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【閉所愛好】
クラストロフィリア


【窒息性愛】
ハイポクシフィリア


国見と影山の特殊性癖の噺

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国見、影山が俺の名前を呼んだ。俺は影山の首に手を添えて力を込めた。苦しそうに顔を歪める。俺は笑って影山の口を塞いだ。は、息が漏れる。酸素を求める様に口を開く影山に舌をねじ込んでやった。
ガタガタと揺れる。誰か着たらまずいよな、なんて分かっているがどうしたって止まらない。俺はゆっくりと影山の首から手を離し、また深くキスをした。影山のワイシャツに指を掛けた。













「なぁ、国見」
「なに」
「…やめねーか?」


服を整えながら顔を打つ向かせ口を開く影山に「は、何を?」俺は顔を歪ませた。「だからさ、」首を擦りながら影山が、俺と同じように顔を歪ませながら口を開く。なに、ああいう行為を止めろって?お前だって楽しんでんじゃん、なんて罵ろうと思ったら


「どうせ誰も居ない部屋でやってんだから、態々狭いロッカーに入らなくてもいいだろ…動きづらい」
「無理、狭いところじゃないと興奮しない」
「変態…」
「お前にだけは言われたくないんだけど」

俺は、俺の手型がくっきりとついた影山の首に指を這わせた。ビクリ、影山が身体を揺らせ、熱のある息を吐く。こういうところ、可愛いとは思うんだけど理解は出来ない。空気を取り込もうとはくはくと口を開いて、そこに舌ねじ込むのは嗜虐心を擽って楽しくはあるんだけど…俺そこまでSじゃないし。

「首締めないでいいんなら、別にいいけど」
「…それは、」

コイツも俺と同じで変な性癖を持っていて、首を絞めないと満足できない奴だった。どうしたって、理解は出来ない。俺のも理解されたいとは思わない。うぬぐ…と影山が変な声を漏らした。「帰るぞ」俺は影山の首にマフラーを巻き荷物を持つ。


「お前さ、家庭内暴力とか疑われたらどうすんの?」
「跡残った事ねーじゃん」
「家とか」
「両親俺のコレ知ってるし」
「…まぁそうだよな…っておい、お前その首の跡両親に」
「ばれてるけど」
「…俺の事、言ってないよな?」
「お前この跡の説明どうしろっつーんだよ」

どうやら影山は両親に全て話してしまっているようで、俺は頭を押さえた。おい、自分の息子が男に首絞められて抱かれてるなんて知ったらどんな気持ちになると思ってんだ。「互いが良いっていうんならいいんじゃないか、って言われた」なんて言う影山の両親の寛大さに、俺は頭を悩ませた。違うだろ。確かに互いが同意してる行為ではある、同意と言うか…譲歩の結果ではあるが。


「でもさ、俺は兎も角お前のそれは相手誰でもいいんじゃねーの?」
「誰でもはよくないだろ」
「そういう意味じゃなくて」

狭ければ相手が誰でも良いわけではない。「金田一だって良いわけだろ?」なんて言う影山の頭を思いっ切り殴ってやった。馬鹿が、金田一をそんな目で見んな。あれは俺の大事な友人なのだ、そういう対象では全くない。「まぁ金田一は冗談として、女子だって大丈夫なわけだろ」影山が少し不機嫌そうに言った。


「まぁそうだな。その点お前は無理だもんな、女子に首絞められたって力弱いわけだし」
「つーか俺は国見が良いし」
「あっそ……って、は?」

今普通に流そうとしてしまった、が俺はその言葉を捉えた。おい、今コイツなんて言った?じっと俺を見ながら「俺は国見だからいいんだけど」なんて言う影山に俺は顔を覆った。


「…は、なにお前男好きなの?」
「いや」
「いや、じゃなくて。だってそういう事だろ」
「国見がいい」

どんな最悪な殺し文句だこの野郎。俺は頭を抱えた。まて、多分コイツは勘違いしているのだ。それを出来るのが男だったから、それがたまたま俺だったから。俺が好きだと勘違いしているんだ、そうに違いない。

「お前、嫌いなヤツとこんな事すんの?」
「……」

変なところに気づくんじゃねーよ、いつもは人の気持ちなんで全然汲もうとしないくせに。俺はぐっと唇を噛んだ。俺の心情など露知らず、影山は口を開く。


「俺は、国見が好きだ」






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なんて事が中学の頃にあった。部で色々あったり拗れたりしたが、相変わらず俺達の関係は続いていて。
練習試合に来ていた影山を誰も居ない部屋に引き込んで口を塞いだ。つーかこの部屋ロッカーとかねーし、チッと舌打ちをして影山を押し倒した。仕方ない、今回はコイツの望みを聞いてやろう。「くにみ」熱のある瞳で見つめてくる影山にぞくりとする。ほんと残念で仕方ない。俺は影山の首に手を添える、そして力を籠める。俺、この感覚はどうしたって慣れないんだよな…顔をしかめながらも、苦しそうに、そして口元をゆるり歪ませる影山を見下ろした。


