【高校1年の飛雄君】





及川さんが、居た。あの頃より髪が伸びて、なんかきらきらしている及川さんが目の前に居た。なんだか、夢なんじゃないかと思うくらい身体がふわふわとする。見下ろす俺と見上げる及川さん。やばい、及川さんこんなに小さかったのか…ほっせーし…。「生意気だ!」なんて俺をぺしぺし叩く及川さんにどきっとしてしまった。




「及川さん、まだ岩泉さんと付き合ってるんですか?」


思わず口に出てしまった言葉に及川さんは「……は…?」とまるで意味が分からないという声を上げた。俺は首を傾げる。あれ、だって…中学の時2人は付き合って…?「トビオちゃん、あのデマ話本気で信じてたの?」その言葉に俺は「え」と声を漏らした。は…デマ?嘘?いやだって…及川さんは岩泉さんの事が好きって…。
その後岩泉さんが来て及川さんの首を掴んだ。その姿を見てやっぱりずきり、心が痛んだ。俺はまだ及川さんが好きらしい。でもさっきの言葉、デマの噂。もしそれが本当なら…。ぎゅっと手を握り締めた。


「及川さん、あとで話いいですか」
「時間あったらね!さっさと行け生意気飛雄!」
「うっす」

今日の練習試合は頑張れそうだ。




◇◆◇



練習試合に勝った。練習試合が終わって及川さんを探そうとして金田一に捕まった。色々、言いたい事はあった。俺は後悔してた、あの頃もっとわかりあえていたら。でも、後ろは振り向かない。「次も俺達が勝つ」そう言って金田一に背を向けた。「影山」俺を呼ぶ声、振り向くとさっきまで居なかった国見が金田一の隣に居た。


「及川さん、正門前に居るってさ」

「…ありがと」国見にお礼を言って駆けだす。そういや失恋した、ってあいつらの前で大泣した事あったな、ついでに及川さんに抱きついて大泣した事も思い出した。今思い出すとすげー恥ずかしい。







「及川さん!」

正門で寄りかかる及川さんの姿を捉えた。「トビオちゃんお疲れ様」及川さんが俺の方を向く。ぶわっ、心の奥底から熱が込み上げてきた。

「勝ちました!」
「そーだね、でも岩ちゃんたちのレベルがあんなものだと思わないでよ?」
「次も勝ちますから」
「なまいきー!」

そう言いながら及川さんは笑った。俺は、及川さんに手を伸ばす。及川さんの手を取ると「え、何?」及川さんは目を丸くした。色々、言いたい事があるんだ。及川さん、及川さん。俺は小さく細い及川さんの指を自分の指に絡める。


「ちょ、なんなの飛」
「すきです」
「…………は?」
「すきです及川さん」


あ、なんかうっかり口に出してしまった。呆然と俺を見上げる及川さんに顔が熱くなった。
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