結末だけは知っていた



「……お、おはよう白布君…」
「…おはよう、琴葉と…天童お前何してる」
「私?本条さんに抱きついてる」


本日邂逅一番の琴葉に余計なものが付属していた。「そんなオプションはいらない」と琴葉の腰に腕を回す天童を引き離そうとする。「ちょっと、私に触らないでよ」伸ばした手を思いっ切り叩き落とされる。…こいつ…べーっと舌を出す天童になんとか怒りを抑える。大丈夫だ、この程度で怒るほど俺は短気じゃない。

「つーか天童、俺琴葉と一緒に学校行くんだけど」
「私もご一緒していいですか本条さん!」
「えーっと……?」
「駄目に決まってんだろ」
「あんたに聞いてないわよどっか消えろ」
「琴葉の前でそんな暴言吐いていいのか?」
「ありのままの私を見せるって事で纏まったわ。本条さん本条さん、私も琴葉さんって呼んでいいですか?あ、琴葉ちゃん?」

え。と身体を固まらせる琴葉に俺は笑う。お前、若干引かれてるぞ。なんて思っていたら「…琴葉ちゃん…まるで天童先輩の様に呼ぶのね…」という琴葉に今度は天童が身体を固まらせた。


「でも、女の子にそう呼ばれると、なんだかくすぐったいわね」

そう言いながらなんとなく嬉しそうに笑う琴葉に、天童は顔を赤らめ…って何だよこの光景は。ちょっとイラっとしながら無理矢理琴葉と天童を引き剥がした。


「天童、お前いい加減に」
「白布のくせに邪魔するな」

飛んできた拳を手のひらで受け止め、そのまま掴む。「あんた私に触ってんじゃないわよ…!」「お前こそすぐ物理で仕掛けるのやめろ!」言い合う俺達に「相変わらず仲が良いわね」なんて言う琴葉。何処をどう見たらそういう言葉が出てくるんだお前は。

「ていうかほんと離しなさいよ!子供出来るでしょ!?」
「お前俺をなんだと思って…!」
「ケダモノ。とうとう琴葉ちゃんに手を出して…!」
「…俺だって怒る時は怒るんだからな」
「やってみなさいよ…!私の物理攻撃なめるんじゃないわよ!」
「だからお前女子としてそれはどうかと思うぞ…」
「白布君白布君、天童さ…えっと…栞さんの照れ隠しだからそれ」
「この場面で何を照れ隠しするんだよ…!」
「琴葉ちゃんが私を名前呼び…!」
「お前は幸せそうでいいな…」

誰か収拾付けてくれ…。そう思っていると「まぁ、琴葉ちゃんの名前呼び戴いちゃったから今日は見逃してあげる。ね、『白布君』?」と挑発の笑みを浮かべる天童に本気で殺意がわいた。「じゃあ琴葉ちゃん、先に学校いってますね!」と気分良さげに天童は歩いて行った。嵐が去った、と俺は安心する。


「あら、一緒でもよかったのに」
「やめろほんとに」
「ふふっ、栞さんと一緒に居る白布君って本当に面白いわね」

「私と一緒に居る時と違って、ぞんざいに振り回される白布君面白いわ」なんて迷惑極まりない事を言われた。まぁ、琴葉と居る時あんなに声を荒げないしな、荒げる必要が無い。「俺はあいつ相手にしてるとすごい疲れるよ…」そう言うと琴葉はまた笑った。








◇◆◇




捕られた手、指を絡めながら朝の通学路を私と白布君で歩く。まだ早い時間で人通りは少ない。私は兎も角、白布君はこういうの見られるの嫌そうね、なんて思った。

「それで白布君」
「、なんだよ」
「何をそんなにむくれているのかしら」

頬を突いてみると「やめろ」なんて少し顔を赤らめて言う白布君がなんだか面白くて、笑いが込み上げてきた。そんな私にむすっとした表情で腕を伸ばし、私の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。


「ちょっと、白布君髪の毛がぼさぼさに」
「琴葉」
「なにかしら?」
「俺の」
「?」
「俺の名前憶えてるか?」

あら、私は指を自分の口元に近づけた。じっと白布君を見つめると、何を勘違いしたのか「…まさか、憶えてない、とか?」なんて少し不安そうな顔をした。忘れるわけないでしょう、こんな身近な人の名前を。

「賢二郎」
「……は」
「あら、お気に召さない様ね?」
「い、いや…というかいきなりランクアップしたな」
「ランクアップ?」
「賢二郎君って呼ばれるかと思った」
「そっちの方が良い?」
「…いまので、いい」
「ふ、ふふ」
「なんだよ」

賢二郎、今の自分の顔どうなってるのか分かってないんでしょうね。絡めた指をそっと離し、両手で賢二郎の頬を包む。冬のあの時みたいに、温かい頬…むしろ熱いのかしら。


「顔、真っ赤」
「な」
「なまえで呼んだだけなのにね?」
「琴葉おま」

賢二郎の胸ぐらを引っ張り背伸びをした。そのまま顔を近づける。



「……」
「ふ、ふふふ。賢二郎ほんと顔真っ赤」
「…るさい」
「声も小さい」
「あんま調子のんなよ琴葉…」


笑いながら、跳ねるようにう私は歩きだした。

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