春の訪れを待たない桜



【天童栞の話】


「若利君に近づくなってどういうこと?」

そんな事を聞くお兄ちゃんにボディーブローを食らわせる。もう、なんでどいつもこいつも鈍感なの…。「ちょ、お兄ちゃんマジで死ぬからやめて…」とお腹を押さえるお兄ちゃん。そのまま沈んでしまえ。

「悔しいことに」
「うん?」
「本条さんが若利さんが好きじゃないって言ったの」
「…え?本条さんに若利君好きじゃないって言われて悔しいの?」
「死んで」
「流れる様に暴言吐かないで!」

あまりにも気持ち悪い事を言うからじゃない。ちょっとお兄ちゃんそこに正座して最後までよく聞いて?もし何か変な事言ったら踏みつぶすから。というと、静かにそこに座った。

「本条さんね『あの人の名前、白布君の口から良く出るから好きじゃないのよ』って言ったの」
「本条さんが若利君に嫉妬…!」
「黙りなさい踏みつぶすわよ」
「……」
「ほんと、悔しい。白布賢二郎が若利さんと仲良くしようが何しようがどーだって良いけど、それ見て悲しむ本条さんは見たくないし」
「悲しむほどの顔はしてないんじゃないかな…本条さん」
「ほんと悔しいけど、私が本条さんにしてあげられることは白布賢二郎に『若利さんに近づくな』って言うことだけだし…でも『は?なにこいつ?』みたいな表情向けられるし?なんなのまったく!ほんとムカつく!!」
「そりゃ、誰だってそうなるよ…」

だーかーらー!みんななんでそう鈍感なのよ!!もう!!地団駄を踏む。「栞、1個良い?」というお兄ちゃんに、顔を歪ませながら「どうぞ」と答える。



「えーっと…本条さんって、白布君の事好きなの?」
「は?」
「あ、ゴメンナサイなんでもないですゴメンナサイ」

しらない。知るわけないじゃない。でも、前よりずっと柔らかい雰囲気で、楽しそうにする本条さんは素敵で。その理由が白布賢二郎というのは心の底から不愉快だけれど。でも、そうだ。本条さんが嬉しそうなら


「…やっぱ許すまじ白布賢二郎」
「心狭いねぇ栞は…いぎゃあ!!」

五月蠅いお兄ちゃん再起不能になってしまえ。





◇◆◇



【天童覚の話】


「もしさぁ、白布君。自分の彼女が自分の知り合いに嫉妬したら、その人と縁を切る?」
「…はぁ…?」

部活が終わり、白布君にちょっかいを出す。栞のご機嫌を損ねるのはあまりよろしくないが、こっちはこっちで面白そうなのだ。やっぱり面白いことには首を突っ込まなくちゃね。少し悩んで、白布君が答える。

「そう簡単に知り合いとは縁切れませんし、それなら彼女を今まで以上に甘やかせばいいんじゃないですか?」

いや、俺の彼女の話じゃない。いいんじゃないですか?じゃないよ。でも、白布君らしからぬ答え。うん、面白そう。

「白布君は今まで彼女居た事ある?」
「は……あー…?」

何その曖昧な答え。え?何人もあるってこと?ちょこっとの殺意。「いや…うーん」と首を傾げる白布君の言葉を待つ。


「なんか、付き合ってくれとは言われたことあるんですけど、もしあれが『付きあってる』って事なら、俺と本条は付き合ってるってことになるなー…と思いまして」

惚気かよ、と暴言を吐きたくなった。が、当本人淡々と喋っている。色々言いたい気持ちを抑える。「どーいうこと?」と聞くと白布君か顔を顰めた。


「一緒に帰ったり、何処か寄ったり。それくらいしかしてませんでしたけど」
「わぁ、中学カップル可愛い」
「でも、そんなの本条とだってしてましたし。塾帰り、途中まで一緒に帰ったり、朝の走り込みで一緒に居たり」

ちょっと前まで中学生だった白布君舐めてたわ。初々しさで俺が死にそうだ。殺意わいたとか言ってごめん白布君。そのままピュアでいてよ。とても和やかな気持ちになった。ていうか朝の走り込みって。

「寒そうにしてる本条に俺のマフラー巻いてやったこともあったし…」
「もうヤメテ!君ら可愛すぎて俺が死ぬ!」
「は?」
「俺白布君気に入ったからフレンドリーに賢二郎って呼ぶね!」
「え」


賢二郎と本条さんの恋の行く末を温かく見守ると決めたよ。おにーちゃん手は貸さないから栞、邪魔するなら一人で頑張ってね。



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初々しいカップルってあれですよね、見てるこっちが恥ずかしいですよね(胸きゅん)

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