消える間際の流れ星



【天童兄妹の話】


家に帰る。とりあえず勉強、勉強しかできない私はひたすら勉強をする。成績は、落とせない。意地でも成績は落とさない。着替えないまま、制服で机に向かう。参考書を机いっぱいにばら撒く。

「あのひと、だれ」

放課後、楽しそうに教室を出て行った本条さんを追いかけた。行きついた先は普通科の教室。教室前の廊下で楽しそうに会話をする本条さんと知らない人。朝、本条さんと一緒に登校してた人。
手に持ったシャープペンを握り締める。朝のホームルーム、担任が外部新入生の話をした時本条さんは嬉しそうな顔をしていた。多分、あの人なのだろう。外部からということは、学校で知り合ったわけではない。ご近所さん?幼馴染?幼馴染ならもっと前から本条さんの性格が明るくなっているだろう。本条さんが、すこし柔らかい雰囲気になったのは、3年から。受験…塾?そういえば本条さん塾に通っているって話。じゃあ、そこで知り合ったのかな。ずるい。私も、本条と同じ塾に行きたい。

ただいまー!と玄関から声が聞こえた。バッと机にある時計を見るといつの間にか時間が流れていた。ぐぅ、とお腹が鳴る。お母さんもお父さんも今日は遅いって話だった。お兄ちゃんのご飯の用意、してないや。私は部屋を出てリビングへ向かう。

「おかえりお兄ちゃん。ごめん、ご飯今から作る」
「んー」

ソファーでごろごろするお兄ちゃんを横目に、キッチンの電気を付ける。「なーしおりぃーアイスあるー?」なんて聞くお兄ちゃんに「ないよ!」と返す。昨日最後の1個自分で食べてたじゃない。冷蔵庫を開け…卵、もうオムライスでいいよね。面倒だし。卵と冷凍してあったご飯を取り出す。レンジにご飯を入れてフライパンを用意する。

「ふふふーん」
「楽しそうだね、お兄ちゃん」
「おー!新入部員入って来たし。若利君の大ファンの子」

ふと、思い出す。お兄ちゃんの部活はバレー。担任の朝の言葉。バレーがしたくて、白鳥沢に。

「お兄ちゃん、新入部員に外部新入生で、スポーツ推薦じゃない人っている?」
「ん、若利君の大ファンの子がそうだけど」

いやー、ファンって言っても結構上手いし、英太君も結構感心しててさー!そんな言葉は全て流す。ぐしゃり、卵が潰れた。

「お兄ちゃん」
「どうした?」
「それ誰。名前」
「へ?」
「その若利さんの大ファンの1年!名前!」
「し、白布賢二郎君だけど」

ふぅん、白布賢二郎、ね。そういえば今朝去り際に本条さんが「白布君」って呼んでいた気がした。すっかり忘れていた。

「なになに、どーしたの栞」
「本条さんと仲良しなの。その人」
「あー…ナルホド。そういやいつだったか、白布君とその本条さんが体育館来てバレーの見学来てたなぁー。あんときちょっと騒ぎになったから」

女王様、高等部でも有名だからねー。そんなことを言うお兄ちゃんが少し鬱陶しかった。当たり前じゃない。本条さん、白鳥沢に入ってからテスト模試その他試験全部満点以外取ったことがないんだもん。白鳥沢始まって以来の天才、なんて言われてる。名前だけなら知らない人はいないくらい、有名人。

「つーか栞、まだ本条さんと仲良くなってないの?3年間一緒で…今年も一緒?」
「今年も一緒に決まってるでしょ!なんの為に毎日猛勉強してると思ってるの!?」
「…そんな怒鳴らなくてもぉ…」
「そ、そんな軽々しくお話しできる人じゃないし…」
「あれでしょ?若利君と同じタイプの人間でしょ?なら話してみるとわりと話しやすかったり、面白かったりするよ多分」

なははは!と笑うお兄ちゃん目掛けて卵を投げつけた。「うぇえええ!?なまたまごー!!?」ぐしゃっという音とともに叫び声が上がる。「うるさい近所迷惑!!」「理不尽!!」何が理不尽だ。私の方がよっぽど理不尽だ。本条さんと3年間も同じクラスで、なのにいつから知り合いだかもわからない男に先を越されるだなんて!

「私、お兄ちゃんみたいに能天気じゃないから本条さんに気軽に話せないもん!ていうか運動馬鹿なだけの若利さんと本条さん一緒にしないでよ!」
「なにそれ!?若利君確かにバレー馬鹿だけどさ!!あと能天気って!栞おにーちゃんの妹でしょ!?」

本条さんも勉強馬鹿でしょ!?なんて言うお兄ちゃんに第2投を投げつけようとして逃げられた。「お、お、お風呂入ってくる―!」と廊下から声が聞こえた。
まったく、私はフライパンの上に溶いた卵を敷く。ふん。冷え切ったオムライスでも食べれば良いよ。ご飯に味付けなんかしてあげない。白米に卵乗せるだけのオムライスにしてやるんだから。



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天童栞
天童覚の妹。本条厨
いつもくだらないことで兄と口論する。ただし一方的に。よく物を投げつける。覚とは似ても似つかない。若利とは一応顔見知り。

ギャグにするつもりは本当になかったんだ(言い訳)

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