また春になって世界は巡る



少し気まずそうな顔の白布君と、なんとなく面白そうな顔をする天童先輩。奥には顔を引き攣らせて私を見る天童さん。なんとも…不思議な光景で。「あら、さっきぶりね白布君」私はそう言うと「お、おう…」と硬い表情で言葉を返された。「白布君、さっきの」と声を出したところで白布君と天童先輩が吹っ飛ばされた。

「…え」
「本条さん…!」

目の前には私の手を握る天童さん。天童さんが視界を遮って様子は窺えなかったけれど「おい、天童てめぇ…」と白布君の低い声が聞こえた。目の前の天童さんはそんな声も全く気にせずに、私の目をじっと見つめた。私は首を傾げる。


「あ、あの本条さん!」
「は、はい…?」
「誤解なんです!ぜーんぶ誤解なんです!」

必死に何かを弁解する天童さんに私は更に首を傾げるばかりで。なにが、誤解なのかしら…。ぎゅっと私の手を握る天童さんの、次の言葉を待つ。揺れる目、天童さんはゆっくりと口を開く。


「私よく白布の馬鹿のところに行ってますけど、別に好きだからとかではなくてですね」
「ええ、存じてます」
「だから、彼氏彼女という関係でもなくてですね」
「ええ、白布君と天童さんは仲の良いお友達でしょう?」
「え、はい…はい?いえいえ違いますけど!お、お友達!?あの馬鹿と!?ないないないない!絶対ないです。あれもこれも全部私の敵です。いやそうではなくてですね!?」

肩を掴まれ、ゆらゆらと身体を揺らされる。「おい天童、やめろ」と白布君が言うけれど天童さんは聞く耳を持たなかった。「あ、あれ?」天童さんも首を傾げた。


「あれ…?本条さん、なにか勘違いをしていたのでは…?」
「勘違い?」
「ええ…お、お昼一緒に食べてるとか…」
「あら?一緒に食べてるのでは」
「…一緒に、食べてますけど…いや、そう言うあれではなくてですね…?あ、あれ…?」

互いに首を傾げる。少しだけ噛み合わない話。勘違い、そもそも勘違いをしているのは…


「…つかぬ事をお伺いいたしますが」
「…はい、どうぞ」
「私と白布馬鹿が」
「おいさっきから馬鹿馬鹿言うな、馬鹿天童」
「うっさい黙りなさい。…私と馬鹿が付き合ってる…なんて勘違いをして…」
「…?ないですけど」
「えっ」
「え?私より白布君と仲がよさそうだな、なんて思いはしましたけど…そんな勘違いは」

「え、あ…そ、そうなんですね!よかったー…なんだ…私の思い違い…」なんて天童さんは安心したような声を上げた。何処をどうして、私が『白布君と天童さんが付き合っている』なんて勘違いをしたと思ったのかしら…。ふと、視界の隅にぎりぎり入った白布君の顔を見た。白布君も、何故か少し驚いたような顔をしていて…なによその顔。もう、誰も彼も意味が分からないわ。ふぅ…私は息を吐く。


「白布君が私に好意寄せているのは、なんとなく知っていましたし」
「…は」
「…何故、白布君が驚いているのかしら」
「お前超鈍感じゃないか」
「白布君に言われたくないわ」

どっちもどっちだと思うんだけどなー。なんて天童先輩の声が聞こえた。私、鈍感なのかしら。首を傾げる。









「それに、天童さんは牛島さんの事が好きなんじゃない」








「…は、」


「え?」と白布君と天童先輩の驚いた声も聞こえた。え、何をそんな驚く事が…?ふらり、天童さんが私の肩から手を離し後ずさった。ここで漸く3人全員の姿が私の瞳に映った。…なんで、みんなしてそんな表情をしているのかしら…。


「は、ははははは…な、何言ってるんですか本条さん…わ、わた…私が若利さんの事を好き?なんとおぞましい…!私が好きなのは!本条さんです!」
「あら、ありがとう。でも男性としては牛島さんの事、好きでしょう?」
「…あ、あの…わた、私の話を聞いてくださ…」
「あら、違うの…?」
「ち、ちがい…ま」

「わ、私が好きなのは本条さんですぅううう!!」そう大声で叫び、天童さんは走り去ってしまった。あら、速い。あっという間に影も形もなくなる。ああも好意を寄せられると…少し考えるところがあるわね…。「…本条…」白布君が呆れた声で私を呼んだ。「なにかしら?」私は白布君の顔を見る。


「流石に、天童が牛島さんを好きってことは…無いだろ…」
「え、どうして?」
「寧ろ俺が聞きたい。本条知らないだろうけど、アイツ牛島さんに暴言吐いたり、物理攻撃仕掛けたり結構酷いぞ」
「あら、そう。それはきっと照れ隠しなのよ」
「お前やっぱり…」

鈍感…じゃないな、なんかズレてるよ…と遠い目をした白布君に「失礼ね」と言葉を掛けた。ふと、静かな天童先輩に視線を向ける。何か、考えているようで…「…琴葉ちゃん」深刻そうな声で私の名前を呼ぶ天童先輩に「何でしょうか?」私は答える。



「琴葉ちゃん、意外と…」
「はい?」
「だって…」

俺、栞があんな真っ赤な顔してるの初めて見たもん…。そう言う天童先輩に白布君は目を見開き「え…?」と声を零した。だから、何をそんなに驚く事があるのかしら。




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本条さんはとんでもない爆弾を投下してしまいました

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