【高校3年の及川さん】





あ、なんか岩ちゃんが「今日烏野と練習試合だ」なんてぼやいてたな。そう言えば飛雄、烏野に行ったんだっけ。ちょっとだけ、顔でも出してやろうかな。幸い女子バレは今日はオフ日だ。るんるーん!牛乳パンを食べながら廊下を歩く。あの泣き虫飛雄ちゃんはどんな成長を遂げてるのかなー。「及川、女子がパン食いながら廊下歩いてるなよ、太るぞ!」マッキーが笑いながらそんな事を言う。失礼な!食べた分ちゃんと消費するもん!


「ところでマッキー」
「なに?」
「今日の私可愛い?」
「うん、いつも通り。自分の魅せ方解りきっててばっちり決めてる辺り女子怖いなって思う。及川って小悪魔というより魔女だよね」
「マッキーぶっ殺」

ぐしゃっ、持ってた牛乳パンが潰れた。魔女って失礼な。「可愛い子ぶってる及川より、たまに暴言吐く及川の方が可愛いと思うけど?」マッキーが私の頭を撫でる。

「ん?つまりどんな私でも可愛いってこと?」
「はいはい可愛い可愛い」

白けた目で見ないでよ。「今日応援行くから練習試合頑張ってねー!」「おー」マッキーと別れた。さて、応援行く前にスプレーで髪整えて、っと。久しぶりに会うトビオちゃんに高校3年及川さんの魅力を見せつけてやらないとね!



数時間後、私は飛雄を見て絶望することになる。





◇◆◇



「と、トビオちゃん……?」

「…及川、さん?お久しぶりです」90度の角度でお辞儀された。…は?顔を上げた飛雄を見上げる。見上げる…だと?「お、おま!こんな美女とお知り合いなのか!?」坊主頭の人が後ろで騒いでいた。美女と言われて悪い気がしないけど、衝撃が大きすぎて反応できない。

飛雄の身長が超伸びてる…!?いやいや、中学の頃は私が見下ろしてたよ、飛雄すごい小さかったよ?なに男子の成長期ってほんとにょきにょき伸びるの?しかもなんか可愛げがあった飛雄が大人っぽい顔つきになってるし…!イラッとした私は飛雄の腹を思いっ切り殴った。


「トビオちゃんのくせに生意気だ!今身長身長何センチだこの野郎!」
「は、180センチですけど」
「生意気ィ!にょきにょき成長しやがって!!」
「及川さんは縮みました?」
「むきぃいいい!縮んでないし!175cmだし!中学より伸びてるし!!」
「…及川さんって、こんなに小さかったのか…」
「むーかーつーくぅうう!」

べしべしと飛雄を叩く。烏野バレー部が呆然としてるけど気にしない。飛雄のくせに飛雄のくせに飛雄のくせに!!あーもーむかつく!!泣き虫飛雄は何処へ行った!
バシッと殴っていた腕を掴まれた。大きい手に吃驚する。「及川さん、」飛雄が口を開いた。


「及川さん、まだ岩泉さんと付き合ってるんですか?」
「……は…?」

ちょっと何言ってるのかわかんない。
岩ちゃんと付き合ってる?は?ここで中学3年時代に横行した噂話を思い出した。私はまた間抜けに「は?」と声を上げてしまった。


「トビオちゃん、あのデマ話本気で信じてたの?」
「え」
「いや、えって…」

呆然とする飛雄の顔を見て私も呆然とする。後ろから「及川!なに烏野の行く手塞いでんだ!!」と駆けてきた岩ちゃんに怒られる。いやいやそれどころじゃないよ岩ちゃん、馬鹿が居るよ、あの噂を今まで信じてた馬鹿が居るよ。「すんません女子バレ主将が邪魔をして。体育館こっちです」岩ちゃんが私の首根っこを掴んで烏野バレー部を案内し始めた。岩ちゃん岩ちゃん、首掴むの止めて力入れないで痛い痛い!途中マッキーに「及川今度は何やらかしたの?」なんて笑われた。何もやらかしてないし!体育館に着くと投げ捨てられた。「お前大人しく試合見てろよ」怖い顔で私に言う岩ちゃん。私が何かする前提で話するのやめてよ!ほんとに!!

「及川さん、あとで話いいですか」
「時間あったらね!さっさと行け生意気飛雄!」
「うっす」


そうして飛雄とも別れた。ギャラリーへ向かう途中国見ちゃんがサボってて「国見ちゃん、飛雄なんであんなに大きくなってんの!?」なんて聞いたら「及川さん達が卒業してからめちゃくちゃにょきにょき伸びましたよアイツ」なんて返って来た。くっそう…そうえば国見ちゃんも金田一もめちゃくちゃ伸びてたもんね…男子の成長期怖っ!ずるい!「及川さんだって女子にしてみたら大きい方じゃないですか。あと女子って小さい方が良い、なんて言う人もいますし」いーや!高身長の方がいいね!「国見ちゃん、身長分けて!」なんて言ったら呆れ顔で見られた。もう、国見ちゃんサボってるの岩ちゃんに告げ口しちゃうよ?
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