「今日お前部活何時まで」
「遅くても7時には切り上げる」

んじゃダッシュで駅前の広場な。千種の言葉にいよいよかと感じながら「おう」と返事を返した。ギターはロッカーの中、放課後の部活前に千種に預けるとして「あ、部活ジャージのままで大丈夫か?」なんて聞いたらぶん殴られた。

「そりゃあわかる人間には身元バレてるだろうけど、知らない人間にまで堂々と学校名とか明かすなよ」
「あー」
「あー、じゃねーよ!」

何してるの君たち、後ろからきた月島が呆れ顔をしていた。「お、月島おはよっす!聞けよ、コイツ今日の路上ライブ部活ジャージで良いか?って聞いてきたんだよ!」その言葉に「は?」と馬鹿じゃないの?という視線を向けられた。そんなに駄目かよジャージ。



「この年代のバンドでは割と人気ある方だっていうのに馬鹿じゃないの?」
「…に、人気…」
「ちょっと、変に感動しないでよ。今王様の説教中でしょ」
「ファンがいるって感動…っ」
「聞けよ」

そうなった千種は暫く人の話きかねーぞ。感動で震える千種をほっとき、目の前にある自動販売機に金を入れた。ボタン三つ押し…「いつも思うけど、同じ商品のボタン同時押しして何の意味があるの?」「意味なんてねーよ」「なんなの君…」リバーブには阿呆しかいないの?白い目で見てくる月島にイラっとした。


「で、今日やるんだ」
「駅前広場、7時半からの予定。俺は準備あるから部活終わったらダッシュ」
「日向がしつこそうだったら助けてあげるよ、今回だけ」
「…お前」

なんとなく乗り気な月島を見て「…お前マジでリバーブのファンなんだな…」驚きの表情を向ける。ヘッドホンいつも持ってるし、音楽好きなんだろうなっていうのは想像がつくけど、リバーブだぞ?自分で言うのもあれだけどリバーブだぞ?


「あの千種が作ったバンドだぞ?」
「マイナス点があるとすればそこだよ」

あんな馬鹿みたいな奴がリーダーだとは思いもしなかった。心底残念そうに溜息を吐く月島。バンド作ったのは千種だけどまとめ役は斎藤だぞ。「新メンバーもあれだし」あれって何だよ。「ま、頑張ってよね」ぽんと肩を叩かれ、月島は歩いて行ってしまった。…頑張ってね、だと。あの月島に応援された事に吃驚して、なんだかちょっと嬉しかった。


「…ギター、弾きてぇなー…」

我ながら単細胞だと思った。








◇◆◇




『7時半駅前ライブ変更無し。時間厳守』そんなメールが届く。7時半なら遅れることもないだろう、俺はそのままケータイをポケットの中に入れた。ぐだーっと机に顔を乗せる。ねむい、ライブの為に授業中寝て体力温存しておこうと心に誓う。ふと、一人の生徒に目を向けた。…だれだっけ。影山の…後輩…だったら同じ学年じゃないや。バレー、バレーの元チームメイト?多分それだ。じーっと見ているとあっちが俺に目を向けてきた。バチッと合う視線。なんだか、睨まれているような気がして

「……ふぅん」

俺は笑った。ふーんそっか、成る程。俺はその一瞬で理解する。俺の笑った顔にあっちは反応した。立ちあがって、俺に近づく。どうしよう、どうしよう…かな。俺は机の横にあるベースを撫でた。
昔、ねーちゃんと相崎に言われた事がある。「お前は性格が悪いな」って。仲間内には自然体のくせに、それ以外にはまるで関心を向けない、それどころか拒絶するよな。って言われた。別にいいじゃん、他人なんてどうだって。俺は俺が大切に出来るものだけを大切にするよ。
だから、どうしてやろうか。俺の目の前に立つ人間に顔を上げた。「なに?」俺は首を傾げる。


「清水、影山と知り合いなんだな」
「そうだけど。俺北一だったし」
「どういう知り合い?」
「なんで?」
「え」
「なんでそんな事聞くの?」

わかりやすく狼狽えた。というかコイツの名前本当になんだっけ。クラスの人間誰一人憶えてないからわかんないや、どうでもいっか。「それは、俺が」そいつの言葉を待つ。うーん、どうしよう。俺はこいつに付き合ってやる義理無いんだよな。でも、影山の元チームメイト。

