「いいか、ギターもやるけど俺はバレー優先だからな!」
「わーったよ!ほれさっさとバレー部行って来い」

ほんとに分かってんのかコイツ、この前だって「バレーする前に1回やろうぜ!」とか勝手に俺のギター持ってきて結局セッションさせられて、おかげで自主練する時間が減ったじゃねーか。「あんときはすげー弾きたかったんだって!」もー怒るなよ!と騒ぐせんに「別にもう怒ってねーよ」と返した。実のところ俺も弾きたかったのだ、秘密だけど。

「つか、なに?今度のミニゲームで負けたら入部できねーの?」
「入部出来無くはないけど、セッターじゃなきゃやる意味が無い」
「……ミニゲーム負けたらバンド専念…?」
「せんの阿呆ボゲェ!」
「せんじゃねーよ!」
「せんしゅ」
「せんしゅって呼ぶな!ちぐさだ千種!馬鹿ボゲェ!」
「ああ?」

喧嘩腰になる俺達の肩にぽんっ、と手が乗った。ん?と俺達はそちらに目を向けるとにこにこと笑う斎藤の顔があった。ひくり、喉が引き攣る。「な、お前ら?」掴まれた肩に力が込められる。千種が「ヒィ!」と声を上げた。


「喧嘩、するなって言ってるだろ?」

いつもいつもくだらないことで喧嘩して、手が出て物を投げ飛ばして…周りの迷惑もちゃんと考えろよ?ここまで笑顔で言う斎藤に、俺達はその場で正座をした。そんな俺達をクラスメイトは面白そうに観察していた。




◇◆◇




「らららー…らー…」


入学早々「新曲だ」と斎藤に渡された楽譜…は俺には分からない。千種が一度弾いてくれたメロディを口ずさんだ。すると隣を歩いていた日向ぎょっとした。なんだよ、その顔は。「お、お前音楽なんか聴くの…!?」聴くっつーか弾く方っつーか…曖昧に「まぁな」と答えるとマジかよ…みたいな顔をされた。

「イマドキの若い人って何聴くんですか」
「なんで敬語?しかも今時の若者って」
「俺妹のせいで若い通り越してアニメの主題歌しかわかんねぇんだよ…!」
「ハッ」
「お前今鼻で笑った?」

ふーんだ!と口をとがらせる日向。でもあれだな、俺もそんなに音楽聴かねぇし。いつも斎藤が作った音楽を一度聴かせてもらって俺が弾いて…合わせて、千種に教えてもらって…その繰り返しだ。

「俺もわかんね」
「お前なんか歌ってたじゃん!なんかかっこよささげなの!あ、でもらららで歌ってたから歌詞憶えてねーのか」
「いや、まだ歌詞がないだけだ」
「…!?誰かが作った曲!?」
「おー…友達?が作って来た曲」
「かっけー!」
「おう、斎藤の作る曲かっけーんだ」
「へー!」

へー、すげー!と声を上げる日向に悪い気はしなかった。同じメンバーを褒められると自分も嬉しくなる。なんでだろうか。むずむずした気持ちを持ちながら日向と別れ、家に着く。…ギターでもするか。俺は自室に籠ってギターを構える。新曲、新曲…。「今度さ、路上ライブでもするか。そういうの許可されてる広場とか公園とか結構あるんだけどさ、割と人通り多いところでさ」そんな千種の言葉を思い出した。そういえば俺、人前で弾いた事ないんだよな…。ギターを抱きしめ、そんな事を思った。初心者にしてみたら、多分上手い方なんだと思う。よく千種に「くっそうめぇなチクショウ!」と頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。それが、嬉しかったりする。それだけで、俺は充分だ。でも、ほかのヤツはやっぱり違うのだろう。ライブ…ライブ…。

「それって、楽しいのか?」

ジャッ、ジャッ!と音を鳴らす。ライブが云々の前にまずミニゲームだよなぁ…負けてセッター外されたらマジでバンド集中すんぞコラ。




「でもやっぱり、バレーやって生き生きしてる影山じゃないと、つまんねーよな」



千種の言葉を、思い出した。

「ああああ!クソがぁああ!」
「飛雄五月蠅いわよ!何時だと思ってるの!?」

もうギターも片づけて早くお風呂入りなさい!と母に怒られ、いそいそとギターを仕舞う。風呂に入る前にケータイを確認すると「明日時間あったら新曲ちょっと合わせよーぜ」とメールが入っていた。「無理、明後日ミニゲームだから」そうメールを返すと「んー了解、練習とミニゲームがんばれよ!」と再び返信が来た。なんだかんだで、バレーも応援してくれるんだよな…。
バレー頑張って、ギターも頑張ろう。バレーしか頭に無かった俺が、バンドと両立できるのは奇跡的だし、また仲間にも恵まれてるんだな、なんて思った。

「清水も最近会ってないよな…」


一人別の高校に行ってしまったメンバーを思い出す。千種と斎藤はしょっちゅうあってるらしいけど、俺は時間合わなくて全然会えてない。でも、メールはよくしてくれる。「今度、ミニゲームするんだって?がんばれ」短いメール、それを毎日してくれる清水。


「……なんか、」

全員で集まって、弾きてぇな…なんて思ってしまった。





◇◆◇



別に、隠しているつもりではない。明日ミニゲームだというのになんで俺は、学校に行くのにギターを担いでいるのだろう。朝早い時間、誰も居ない通学路を不審者の如く素早く歩く。怪しさ満点だ。「…あれ、影山?」びくり、身体が揺れた。俺を、呼ぶ人…ゆっくりと振り返ると、色素の薄い髪の毛…菅原さんが居た。

「どうした、端から見てすげー不審者だったぞ?」
「あ…いや…」
「あれ、影山…その背中のヤツ…もしかしてギ」
「失礼しまっス!!」

俺は逃げた。別に悪い事をしているわけではないが、どうもこれをバラす気にはなれなかった。特に、部活の連中には。「おおい!?影山ぁー!?」と声を上げたが形振り構っていられなかった。ダッシュ、学校着いたら速攻ロッカーにギター突っ込む。んで合わせる時以外はぜってぇ出さない。心に誓う。










「ギター…やってんのかなぁ影山…」
「…あれ、スガさん何やってんスか?」
「田中、おはよ。お前明日勝てよ」
「え?そりゃああいつら頑張ってるから勝ちに行きますけど…」
「負けたら影山、入部すらしないかもな」
「は!?」

走り去る時、すげー大事そうに抱えて逃げたもんな…結構がっつりやってんのかな…。俺は呟く。軽音あたりに優秀な部員持ってかれるのは辛い。「マジ田中頑張れよ」「な、なんだかわかんねぇッスけど頑張ります」いやマジ頑張れよ田中。
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