ガラリ、部屋のドアが開いた。俺は身体を固まらせて、ドアの方へと視線を向けた。呆然と、俺を見る及川さんの姿。あ、やばい。俺は影山の首から手を離す。は、息を吐く。


「く、にみちゃん…」
「…及川さん…これは…えっと…」

俺と、俺の下に横たわる影山を見る。険しい表情になる及川さんをどうしようか、俺の額には冷や汗。どうしようもこうしようもないだろ。「国見ちゃん、いくら飛雄といざこざがあったとしても、それは駄目だよ」及川さんが一歩近づく。俺は、影山の上から退こうと立ち上がろうとして――腕を取られた。


「は、影や」

胸ぐらを掴まれ、そのまま唇を塞がれた。「は!?」と及川さんの声が上がる。俺も声をあげたい。お前何やってんの。吃驚して開けっぱなしだった口に舌が入り込んで、くちゃり、音が響く。


「は…っ」
「くにみ、たりない」
「お前なんでスイッチ入ってんだよ。酸素が足りない?」
「違う、酸素は足りてる。つーかあり過ぎてだめ」

首絞めろよ、と言わんばかりに俺の手を首に押し当てる。ちょっと待てお前、周りを見ろ。俺は立ち上がり、影山の腕を引き立ち上がらせた。


「は、ぁ…」
「そう言う息吐くな!まったく…あの、及川さん…」
「……おい、かわ…さん?」

ここで漸く及川さんの存在に気づいたらしい影山は、及川さんと目を合わせた瞬間「あ」と声を零し、俺の背中に隠れた。俺を盾にするな馬鹿。俺と呆然とする及川さんが目を見合わせる。


「ど、どういうこと…?」
「…えっと、そういうことです…」
「いやわかんないから!なに、俺国見ちゃんが飛雄の首絞めてた様に見えたけど違うの!?なに、単に襲ってただけ?単に襲ってるっていうのも可笑しいけど!」
「首は、絞めてました」
「はぁ!?」

俺の肩を掴みゆさゆさと揺らす。あーあーもう、面倒なことになった。俺は溜息を吐いた。仕方ないから事情を離す事にしよう、と俺は重い口を開いた。







「えっと、つまり飛雄はドMだと」
「違います。殴られたりすんのは好きじゃないです。首絞められたり、息が出来なくなる状態が良いんです」
「お前ほんと意味わかんない、なに生命危機のときめいちゃうの?」

で、国見ちゃんが仕方なく付き合ってるって?俺に目を向ける及川さんに曖昧な反応をする。首を絞めるという行為に関しては、確かに仕方なく付き合っているんだけど。 俺の方にも付き合わせているわけだし。庇うつもりなんてない。俺らは同罪なのだから。



「及川さん」
「なに、国見ちゃん」
「俺狭いところが好きなんです」
「…えっと、なに?この流れで何の話?」
「狭いロッカーとかでヤるのすきなんです」
「………」

…国見ちゃん、君もなのか…と及川さんが遠い目をした。悪かったですね、二人して異常性癖持って。


「いつもはほんとバレないところでやるんですけど、たまたま入ったここ、ロッカーとかなかったし仕方なくです。及川さんが来なかったら全然問題ありませんでした」
「なんで開き直ってるの!?ていうか学校でそういうの止めて!?」
「学校違うから中々会えないいですよ察してください」
「察しろってい言われてもねぇ…!というかお前ら仲悪いんじゃなかったの!?」

俺と影山は顔を見合わせる。まぁいざこざはあったけど、部活動の事だけだし。あの期間中だって普通にやってる事はやってたし。

「別に仲悪くは無いですけど。中学ん時からこんな感じですし」
「俺国見好きですし」
「お前らほんとに意味わかんない…!」

もう俺付き合ってらんない!と及川さんは部屋から出て行った。…沈黙。「なぁ…」影山が口を開く。


「俺バスやばいかも」
「あ、忘れてた」

練習試合に来てたんだよなそういえば、と俺は影山のジャージを伸ばす。別に本番やってないし、見た目に問題は無い。首も、殆ど未遂だったから跡は付いていない。「国見、あのさ」影山が口を開く。


「今日俺んち誰も居ないんだけど」
「却下」
「はぁ!?」
「お前の部屋それほど狭くないじゃん」
「…浴槽、とか」
「俺も窒息しそうで怖いんだけど」

まぁいいや、後でお前の家行くよ。そう言うと影山は嬉しそうな顔をした。あー…ほんと、なんだかなぁ…。走る影山の背中を見送る。及川さんをどうしようかと思案した。
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