「俺があいつの元チームメイトで」
「元ならいいだろ?今だって違う学校だし、同じ部活の敵同士。あと俺らの仲間」
「なかま?」
「そう、影山俺らの」

だからあげない。俺は笑った。目の前の人は目を見開き、そして不快そうな顔をした。そんな顔したって、あげないよ。あげない、そして見せつけてやろう。

「今日7時半に駅前の広場」
「は?」
「あ、あの先輩も連れてきてよ。影山にちょっかい出してたあの人。茶髪の五月蠅い人。楽しいものが見れるよ」

それだけ言って俺は机に突っ伏した。「は、ちょっと意味わかんないんだけど」俺の身体を揺らすそいつに俺は反応しない。暫くして諦めたのか、そいつの気配は無くなった。授業開始のベルも鳴り顔を上げる。まだあいつが俺を睨んでいた。こわいこわい。
誰にも何も言わずに、あの人たち路上ライブに誘っちゃったけど大丈夫かな。見せつける為のものでもあったけど、同時にあの人たちにチャンス与えちゃったようなものだし。影山が中学の時の蟠りを無くしたいっていうんなら別にそれはそれでいいんだけど。

影山の一番は烏野でやるバレーボール。悔しいけど2番目が俺達リバーブ。暫くこの順番は譲ってやる気はない。










「なーんちゃって」
「…なんだよ清水突然」
「さっきあった出来事思いだして楽しくなった」
「珍しいな、お前がベース弾く以外で楽しむなんて」

昼、建物の日影でベースを引く。ベース仲間が「確かにいつもより弾んでる」なんて笑った。意外と気分屋だったりする。ベース弾く時が一番楽しいから、嫌な事あっても楽しく弾けるけど、やっぱり楽しい事あった時の方が楽しく弾ける。


「性格悪い楽しみ方だけどな」
「なにした清水」
「…例えるなら元カレに彼女自慢する今カレ?」
「お前彼女いたんか!」
「例えって言っただろ。あと俺の彼女これだから」

ベースを抱きしめる。「あ、知ってた。清水の彼女ベースだって知ってた」呆れた表情のベース仲間。

「いっくんは一生彼女できないのかね…」
「いっくん呼ぶな殺すぞ」
「本気トーンやめろ怖ェ」


あ、一応相崎に連絡入れとこ。『相崎ー、影山の元チームメイトと先輩誘っといた。来るかわからないけど』メッセージを送るとすぐさま『いっくんグッジョブ!』と帰って来た。後で相崎殺す。








◇◆◇




「おつかれっしたー!」
「は!?影山練習もう終わりか!?」

トストストス!トスあげてくれよー!想像通りに日向がジャージを引っ張って来た。「だー!今日はこの後用があるんだよ!明日早朝付き合ってやるから!」頭を押さえこむが「今がいい!!」噛みつくように俺にしがみ付く。引き剥がそうにも離れない。「だぁあああ!うぜぇしつけぇ!」力を籠める。


「日向」
「なんだよ月島!」
「王様、いまからデートなんだって」

は!?俺含め体育館に居る全員が声を上げた。おいなんだその嘘は。「はぁあああ!?影山いつの間に彼女なんか出来たんだ!?」田中さんが大きな声を上げる。

「7時半に駅前広場で待ち合わせなんだよね?邪魔しないで見守ってあげようよ」

こんのやろう…!ギャラリー増やす気か!「あ、覗き見OKのデートらしいんで」覗き見OKのデートってなんだよ、デートじゃねーけど。「ほら、さっさと用意して行きなよ」そう俺の背中を押した。お前…全く持って感謝の気持ちが湧いてこないぞ。しかしここで言い合いをする訳にもいかない。「デートじゃねーから!」それだけ言って俺は一人先に体育館を出た。








「照れ隠しするなんて、あいつも初だな!」
「おおおおお俺、影山に彼女居るなんて知らなかった!」
「よーし!駅前行くぞ日向!」
「うっす!!」


「…程々にしとけよお前ら…」
「………」
「スガ?」
「あ、ああ…俺も行こうかなーって」
「お前……」
「はは、大丈夫大丈夫!影山彼女とデートじゃないから」
「…は、」


こんな会話が繰り広げられていたなんて、俺は知らない。
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