両想いのまぼろし



天童…いや、ここに居る全員にとんでもない爆弾を落としキョトンとする本条に俺は何と言えばいいのか。天童が、牛島さんを…?その言葉をかみ砕くほどに理解が出来ない。「それは天童さんの精一杯の照れ隠しなのでしょう?」いやいや、照れ隠しにしては暴力的すぎるだろ。
「さて、邪魔者は退散するねー!」と天童さんは走り去ってしまった。色んな意味で気まずすぎる。「…本条、取り敢えず一緒に帰るか」そう言うと「ええ」と本条は笑った。

「あら、そういえば白布君部活は?」

やっぱりボケてるんじゃないかと思うんだけど、今更ながら本条よくわからない。はぁ…溜息を吐いて、俺達は歩き始めた。





「ねぇ白布君」
「…なんだ?」
「さっきの告白」
「……」

くるよな、そりゃあその話来るよな。俺は下唇を噛む。「好きって言われたけど、なんだか崇拝されている気分で少し微妙な気持ちになるわ」って天童の事かよ。白い目を本条に向ける。いや、本条は何も悪くない。最早呪いかと言いたくなる天童の存在。



「天童は…」
「うん?」
「俺の邪魔をすべく俺に付き纏い、この前本条が手を握った瀬見さんにも睨みを利かせて、牛島さんに対する呪いの言葉をつらつらと。天童兄は天童妹のサンドバックで。この前なんか、本条さんに手を出したらバレー出来なくなるようにしてやる。なんて呪いの言葉を吐いて」
「あらやだ、私愛されてるのね」
「…その反応はどうかと思うけど」

一方通行かつ傍迷惑な話だ。まったく…。「そういうのひっくるめて、天童さんと仲良くしているのだと思っていたわ」やめろ、そういう勘違いやめろ。1mmたりとも仲は良くない。


「俺は、」
「なに?」
「お前に勘違いされてるんだと思ってた。天童と同じで」
「私より、楽しそうに話すお友達がいるんだもの。あの子と一緒の方が楽しいわよきっと」
「馬鹿じゃないのか」

ほんと、馬鹿じゃないのかお前。俺はな


「俺はお前と一緒に居て、つまんないなんて思った事一度もないし、お前自体つまんない奴だなんて思った事ないよ。なんだよ、そのネカティブは。俺は本条と一緒に居たいから、一緒に居たんだ」
「、そう」
「それをこの前の「天童さんはいいの?」ってお前。それはないだろ」
「…私が、わるいの?」
「…、俺が、悪いか」
「いえ、そういうつもりで言ったんじゃなくて」

いや、俺が悪かった。いつだって天童を振り払って本条のところへ行く事は…多分出来た。殴られたり蹴られたりしても、振り切って行けばよかった。


「お前、昼飯とか一人だったもんな」
「最近は天童先輩と牛島さんと一緒に」
「…そーだったな」
「あら」

ふふ、っと本条は笑った。なんだよ、俺は突然笑いだした本条を見る。楽しそうだった。なにが、そんなに楽しいんだよ。こっちは、その話聞いた時酷く焦ったというのに。


「嫉妬?」
「そーだよ、」
「ふふ、白布君の嫉妬って分かりやすいのね」
「はぁ!?」
「でも私の嫉妬には気づかないのでしょう?」
「だって、お前天童には嫉妬してないんだろ?お友達、なんて言って」
「私、なんで牛島さんが苦手か気付かない?」
「は」
「高校入って牛島さんの話ばかり、するのだもの。楽しそうに」
「…は、」
「私の事、鈍感だって言うけれど、白布君だって大概よ?」

そう言って本条は駆けだした。髪が揺れた。俺は追いかけずに、伸ばした手は宙を切った。男の牛島さんに、嫉妬心抱かれてもとても複雑だ。でも、聞いてしまうと「ああなるほど」と納得してしまった。なんだ、馬鹿ばっかりじゃないか本当に。
少し前を歩く本条に、俺は口を開いた。


「琴葉」
「――え」

琴葉が振り返る。驚いた表情。名前なんて、呼んだ事なかったよな。なんて少し気恥ずかしくなる。



「俺は、琴葉と一緒に居る時間が一番好きだよ」

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