▽メリークリスマス!な話



冬期休みに入る学校。京治は毎日部活があるようだけれど私は帰宅部で、冬休み中学校に行くということは無い。態々電車乗って学校に行くのもなぁ、なんて思う。京治はいつでも部活を見においで、とは言うけれどやっぱり部外者がちょこちょこ出入りするのはどうかと思う。いつもやんわり断ると、京治は少しだけ不満そうな表情を浮かべるのだ。


「あっれー?みょうじちゃんじゃーん」
「雀田先輩?」

街中を歩いていると、バレー部のマネージャーの雀田先輩に出会う。両手には袋。「バレー部の買い出しですか?」と聞くと、うん、と頷いた。


「白福先輩は今日は一緒じゃないんですね」
「あー、あの子?どっかしらには居るよ…」

また試食巡りでもしてるんじゃないかな。なんて雀田先輩が遠い目をした。白福先輩ってば相変わらずなんだなぁ…なんでいっぱい食べるのに、あんなにスラッとしてるんだろうか…。羨ましい。

「よかったら見学おいでよ。赤葦だって喜ぶよ」
「え、でも…」
「いーから!ほら」

背中を押され学校へ続く道を歩く、途中お菓子を腕いっぱいに抱え込んだ白福先輩と遭遇して雀田先輩と乾いた笑いをあげた。




▽△▽



「なまえ?」
「お、お邪魔してます」

最終的には両脇を先輩に持ち上げられ、体育館に連行された。丁度休憩中だったらしい赤葦と目が合う。あははは…と私は微妙な笑みを浮かべた。

「どうしたの、俺が誘ってもいつも来てくれないくせに冬休み中に」
「先輩方に街中で捕まって」

ぶいっ、と雀田先輩と白福先輩がピースをした。ふぅん…と京治は納得する。ぽんぽんと頭を撫でられる。

「雀田さんと白福さんに感謝しないと」
「えっ」
「だってこのまま休み中会えないところだったじゃん」
「…そう、だね」

「あ、そうだなまえ」と京治が口を開いた時、京治の身体が前のめりになった。思わず私は後ろに下がる。背中に乗って京治の首に腕を回しているのは木兎先輩だった。「よー!みょうじ見学かー?」と京治の上に乗っかったまま乱暴に私の頭を撫でる。うーぐしゃぐしゃ…。

「木兎さん退いてくださいぶん殴りますよ」
「そこまで怒んなくていいじゃん!なに赤葦、みょうじの頭撫でたのが駄目だった?」
「いや普通に重いんですけど。アンタ全体重俺に乗っけてるだろ」
「足宙に浮いてるしィ?」
「振り落とします」
「今降りまーす」

京治の背中から降りた瞬間、木兎先輩の頭に拳がめり込んだ。あー…、スローモーションで床に倒れ込む木兎さん。

「京治、手大丈夫?」
「このくらい慣れてる」
「ちょっと待って!?みょうじ俺の頭の心配して!赤葦本気で殴ったよな!?」
「やだな木兎さん、今のが本気なわけないじゃないですか」
「…あれ、命の危機を感じる…」

いつもの事だから慌てない慌てない。最初こそは吃驚したがこの光景にも慣れてきた。




「いやー…今のはみょうじちゃんの頭撫でた木兎に嫉妬しての事だと思うよー…」
「赤葦って見かけによらず心狭いよね」
「みょうじちゃんに関しての事だけだけど…ってアンタいい加減食べるの止めなさい」
「デパ地下で買ってきたチョコ食べる?」
「いつの間にそんなものを…」

雀田先輩と白福先輩がこんな会話をしていたとは露知らず、私は「京治京治、それ以上やると流石に木兎さん可哀想」と京治を宥めていた。



さて、京治とは話もしたしお暇しようかと思ったら「今日そんなに遅くならないから居て、一緒に帰ろ」と京治が言った。少し迷ったけど、今度いつ会えるか分からないし、もしかしたら年明け後かもしれないから、私はうん、と頷いた。

「さ、木兎さん練習再開しますよ」
「おー!…ってなんか赤葦の方がキャプテンっぽくない?」
「何言ってんですか、早くやりますよ」

練習風景をじーっと見つめていても、なんだかやっぱり居心地が悪くて私は雀田先輩と白福先輩のマネージャーの仕事を手伝った。…バレーしてる京治かっこいいなぁ、なんて横目でちらちらと見ながら。



「やーっぱ赤葦調子いいよなぁ」
「そりゃなまえちゃん居るからでしょ」
「木葉、下の名前呼んでるの赤葦にばれたら殴られるぞ」
「いやいやそこまで赤葦も心狭くないだろ。それにしても、マネに更になまえちゃんが加わるといつもより更に花があるよなぁ…」
「おい、木葉」
「ずーっと眺めてたいっていうか」
「おい!木葉!」
「なんだよ猿く…」

「練習、してください」








「…ん?」
「どうしたのみょうじちゃん」
「なんか今叫び声が…?」
「まーた木兎が何かやらかしたんでしょ」
「いや…木兎さんの声っぽくなかったような…気のせいかな…」




▽△▽



その日の部活が、まだ日が出ているうちに終わり先輩達にお辞儀をして私は京治と帰り道を歩き始めた。

「なんだかんだでなまえがバレー部見にくるのって初めてだったよね」
「京治がバレーしてる姿、結構見てるんだよ?」
「え、いつ」
「放課後ちらっと体育館覗き込む時とか。割と頻繁に」
「なら声掛けてよ」
「邪魔になっちゃうでしょ」

そんなこと、全然ない。と繋いだ手に力が込められた。ふふふ、私は笑みを浮かべる。子供みたいにむすっとする京治は何処か可愛らしい。


「ああ、でさ。さっき木兎さんに邪魔されて言えなかったんだけど」
「うん?」
「25日、何処かで掛けよう」
「…えっ」
「嫌?」
「嫌じゃない。でも部活無いの?」
「彼氏が居る雀田先輩と、この前彼女が出来たって騒いでた木葉さんが休みもぎ取った。俺も同意したんだけどね」
「雀田先輩の彼氏…!あれ、白福先輩は」
「同級生とパーティするって言ってたかな」

白福先輩も彼氏居そうなのに…!「なんか、仲良い異性入るけど付き合うまで発展しないんだって。大方あの人の行動のせいだろうけど」なんて赤葦が遠い目をした。あの人の食い意地ほんとすごいから。その言葉に何か納得してしまった。

「白福先輩、パーティ中ひたすら食べてそう」
「まぁ、そうなると思うけど」

あれで太らないのだから本当に羨ましい。


「ってことで部活は休みだから」
「じゃあ遊び行きたい!イルミネーション見たい!」
「目に痛いやつね」
「雰囲気壊す事言わない!」
「ごめんごめん、いいよイルミネーション。あとはどこ行く?」
「京治はどこ行きたい?」
「どこでもいいよ、なまえと一緒なら」
「私も京治と一緒ならどこだって良いよ」

お互い似た者同士。こうなると中々決まらないんだよね。「ま、街をぶらぶらして何処か気になったらお店でも入ろうか」なんてゆるーく計画を立てる。


「じゃあ、後で連絡するね」
「うん!またね京治」
「またねなまえ」

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