。「及川君は何回もやらかすねー。でも決まりだから補習はちゃんと受けてもらうわよ?」にこにこと、そして目がまるで笑っていない先生を目の前に、俺は死にたくなった。こわい。
◇◆◇「あー…」
「死にたい」
「え、岩ちゃん死にたいの!?どうしたの!?」
「お前が言う前に言ってやっただけだ」
「流石岩ちゃん!」
「死ね」
ぺしん、軽く頭を叩かれた。痛くない。はぁー…と俺達は重い溜息を吐いた。ねぇ岩ちゃん、俺は口を開く。なんだよ、岩ちゃんも気だるそうに口を開いた。
「死にたいね…」
「…そうだな、流石に死にてェわ…」
『負けたら女装!』という紙をぐしゃぐしゃに握り締める。俺達は体育館裏で顔を覆い「死にたい…」「ああ、死にてェ」と呟いた。膝の上には女子バレから借りた制服、勿論女子の制服。「ちょっとー!及川と岩泉まだぁー!?」と体育館の中から女子バレの声が聞こえた。まって、心の準備が出来てない。
「よし、死ぬか」
死んだ目の岩ちゃんがジャージのファスナーに手を掛けた。駄目だよ、考え直そうよ!死んじゃ駄目だよ岩ちゃん!そう叫んだら「罰ゲームなんだから早くしなさいよアホ川」と女子バレの主将にサーブ打たれて死んだ。あと岩ちゃんの女装姿見て死んだ、ガタイの良い男の女装とか凶器以外のなにものでもないと思うんだ。しかし爆笑してしまった俺は岩ちゃんにまた殺された。何度死ねば気が済むんだ俺は。
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