「どうしよう…」

クリスマス当日、ベタなことに服が決まらない。昨日の夜のうちに考えたコーディネートをいざ着てみるとなんか違うなー、なんてタンスの中身をひっくり返し始めた。時間にはまだ余裕がある。でも心の余裕がない。うわぁああん!と半泣き状態の私。トントン、と部屋をノックされる。弟が部屋に入って来た、凄く寝むそう。


「ねーちゃんデート?」
「う、うん…でも服が決まらなくて…」
「ねーちゃんあんまり派手なの似合わないからさ、これとこれ組み合わせて、あとこの前買ったコートあっただろ、あれ着れば?」




「わぁ…流石」
「ん、良い感じ」

弟のセンスに脱帽する。「ふぁー…ねっみー。俺二度寝する…」なんてだらだらと部屋に戻る弟に「ありがとう!お土産買ってくるからね!」と言うと無言で手を振られた。弟、出来た子…!


「あ、ねーちゃんネックレス禁止。付けるならブレスレット」
「…なんで?」
「なんとなく予想出来てるから。いい、ネックレス禁止」
「はーい?」





▽△▽



待ち合わせ場所でそわそわと京治を待つ。服、変じゃないかな。でも弟が選んでくれたものに間違いは無いのだ。でも、なんでネックレス禁止…?うーん、と首を傾げていると京治が駆け足で近付いてくるのが見えた。私は手を振る。


「ごめんなまえ、待った?」
「ううん、今来たところだよ」

あまり見慣れない京治の私服姿にどきっとする。

「なまえ、可愛い」
「ぅえっ!け、京治もかっこいいよ!」

これね、悩んでたら弟が見立ててくれたんだよ。というと「へぇ…」と感嘆を漏らした。「相変わらず、弟君はセンスいいよね」なんて言う。

「実はこの服、ふらっと店を見てたら偶然通りかかったなまえの弟君に「赤葦さんならこれと、あとこれが似合いますよ」って進められて。一瞬店の人かと思ったよ」
「あの子一体…」

姉とその彼氏のコーディネートが弟で、そのコーディネートでデートする私たちって…。「ま、弟君には感謝して行こうか」と手を取られる。


「ふへへ…」
「なに、その顔」
「んーん!京治と出かけるって珍しいから嬉しくて」
「部活忙しくてごめん」
「いいの、バレーやってる京治すきなんだから」

真剣にボールを追いかける姿が好き、トンッと静かにボールをあげる姿が好き。たまに見せる嬉しそうな顔が、だいすき。
笑ってそう言うと京治は顔を赤くして私の頭を撫でた。

「あんまり、そういうこといわないで」

言われると、結構恥ずかしい。そういう京治が可愛くて思わず抱きついてしまった。





▽△▽



「…目が、しょぼしょぼする」
「こら京治」

思う存分街を練り歩いて、すっかり日が暮れる。イルミネーション!イルミネーション!と駆け出す私を、薄目で見る京治。そんなに、眩しいかな…。

「すごいねー!すごい綺麗!」
「…目、慣れてきた」
「それはよかった。これ、電気代いくらかかるんだろうねぇ」
「こらなまえ」

それ人の事言えないだろ、なんてぺしんと頭を叩かれた。だってやっぱりちょっと気になるよね。


「けいじー!こっちもすごいよー!」
「はいはい。あんまり一人で遠く行かないでよ」

だって、なんかテンションあがっちゃうんだもん!きらきら輝く光が、星みたいで。暫く歩いていると、人気が少なくなってくる。電気も少なめで。「京治、ここなら京治の目にも優しいし電気の消費も優しいよ」と京治を手招きする。

「電気の消費が優しいって…。でも、うん。こっちの方が鬱陶しくなくて良いね」
「もー、京治ってばそればっかり」

まぁ確かにちょっと眩しすぎる気がしたけどね。人気もいないし、私は持ってきたバッグの中から袋を取り出す。

「京治メリークリスマス!」
「え」
「まぁ…大定番のマフラーだけど」
「嬉しい」
「ふへへ」

ちなみにこれを選んだのは弟でした。「ねーちゃん趣味悪い。赤葦さんは絶対こっち」なんて怒られた。悔しいけど、やっぱり弟のセンスの良さに私は負けてしまう。きっと京治も察してるんだろうなぁ。なにやら温かい目を向けて私の頭を撫でる。


「俺からも、これ」

小さい袋を渡される。なんだろう「開けていい?」と聞くと京治はこくんと頷いた。


「ネックレスだ…!」
「安物だけど」
「ううん、可愛い!ありがとう!」


薄ピンクの石が付いた、リング型のネックレス。これ、指輪にもなるやつだ!ぎゅっとネックレスを握り締める。


「一生大事にする」
「え、それ一生大事にされたら困る」

え?と首を傾げて京治の顔を見る。


「ちゃんとした指輪、あげるつもりなんだから。それで満足しないで」
「……は、はい…」

顔が熱くなる。京治も顔が真っ赤で。なんだが凄く恥ずかしくなって京治に抱きつき顔を押し付けた。

「ううー…」
「この体制も、若干恥ずかしい」
「知ってるぅぅう…」

ほら、なまえ。と京治に名前を呼ばれて顔をあげる。京治の大きな手が私の頬を掠めて後頭部に回る。

「…ん」

口と口が重なる。恥ずかしいなぁ、なんて思いながら京治の服を握りしめる。暫くして、口が離れる。顔を見ないまま、京治に抱きしめられる。

「なまえ」
「うん?」
「すき」
「私も、だいすきだよ」


ふふ、私はめいいっぱい京治に抱きついた。



title by 静夜のワルツ


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